舞台上の観客 | ナノ
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――あの中忍試験、本選の予選から一ヶ月が経った。
追いかける間もなく、名前は姿を消して。
火影様に経緯を聞いても情報は得られなかった。

「カカシ先生」

にっこりと笑う、俺の大事な大事な部下、教え子。


濃霧が晴れた時に見えた、呆然とする名前と血まみれになり既に死んでいた相手。
爆発したのにも驚いた。
何も残らなかったから、結局あの男が何者なのかは分からなかった。
ただ、命を犠牲にするほどの重要な何かがあったことは、間違いない。

そしてその対象が、名前だっていうことも。




「――あらかた片付いたな。カカシ!お前は何人倒した」
「はいはい、もうそれは良いでしょ」
「く〜っ!そのクールなところがナウいな!」


するとその時、後ろでタッと足音がして、咄嗟にクナイを構えて振り返った。


「―――…あ…」


その瞬間、世界がゆっくりに見えた。
…嘘みたいだけど、ホントの話で。

柔らかく跳ねる琥珀色の髪の毛、周りを見回す顔はずっと心配していた子のもので、俺を見つけて顔を輝かせた。


「――カカシ先生!」


その瞬間、地面を蹴って名前の前まで一気に移動した。
嬉しそうな笑顔の名前に手を伸ばして――、


「い、いひゃ、いひゃいへふひょ、(い、いた、痛いですよ)」


びよーんと、白い頬を引っ張った。
片膝をついて、少し力を緩める。


「痛た…、カカシ先生!いきなり何するんですか!」
「いや、変化とかじゃないかなって」
「変化かどうか確かめるなら印を組んで下さいよ!」


…あ、それもそうか。


「っい、いひゃいへふっへ!ひゃんへひゃひゃ…!(い、痛いですって!何でまた…!)」
「ん?お仕置き」


そうして、じんわりと胸の辺りが温かくなってきた。
実感がわいてきた。

――名前は、ここに居る。

頬から手を離す。
そして名前の背中に手を回して、軽く自分の方へ押した。
と、とん、と押されてきた名前の華奢な体を両手で包む。


「…カカシ、先生…」
「………………」


耳元で、小さくこぼすような笑い声がする。


「お久しぶりです」
「…ホントにね」
「久しぶりにカカシ先生に会えて、嬉しいです」
「………………」


俺の腕の中から抜け出した両手が、首の後ろに回ってぎゅうっと抱き着いてくる。
俺も同じように力を入れて、柔らかい髪に顔を埋めた。


――名前はここに居る…。

サスケとの修行があったけど、毎日毎日、名前の家に行った。
任務が無くてもサクラとは偶然会う。
ナルトにも、少し前から。

――名前にだけ、ずっと会えなかった。




ゆっくり離れると、名前はにっこりと笑った。


「カカシ先生、私、行ってきます」


きっと名前は、サスケやサクラ、ナルトの元へと行くんだろう。
仲間のことを、誰かのことを想う、この子なら。


「ああ。気をつけろよ」
「はい!」






110514.