舞台上の観客 | ナノ
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「名前は今夜は、やっぱり我愛羅君と過ごすの?」


何とも言えない笑みを浮かべたサクラにそう訊かれ、名前は頬を掻いてはにかんだ。


「うん。その予定だよ」
「そっか。良いなあ。あーあ、私も早くサスケ君に会いたいな」
「げほっげほっ……サスケ、次はいつ帰ってくるって?」
「どうやら当分は先みたい。でもだからと言って、私に遠慮する必要ないのよ。確かにサスケ君は旅をしているから中々会えないけど、それは名前だって同じことなんだから。むしろ住む里が違う名前たちの方が会いにくいでしょ。特に我愛羅君は風影だし」
「うん。でも、幸せだよ」


言って名前は自分の掌に目を落とした。


「私がこんなに幸せになっても良いのかなって、そう思うくらいに」


すると額を指で小突かれて、名前は不思議そうな顔でサクラを見た。
サクラは怒ったように唇を尖らせている。


「良いのよ」


きょとんと首を傾ける名前に、サクラは苦笑するように笑うと、優しい眼差しを向け言った。


「名前は幸せになって、良いの」


ぽかんとしていた名前は、やがてサクラに小突かれた額に触れると「うん」と幸せを噛みしめるように微笑った。
だがすぐに名前は、はっとすると空を振り仰ぐ。
サクラが怪訝そうに問う。


「どうしたの?」
「――声がした」
「声……?」


サクラは耳を澄ましてみるが、聞こえるのは鳥のさえずりや、どこかで遊んでいるのか子供たちの笑い声だけだった。
だが名前には響遁がある――人並み外れた聴覚があるのだ。
真剣な表情で辺りを見回している名前に、サクラも気を引き締めて問うた。


「声って、どんな?」


名前はサクラを見詰め、短く答えた。


「――悲鳴」


そのとき、遠くの建物で爆発が起こった。
はっとして振り返れば、周囲よりも頭一つ出たその建物は、瓦礫を落としながら傾き、やがて見えなくなっていく。
一つ、また一つと爆発が起こるに次いで、今度はサクラにもはっきりと聞こえた。
逃げ惑う里の人々が上げる、恐怖の叫びを。


「いったい何!?」
「襲撃だ」


サクラは名前を振り返った。
名前は真剣な表情で頷き、遠くに見える火影邸を振り仰ぐ。


「五影会談を狙って来たのね……!」
「恐らく、そうだと思う。いや、それしかない」
「でもまさか、本当にこんなことが起こるなんて」


サクラの言葉に、名前も「うん」と首肯した。


今日、木ノ葉の里には五里の長である五影が集結している。
五大国と言われる火、風、雷、土、水の五国が手を取り合うようになってから定期的に開催されている会談の此度の開催地が火の国木ノ葉隠れの里だった。
影には側近が随行し、従って一時的にではあるが有力者たちを失くす開催里以外の各里は、警備を強化し影たちが帰ってくるまでの留守を預かる。
だがもちろん一番に警備が強化されるのは、五影という並びない者たちが集結する開催里だった。


「確かに会談場所を狙えば、襲撃が成功した時の忍界の損害は計り知れない。だけどその分リスクも大きいわ。警備の忍たちがわんさかいて、さらには五影が揃っている場所を、狙う奴が本当にいるなんて」
「それだけ自信があるんだろうね。実際、既に里には侵入され、襲撃を受けている」


言って名前は白煙が上がる空を仰ぐと、苦く眉根を寄せた。
そんな二人の前に、暗部の者が降り立った。
猫の面を付けたその者に、名前は問う。


「カカシ先生は――六代目さまはご無事ですか」
「ご無事です。火影さまの命で、情報の伝達に参りました」


お願いします、と言ったサクラに暗部は頷く。


「敵は強力な幻術使いの集団です。奴らは木ノ葉の忍を操ることで、里を攻撃してきています」
「そんな!それじゃあ迎え撃とうにも」


言ってサクラは手を握り締めた。


「ですからもしも幻術に掛けられた時にそれを解くため、忍はそれぞれ二人一組以上で行動せよ、とのご命令です。特に幻術に対抗する術を持たない者たちは、住民の避難や援護の任に就くように、と。手練れであればあるほど、操られてしまえば厄介な相手となってしまいますので、お二方もなるべく戦闘には参加されませぬよう。実際うずまきナルトが先程、敵の幻術に掛かりました。九尾のお蔭で、幻術に掛かっては解け掛かっては解けを繰り返しているようですが」


サクラが「あの馬鹿」と額に手を当て、名前が安堵の息を吐くと苦笑した。
では――と姿を消した暗部に次いで、サクラが名前を振り返る。


「それじゃあ名前は、私と一緒に病院へ行こう。きっと怪我人が大勢出てしまっているはずだから、人手はいくらあっても足りないもの」
「分かった――」


そう頷きかけた時だった。
名前は呻き声を上げると、頭を抱えてその場に蹲った。
サクラが駆け寄ってそんな名前の肩を抱く。


「名前、どうしたの!?」
「……音が、聞こえる……!」
「音って――」
「幻術に、掛けられる……!」


サクラは驚いたが、ともかくも名前にチャクラを送った。
幻術が解けたのだろうか、はっと顔を上げた名前は、しかしすぐに再び呻いた。


「駄目だ、まだ音が、鳴って……!」
「名前、しっかりして!」
「サクラ、私から――離れて……!!」












敵たちは、巨大な龍の上に乗っていた。
一人が里に張られた結界内に侵入してから、口寄せしたのだ。
上空に浮かぶそれを見上げて、水影が残る影たちに問いかけた。


「皆さまは、彼らに見覚えがありますか?」


いや、と短く答えた雷影に次いで土影が口を開く。


「わしも知らぬ。じゃがあれだけの幻術を使うとは大したものじゃ。今までは、うちはの陰に隠れていたのかもしれぬな」
「俺が行こう」


一歩を踏み出したのはオビトだった。


「俺ならば、奴らの幻術に囚われることはないし、逆に幻術を掛け返すこともできるだろう」
「確かにそうだろうけど、問題はお前じゃなくて、既に操られてしまっている忍たちだ」


言ってカカシは空を見上げる。
敵の周囲には彼らを守るようにして、操られている木ノ葉の忍たちが立ちはだかっている。
そしてそんな忍たちと交戦しているナルトの姿。


「ナルトを見る限り、さっきからあいつは、幻術に掛かっては解いてを繰り返している。恐らく間断なく術が発動されているんだ。確かにお前なら、敵の幻術に打ち勝つことは可能だろうが、解いたところでまた術に掛けられる忍たちを相手することも考えれば、それは至難の業だ」
「ええい、まどろっこしい!わしが出る!」


そう言って足を踏み出した雷影を止めたのはダルイだ。


「ちょっとボス……影が出ないでくださいよ。ボスと戦うことになったら、止められる奴が何人いると思ってるんすか?」
「情けないことを言うな、ダルイ!それにわしがあの程度の幻術に掛かるとでも思っているのか!?」
「奴らはかなりの幻術使いであるし、それにお前は単純じゃから、五影の中でも真っ先に幻術に掛かるじゃろう、きかん坊よ」
「何だと!?」


声を荒らげる雷影を、ダルイが「まあまあ」と宥める。
声には出さないものの、この場にいる全員が心中で土影に賛同していた。


――龍を見上げていた我愛羅は、空を昇っていく何かを認めて眉を顰めた。
灰色の空を、龍に向かって歩いていくそれは人間だ。
靡く琥珀色の髪を認めて、我愛羅は目を見開いた。


「名前だ……!!」


何、と声を上げて、木ノ葉と砂の者たちを筆頭に一同は空を見上げる。
空を歩き上っていく名前を認めて、オビトが舌を打った。


「あの馬鹿!なぜ幻術に弱いくせに出てきたんだ!」
「いや、待て。……様子が可笑しい」


焦りを含んだカカシの言葉に、オビトは眉を顰めて名前を見詰めた。
言われてみれば確かに、名前の足取りはどこか覚束ない。
あちこちで起こる爆発の爆風に揺らいでいるのかとも思ったが――と眉根を寄せたとき、一同がいる火影邸の屋上にサクラが飛び込んできた。


「カカシ先生!名前が、幻術に掛けられて……!」


一同が驚いて振り返る中、サクラは駆けて来ると同じように空を見上げ、名前の姿を認めると悲痛そうに顔を歪めた。
オビトがサクラの肩を掴み、問う。


「まさか敵に遭ったのか!」
「ううん。私たちは一緒に、木ノ葉病院へ行こうとしてたの。名前は幻術に強くないし、私も、敵と戦うより怪我人を治療した方が役に立てると思って。敵は近くにはいなかった。だけど名前は突然、頭を抱えて蹲ったの」
「どういうことだ……?」
「分からない。でも名前は、音が、って言ってた」
「――音?」
「音が聞こえる。まだ鳴ってる、って。チャクラを送り込んで一度は幻術を解いてあげられたんだけど、またすぐに掛けられてしまって。名前は操られながら、私に離れるように言ったの。そして何か手掛かりになるかもしれないから、このことをカカシ先生たちに伝えて欲しい、って」


考え込んでいた我愛羅が、はっとすると瓢箪から砂を出した。
宙に浮かんだ砂と我愛羅を見比べて様子を見守っていた一同は、砂が細かく振動し始めたのを見て目を見開く。
我愛羅が砂に触れながら言った。


「いま里には、何か特殊な音波が流されている。響遁を扱う名前の耳はそれを聞き取り、そうして幻術に掛けられてしまったんだ。音は絶えず鳴っているから、たとえ一度チャクラを送り込み術を解いたところで、耳に届く音波がそれを許さない」
「確かにそれなら、彼女の言っていたという言葉とも意味が合いますね」


ですが――と水影は続けて、


「先程挙がってきた情報によれば、幻術に掛かってしまった他の者たちは皆、このような特殊な音波ではなく、至って普通の忍術で囚われてしまったということでしたよね。なぜ敵は、術の方法を変えたのでしょうか」
「もしかしたら特殊な音波で以て掛ける幻術には、発動に時間が掛かるのかもしれません。だからまずは普通の忍術で相手を惑わし、仲間同士で戦わせることによって、その時間を稼いだのかも」


長十郎の言葉に続いて、テマリが「だが」と口を開いた。


「そもそも可笑しいのは、特殊な音波による幻術を、何故使ったのかということだ。それが聞こえたのは名前だけで、傍にいたサクラも、今ここにいる私たちも、音波を音としては捉えられていない。つまりは名前以外に、その幻術は効かないんだ。だというのに何故――」


言いかけたところで気づいたのか、テマリははっとすると言葉を失くした。
サクラが青ざめると「まさか」と呟く。
カカシが神妙な顔で頷き、そして空を見上げた。


「名前にだけ幻術が掛けられれば、奴らはそれで良かったんだ」


その言葉通り、敵の許に名前が着いたその瞬間、敵はもう用無しだとでも言うふうに、今まで盾のように侍らせていた木ノ葉の忍たちを、空から叩き落とした。


「狙いは最初から、名前だったんだ」









空から降ってきた忍たちは、ナルトの影分身や、別の忍が抱きかかえて助け出した。
龍の上で敵と対峙していたナルトの本体は、空に立っている仲間の姿を見て目を見開いた。


「名前、どうしてこんなところに出てきたんだってばよ……!」
「ナルト……逃げて」


息も絶え絶えにそう言う名前の目がどこか虚ろなのを見て取って、ナルトははっとした。


「幻術に掛かったのか!待ってろ、いま解いてやっから――」
「私に近寄っちゃ、駄目、だ……!」


名前が声を上げた時だった。
ナルトは、名前の瞳の色が変わるのを見た。
それはかつて、もう二度と使わないと約束した眼――時空眼。
時間を止められることによって体の動きを止められて、ナルトは敵を睨んだ。


「てめえ、名前の眼を、勝手に使うんじゃねえってばよ……!!」


だが敵の男はナルトに構わず、名前を龍へと乗せると歩み寄る。


「素晴らしい瞳だ。どんな場所のどんなものでも、作用を掛けることができるのだな」


うっとりと言った男の言葉に、ナルトは目だけで里を見下ろした。
眼下に広がる里のいたるところに白煙が上がっており、しかもその煙が今は動くことなく時間を止められている。
時空眼の性能を確かめるため大した意味もなくされたその行為に、ナルトは憤った。
だがすぐに慄然とする。
時空眼の作用は、真下で起こっている爆発だけでなく、遠く離れた場所で上がっている白煙にすらも及んでいたのだ。


(こんなに広い範囲に作用を掛けたら、名前の体が……!)


ナルトは危惧し、名前に視線を移した。
名前の顔は青ざめていたが、咳が出ていないところを見る限り、まだ体に負担は掛かっていなく、幻術に囚われてしまったことと、それ故起こる可能性がある惨事を恐れているのだろう。


恍惚な表情を浮かべ里を見下ろしていた男は、ナルトに視線を戻した。
名前がびくりと肩を揺らす。


「待って――止めろ」


名前は言うが、男は笑みを浮かべたままナルトへと歩み寄っていく。
その手にはクナイが握られていて、ナルトはどうにか体を動かそうとしたが、しかし時空眼の縛りは絶対で解くことができない。


「ナルト、抗うことを、止めないで……!そうすれば、いつか」


言ったところで幻術が更に強められたのか、名前の目の色が薄まる。
ナルトは名前の名を呼び、そうして男を睨んだ。
名前の言おうとした言葉の先は、分かっていた。


時空眼を使い過ぎて倒れる名前の姿を、ナルトは見たことがある。
強大な力を持つその目は、代償として多大な負担を体に掛ける。
眼を使えるだけのチャクラや体力が尽きて、身を守るため勝手に時空眼が解けてしまうということもあった。
つまり使い続けていれば時空眼は必ず解ける。
そして早く解くためには、対象が抗うことが不可欠だった。


だが――とナルトは唇を噛みしめた。
だがそんなことをすれば、名前を傷つけてしまうことになる。
男を睨みつけた時、土影の声がした。


「迷うな、ナルト。これが最善の策じゃぜ」


空を飛んできた土影と、そして岩の者たちは、操られた名前によって動きを止められてしまう。


「土影のじいちゃん!でも、そんなことをしたら名前が……!」
「そんなことは分かっておる。じゃが時空眼の力は絶対じゃぜ。あの眼を解くしか、方法はないんじゃ」
「お願い。耐えて、ナルト」


言ったのはサクラだった。
砂に乗って空へと上がってきたサクラに次いで、我愛羅や砂の者たちも現れる。
その者たちの動きをも止めた名前は、苦しそうに眉根を寄せた。
そんな名前を悲痛そうな表情で見やったサクラは、ナルトに小声で言う。


「いまオビトやカカシ先生たちが、後ろで別の敵を倒しに向かっているわ。けど、術者を倒しきる前に時空眼で何かされたら、その被害は甚大だし、何より名前が傷ついてしまう。だから名前の体に負担を掛けてでも、時空眼を解かなくちゃならないのよ。里のためにも、名前のためにも」


苦く顔を顰めたナルトは、堪えるように強く目を瞑ると、そうして力の限りに体を動かそうとした。
時空眼によって動きを止められている者の全員が同じように作用に抗う。


すると名前が咳き込んだ。
途端に体の自由が戻って、ナルトは駆け出し、宙にいた者たちは龍に乗る。
だがすぐにまた時間を止められて、一同は瞠目した。
一瞬、琥珀色に戻ったように見えた名前の瞳には、時空眼があった。


尚も咳き込んだままの名前に、我愛羅が苦く眉根を寄せる。
助けてやりたいと必死に体を動かそうとするが、この行為も結局は、名前の体に負担を掛けてしまうことになる。
そのことがひどく心苦しかった。


「やはり負担が大きいようだな」


敵の男が無感動に言って名前を見やる。


「ならば……そうだな、自分の体を巻き戻せ」


負担をも巻き戻そうというのか男が言ったその言葉に、サクラが「やめて」と叫んだ。
だが名前は右目を閉じる。
負担を巻き戻そうとして――しかし名前は血を吐くと共に倒れ込んだ。
名前、と何人かが叫びを上げる。
時空眼が解けて、一同は更に敵と、そして名前に近づくが、寸でのところで再び時間を止められてしまう。
吐血し倒れた名前の髪の毛を引っ張って、無理矢理に顔を上げさせる男に、ナルトの目は今や獣のような光を灯していた。


「……いますぐ名前から、離れろってばよ」


その覇気に、男は無意識のうちに後退ろうとする。
だがそんな男を、低い我愛羅の声が止めた。


「動くな−−逃げるな。俺がお前を、殺してやる……!」


その言葉にやがて、ふと名前が目を上げた。
虚ろな目に、我愛羅の姿が映る。


名前はずっと、離れて、と叫びたかった。
だが術の威力を強められ、話すことさえ自由が利かず、伝えることができなかった。
時空眼を解かせるためにわざと抗ってくれていることに気づいた時は、ほっとすると同時に、何もできない自分が情けなく、腹立たしかった。
一族の力を非道なことに使われて、悲しかった。
許せなかった、敵が、−−自分が。


「……して」


大切な人たち、大切な里に、何かをしてしまうくらいなら、その前に−−。


「私を……殺して……」


未だ虚ろな目のままに、涙を流しながら言われた言葉に、一同は目を瞠った。
だが次いで、ふっと解けた時空眼に、我愛羅は瞬時に砂を放つ。
敵を捕らえ、再び倒れ込んだ名前を砂で受け止めた。
サクラが駆け寄り、すぐに医療忍術を施し始める。


砂で捕らわれた敵に近付くナルトの腕を、後方からやって来たオビトが掴んだ。
ナルトはオビトを見上げ、低く言う。


「……止めるなってばよ、オビト」
「いや駄目だ。今はまだ殺すな」


オビトはひどく冷たい目を男に向けた。


「死ぬより辛いことがあるということを、思い知らせてやる」


その時サクラが驚いたように名前を呼んだ。
何事かと振り返れば、体を起こした名前の目が再び白緑色に−−時空眼になっている。
どういうことだとナルトはオビトを見上げた。


「オビトってば、別の術者たちを倒してきたんじゃ」
「ああ、その通りだ」
「なら、一体誰が名前を操って−−」


言いかけて、ナルトは口を噤んだ。
時空眼は開眼されたが、今度は誰の動きも止められていない。
ただ眼下に広がる壊された建物が独りでに修復されていっていた。
−−名前が里を、直しているのだ。

そのことに気がついた我愛羅が、慌てて名前の肩を掴む。


「やめろ名前」
「でも、里が壊れて」
「里はあとから、いくらでも復興できる。今はとにかく自分の体を−−」
「私のことなんて、どうでもいい……!」


名前の叫びに、場はしんと静まり返った。
名前は震える両手を見下ろす。


「私のせいで、里が−−だから直さなくちゃ」
「名前、お前のせいではない。悪いのは時空眼を間違ったことに使おうとした奴らだ」


言って我愛羅は名前の手を握りしめた。


「だからどうか、時空眼を解いてくれ。自分のことはどうでもいい、などと言うな。このまま時空眼を使い続ければ、お前が死んでしまう」
「……それでも……良い」
「−−名前」
「きっとその方が、良かったんだよ……!」


顔を上げた名前の目から涙が流れる。
私は−−と名前はぽつりと言った。


「命を生き返らせる術を使って、術者が歴史から消え去る理由は、罰なのだと思ってた。生命を弄んだ、報いなのだと。だけど違った。もし術後も生き延びたのだとしたら、消えなければならなかったんだ。火種になるから、災いの元になるから……!」


声を上げる名前を、我愛羅は抱きしめた。


「しっかりしろ、名前……!お前は前に言っていただろう。悲しみがあるから喜びもある、と。確かに時空眼を狙う連中はいる。だから火種となると言えばそうなのだろう。だが連中が時空眼を狙う理由は、その力が強大だからだ。正しく使えば、それは人々を守り、里に安寧をもたらす。そしてお前は時空眼を正しく扱うことのできる正当な後継者だ。闇に溺れて、光を見失うな……!」
「我愛羅……でも……」
「名前、お前は俺たちに、幸せを与えてくれている。だというのに悲しみだけを独り占めすることは許さない」


我愛羅は名前の目を見詰めたーー白緑色の、その瞳を。


「一人で悲しみを背負おうとするな。どうか時空眼を解いてくれ」


やがて名前は目を閉じた。
涙が頬をまた一筋伝う。


目を開けた名前の琥珀色の瞳を見詰めて、我愛羅は安堵したように微笑む。
名前もそれを認めて、笑ってみせた。





151017