舞台上の観客 | ナノ
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「そういえばお前、まだ爪に塗ってないのか、うん」
「爪…?ああ、そういえば暁の皆さんは全員…」
「俺が塗ってやるよ」
「だ、大丈夫ですよ、わざわざサソリさんの手を煩わせなくても…」
「いや、だってお前、」


そこでサソリさんが軽く吹き出して、真顔を崩れさせた。


「さっきの粘土から、して、名前、お前は、不器用らしいから、な」
「ぶふっ、た、確かに、旦那の言う通りだぜ。名前、おいらも手伝って、やるよ」
「…サソリさんもデイダラさんも、笑いたいならちゃんと笑ったほうが良いかと…」


再び、笑い声が響いた。




――二人の手を煩わせてしまってすいません、と、私の手と足の爪に紫色を塗っていくサソリさんとデイダラさんに言おうとして、けれどまた二人が笑い始めてしまうかな、と思ってやめておいた。


「サソリさんもデイダラさんも、忍でありながら、芸術家でもあるんですか?」
「そうだぜ、うん。忍術でもそうでないことでも、自分のアートに沿うことが大事だ」
「そうでないことでも…」


デイダラさんの言葉を反復して言うと、サソリさんが私を見る。


「名前、デイダラがほざく芸術ってのは、儚く散りゆく一瞬の美ってやつだ」
「ほざくって何だよ、旦那。だがま、当たりだな。儚く散ってこそ、芸術だ」


サソリさんは、にやりと片方の口角を上げて笑った。


「気をつけろよ、つまりこいつは、女との関係にしても、そうだってことだからな」
「…!」
「なっ…!お、おい旦那、何を勝手なこと言ってやがる!名前、今のはただの、旦那の冗談だ、鵜呑みにするなよ、うん」


そ、そうか、サソリさんの冗談か。
少し意外だなあ、サソリさん、冗談とか言うんだ。


「サソリさんの芸術は確か……長く続く、永久の美…でしたっけ…?」
「ああ、そうだな」
「フン、だから自分は、長く大切にするとでも言うのかよ?旦那」
「いや、俺は――傀儡にするぜ」


爪を塗る手をとめないまま言ったサソリさんに、私は固まり、デイダラさんは目を白くさせて手をとめる。


「く、傀儡って…あ、相手を、ですか…?」
「ああ」
「お、おい旦那!名前に引かれてるぞ!」


く、傀儡にしてどうすると言うんだろう。
相手を傀儡にしてしまうなんて…も、もしかしてサソリさん、DV疑惑か…?!
い、いや、S級の犯罪者に今さら、バイオレンスがどうのなんて、アレだけれど…。


「お前ら二人共、まったく分かってねぇな」


サソリさんの言葉に、デイダラさんと首をかしげる。


「俺は人傀儡だけど、ちゃんと自分で考えて動くことが出来る、つまり思考を残すことは出来るってことだ。つまり、相手だってそうして、人傀儡にすることが出来る」


爪に塗り終えてくれたサソリさんが、顔を上げた。



「そうすれば、ずっと――永久に一緒に、居られるだろ」



――な、なんと…!
す、素晴らしい!
まさか、私の新たな扉を開いてくれる人がいるなんて…!


「おい名前、騙されんな、うん!旦那の策略だァ、見ろ、笑って…っておい名前!聞いてんのか!」


サソリさん、――ヤンデレ、決定なのかな。
ヤンデレ…私には合わない、少し悲しい…というか幸せなのだろうかと悩むジャンルだったけれど…まさか、その中にある小さな幸せを垣間見せてくれるなんて。

ま、まだ完全に、ヤンデレがよくなったわけじゃあないけれど、いやはや本当に、世界っていうのは広いなあ。




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