舞台上の観客 | ナノ
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――…いたい、これ…なんでいたいんだろう…?


心臓らへんを、ぎゅうって、にぎりしめる。

公園にいた子たちは、いつもみたいに走って、…にげていっちゃった。
…ぼ、ぼく、から…。


――…いたい…。


心臓らへんが、もやもやしてて、気持ちわるいんだ。
にげていった人たちの後ろすがたを思い出すと、ずきんって、さらにいたくなる。

腕にかかえたぬいぐるみを、ぎゅうって、だきしめた。



「――はい、これ、落としたよ」



――びくっ、て。
肩がゆれた。

振りかえったら、そこにはぼくに向かって手を差し出している女の子。
ハンカチをにぎってる。


…び、…びっくりした。
だって、なんでかは…分からないけど、僕に話しかけてくる人なんて、……やさしく話しかけてくれる人なんて、。


目を丸くして女の子を見つめていたら、女の子はあせりはじめた。


「え、あ、もしかしてこのハンカチ、きみのじゃなかったかな、なんて…」


ぼくはハッとして、あわてて口を開いた。


「う、ううん!ぼく、の!」
「あ、よかった」


女の子はにこっと笑って、じゃあね、と言う。


――…あ…待って…待って!


去っていく女の子の後ろすがたに、また、心臓がぎゅうってなって。
思わず砂を出して女の子の足をつかまえた。


「うわっ」


そのせいでころんじゃった女の子を見て、さあって、体がつめたくなる。


――また、やっちゃった。


体がふるえて、心臓がうるさく動いてる。


「うわああああ!」
「たすけてぇえ!」
「やめろよ!――化け物!」


ご、ごめんねって、言わ、言わなきゃ。
ごめ、ごめんって、あやまらなきゃ、あやまらなきゃ…!



「あ、あはは、砂の上歩くのなれてないから、ころんじゃった」



――…あ、あ、れ…?
…もしかして、ぼくがやったことだって、気づいてないのか、な…。


にこって笑いながら、でも少し照れくさそうな女の子。
また笑ってくれたことに、ほっとした。


…ぼくがやったって言ったら、この子も、はなれていっちゃうんだろうな…。
ぼくのことを、いやそうな顔で見て、走って、にげていっちゃう…。
――…いやだ…。
いやだ、よ…!
ひとりは、さみしい…!


「す、砂がくれの子じゃ、ないの…?」
「うん、きのうの夜に、ここに着いたんだ」


…ウソついちゃって、ごめんなさい…。


にこにこしている女の子を、ちらって見る。


でも、ぼくが砂でみんなをキズつけちゃう前から、ぼくはみんなに…きらわれてた。
この子は、ぼくのこと…。


「あ、あの、」
「ん?なにかなぁ」
「あ、あのね、…き、きみは、その…ぼ、ぼくのこと!」
「うん」
「ぼくのこと…こ、こわくないの…――?」


女の子はきょとん、としたかと思ったらハッとした。
びっくりして、ぼくもハッて息をのんだ。


「もしかしてキミ…こわがられたい系の人かな。いっぴきおおかみ、だっけ…?」
「こ、こわがられたい、系…?」
「…あれ、違った?」


こわがられたい系も、い、いっぴきおおかみ…?も、よく分からないけど…――、


「ち、ちがうよ。ぼく、こわがられたくないんだ…!」


そう言ったら、女の子は首をかしげて、でもまた、にこって笑った。



「こわくないよ」





110511.