舞台上の観客 | ナノ
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「#甘甘」のBL小説を読む
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「おお、名前…だったか?久しぶりよのう」
「あ、ええと、火の国、木の葉がくれ、ほかげ様…?」
「ああ。…どうじゃ?その後、旅の行方は」
「ええと、さがすのはもう、止めることにしました」
「……これから、どうするつもりなんじゃ…?」
「そうですねえ、あはは、どうしようかな、です」

「…あてが無いなら、木の葉隠れの里に来んか…――?」



――火影様の、…火影様の、葬儀が行われている火影邸の前で、私は一旦足を止めた。


「……っ、……」


ぎり…と手を握り締める。
俯いて、強く目を瞑る。


――ごめんなさい。
視たいものが視れる訳じゃないし、…それにたとえ視えていたとしても、私には…何も出来なかった。


力を抜くように、喉の奥で詰まっていた息を吐く。
手の力を抜く。
ゆっくりと、瞼を上げる。


火影様は、里を守る為に、自分の命をかけた。
だから、悔やむことはもう、これで止めにする。


再び歩き出して、火影邸の屋上への階段を上る。

ナルト達との待ち合わせは断っていた。
きっともう大分前から、来ているんだろう。


「…、……」


上がっていくにつれて、銀髪が目に入った。

遅刻癖が酷いカカシ先生まで、もう来ている。
というか、私はかなり最後の方らしく、花を添える人の列もほとんど切れかけている。

場所に行くと、ほとんど並ばずに、私は火影様の遺影の前へ来ることとなった。


「………………」


花を片手に、火影様の遺影を見上げる。
――にっこり。
口の端を持ち上げた。



「ほかげ様!わたし、この里に来れてしあわせです!」
「ふふ…、アカデミーで何か良いことでもあったかの?」
「はい!ステキな子たちが、居たんですよ?」



じわり、涙が出てきそうで、唇を噛んだ。
笑いたいのに、笑えなくて。
震える唇を噛み締めながら、遺影を見上げる。



「名前、わしはこの里の者はみな、子供のようだと思っている。お前はわしの孫同然じゃ」
「…ほかげ様が、わたしの、おじいさん…?」
「うむ、家族じゃ。嫌か?」
「――すっごくうれしいです!ほかげ様!」



歯を食いしばる。
瞬きを繰り返す。
にこっ、笑った。


火影様は、ここには居ないからね。


優しく花を添えて、私はその場から立ち去った。
みんなが立っている列の中に入ることも出来たし、大体がそうしてたけど、私はそうはしなかった。













「名前、団子を食べるかの?」
「良いんですか?いただきます。…美味しいですね!」
「ふふ、そうじゃな」


「…っ、……」


「わ、わ…。…火影様、私、火影様に頭を撫でられるの、好きです」
「そうかそうか。わしも名前が大好きじゃ」


「〜っ…、……」


行くあても特に無く、雨が静かに降る中、里の中をただひたすらに歩いていく。

里の人は大体は葬儀に行っているし、帰ってきたとしても家の中に入ってる。
火影邸から少し歩いてくるともう、人気は無かった。

けれど私は、家に帰る気にもなれなくて。
街の中心から少し抜けた時、いきなり手首を掴まれた。


「っ…?!…サ、サスケ…」
「………………」


それはサスケで、眉を寄せ下げて私を見ている。


「あ…その、もしかして、もう葬儀、終わったかな…」
「…いや、抜けてきた」
「そ、そっか……」


――どうしたの?
そう、聞こうと口を開きかけた瞬間、サスケが更に眉を寄せた。


「なんて顔してんだよ…泣けば、良いだろ」
「…っ…!」


びっくりして目を見開く。
けれど次の瞬間には、くしゃりと顔が歪んだ。


「…〜っ、…」
「…何でだよ…」


俯きながら首を横に振ると、腕を掴んでくるサスケの手の力が強くなった。


「…な、泣きたく、ないの」
「………………」
「火影様との思い出が、今日ずっと、浮かんでくるよ。けど、全部…っ、全部幸せな思い出ばっかりで…!」
「………………」
「泣いたら、よく分かんないけど、悲しいものになっちゃう気がして…、…っ」


唇を噛み締めると、腕を引っ張られて顔が上がる。
悲痛そうな顔のサスケと、目が合う。


「自分の言ったこと曲げてんじゃねえよ…!お前、波の国で言ったじゃねえか、幸せが記憶になったら、確かに負の感情を感じる、って…!」
「……!」
「お前の中で幸せだったからこそ、それが無くなった今、悲しいんだろうが…!」
「…っ…、…!」



「わしも久しぶりに名前に会えたからの」
「名前、お前らはみな、里の希望じゃ。火の国木の葉隠れの、火なんじゃよ…――」



じわり、涙が浮かぶ。
無規則に息をする。


――火影様が居たから、私はみんなに出逢えた…。
火影様が私を里に迎えてくれたから、私は今、居る…。

火影様が、大好き。
火影様と過ごす時間はいつも暖かくて、優しくて。

それも全部、思い出になる。


「〜〜っ…、っ…!」


ぼろり、涙が零れ落ちて頬を伝い流れる。
ぎゅうっと目を閉じれば、腕を引かれて、サスケの腕の中へ飛び込んだ。


「サ、スケ…サスケ…」


悲しくて、悲しくて、無意識の内にサスケの背中の服を握り締めていた。

すると力が強くなる。


――サスケ、ありがとう。
何も言わないでいてくれて。
今だけ少し、泣かせてもらうね…。

――私の道はもう決まった。
この一ヶ月で、決意した。
私の夢、私の運命。



「…誰しもみんなが幸せな世界が、見たい。そして微力でも、手助けが出来るならいくらでもする…――」



私は――里を抜ける。






110515.