舞台上の観客 | ナノ
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「#年下攻め」のBL小説を読む
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「大きな学校だなあ……」


半ば呆然と呟いた私の前にそびえ立つのは木ノ葉中学校だ。
全国でも珍しい、小学校から大学までが同じ敷地内に建てられている一貫校。
そういった学校は全国に五つあり、木ノ葉、砂、雲、霧、岩、とそれぞれ名が付けられていて、五校での行事なんかもあるらしい。


そして私は、来週からこの木ノ葉中学校へと通う。
今日は制服の合わせや、見学にやって来たのだ。
中途半端な時期の転校だが、新しい生活や、まだ知らぬ人たちに会えることは今からとても楽しみだ。
小さく笑んで、校門を抜け、敷地内へと足を踏み入れた。

歩いていくと、昼時だからだろう、開かれた窓からは賑わいが聞こえてくる。
何の気なしにその校舎を見上げれば、私のことを凝視している金髪の男子生徒と目が合った。
見知らぬ人物に興味津々、というよりは驚いているらしいその様子に首を傾げたが、挨拶の意味も込めてにこりと笑うと、男子生徒は声を上げた。


「名前!!」


私は、え、と目を見開く。
彼の声に続いて数人が窓へ駆け寄ってきた。
どうして私の名前を知っているんだろうーーと考えていれば、その生徒たちが、金髪の彼を筆頭に全員窓から飛び降りてきてぎょっとした。


ーーそこ三階……!


驚くも、彼らは音もなく着地すると難なく私の元へと駆けてくる。
ここって体育系学校だったっけーーと唖然としている間に、私はその人たちに抱きしめられていた。


「名前、名前……!やっと見つけたってばよ……!」
「名前!ずっと、会いたかった……!」
「このウスラトンカチ!今までどこにいたんだ……!」
「えっと、あの」
「名前ちゃん、だよね……!夢じゃ、ないんだよね……!」
「夢じゃねえよ、ヒナタ。この匂いは名前だ、変わってねえ」
「匂いなどなくても分かる。何故なら、俺たちは同じ木ノ葉の仲間だからだ」


サングラスを掛けた男子生徒の言葉に、私ははっとする。
あまりの感動に泣きそうになってしまい、堪えようと眉根を寄せれば、長い金髪を一本に纏めた女の子も鼻を啜る。


「ちょっとやだ、やめてよ名前、こっちにまでうつるじゃない」
「ったく、どうしてお前はいつもそう、心配掛けんだよ」
「でも本当によかった。これでまた、さらに美味しくご飯が食べられるようになるよ」


ーー何と……何という歓迎!
恐らくこの人たちは、来週から木ノ葉中学校の学生となる私のことを聞いて、手厚く歓迎しようとしてくれたのだろう。
だから名前を知っている。
……それにしても、転校生の私に、もう木ノ葉の仲間だと声を掛けてくれるなんて。
この学校とそこに通う皆は、とても素敵なんだな……!


私はにっこりと笑った。


「歓迎してくれてありがとう」
「当たり前だってばよ!名前!」
「うん、改めまして私、名字名前と申します。はじめまして!これからどうぞ、よろしくね!」















「マジで、マジで!冗談きついってばよ、名前……!」


ーー木ノ葉中学に転校してから、もう何度も繰り返されている言葉に、今日も私は戸惑っていた。


「ごめんねナルト、その、冗談じゃないんだ。ーー前世、だったよね?」


訊いた私に、ナルトはうなだれていた様子から一変して、勢い込んで机を叩いた。


「そう!前世だってばよ!前世で、俺たちと名前は、同じ里の、仲間だったんだ!」
「それに私たちとは同じ班だったのよ?カカシ先生が班長で、木ノ葉の第七班」
「その第七班って、掃除とかをする班じゃーー」


サスケが短く、違う、と否定する。
サイがどこか悲しそうに微笑んだ。


「前世ではカカシ班に入るのは、名前よりも僕のほうが後だったんだ。覚えていないん、だよね」


頷いて、私は思わず皆に詫びていた。


ーーあの見学初日、私はてっきり、転校生を熱烈に歓迎してくれたのかと思っていたのだけれど、どうやら違うらしく、皆が言うには、私は前世で皆と仲間だったらしいのだ。
新手のからかいかとも思ったのだけれど、二日、三日と経っても皆は変わらず訊いてくる。
ーー前世の記憶は戻ったか、と。

前世の記憶を覚えているなんて、やっぱり皆は素敵だな、すごいな、と当初は興奮したものの、今は落ち込む皆に申し訳ない気持ちでいっぱいだ。


「どうにか思い出して欲しいものだ。何故なら、記憶は想いの蓄積だ。想いは共有したい」
「ったく、どうしてお前だけ忘れてんだよ、名前。赤丸だって覚えてたのに、お前ってそんな記憶力なかったのか?」
「先生たちは、名前ちゃんの時空眼の影響かもしれないって言ってたよね」


ヒナタの口から出た言葉に、私はぴくりと眉を寄せる。
ーー時空眼。
この数日で何度も聞いた、知らない言葉だ。


サイが顎に指を添えて言う。


「本には、記憶を戻すには、ショックを与えるとか、何か失った記憶に繋がるものを見せたり味わわせたらいいって書いてあったけど……」
「サイ君が言うならーーチョウジ、シカマル、フォーメーションやるわよ!」
「げっ、まじかよ。昨日もやったじゃねーか」
「この年になってヒーローごっこしてるみたいで、ちょっと恥ずかしいんだけどな。術ももう使えないんだし」
「名前の記憶を取り戻すためなんだから、文句言わないの!」


目を吊り上げたいのに言われて、シカマルとチョウジは渋々といったふうに私の前に立った。
三人が横一列に並ぶ。


「猪!」
「鹿ぁ!」
「蝶!」


猪鹿蝶の三人どころか全員に見つめられて、私は縮こまりながら小さく言った。


「ご、ごめん、特に何も、思い出すものはないんだけど……」


言えば皆は揃ってため息を吐いた。
サクラが目を落とす。


「そうよね……実際、前世のことを覚えてる私たちのほうが珍しいわ。それに、これからまた、新しい関係を築いていけばいいっていう考えも分かる」


だけど、とサクラは肩を震わせる。


「名前は昔と何も変わってない、優しくて、いつも笑顔で。……それでも、何か足りないって、感じるの。私の知ってる名前がいないって、思っちゃう」


強く目を瞑ったサクラの頬を一筋涙が流れる。
私は慌ててその頬を拭った。


「泣かないで、サクラ」


サクラは涙も綺麗だけどーー私のことで泣かせてしまうのは忍びない。


「私なんかのことで、泣かないで」


言えばサクラは泣きそうに顔を歪めると、嫌よ、と呟いて私の手を握った。


「お願いだから、思い出して……名前」










前世、前世と毎日のように皆に言われる私はとうとうコンピューター室に来るとインターネットで前世占いについて調べていた。
自分の名前を打ち込めば前世が分かるというその占い。
名字名前と入力し、自分の前世を調べた私は瞬いた。


「ーー時空眼を持つ忍」


試しに他の皆の名前を入れてみれば、意外性ナンバーワンのドタバタ忍者、やら、めんどくさがり屋の忍、と出てくる。
忍限定の前世占いなのかとも思ったが、試しに日頃テレビや雑誌に引っ張りだこの有名人の名前で占ってみたら、戦国時代のバッタだった。
どうやら私と、それに皆が奇跡的な確率で、前世は忍、と占われるらしい。


ーーなるほど、と私は思った。


おそらく皆はこの前世占いをやったんだ。
そして自分の前世が忍だと思った。
今の年頃は純粋で、また未知のものに憧れるものだからな。

そしてきっと、試しに転校生の名前でも占ってみたんだろう。
そうしたらその転校生も前世が忍なものだから、仲間だと思ってくれたんだ。
ああ、今まで悪いことをしてしまった。
分かっていれば、もっとちゃんとノったのに。

しかし時空眼とはいったいどんなものなんだろう。
……邪気眼、と似たようなものだろうか。


私は完全に心得て一人頷く。


中二病、という言葉があるように、今の年頃は少しミステリアスな人物に憧れたりもするものだ。
けれど行き過ぎると恥ずかしさも伴う。
私を仲間だと言ってくれるような素敵な皆の為だ、邪気眼ならぬ時空眼を持っていた者ーーという設定の若干行き過ぎた感のある役は、お望み通り私が引き受けよう!






「名前、今日も、思い出してねえのか?」
「……ナルト、私の第三の目を見たかったんだね」
「え?第三の目?」
「だ、だかしかし、その目が開いたとき、皆は地に伏していることとなるだろう!」
「……た、大変だー!名前が、名前が間違って、多分サスケの記憶を思い出しちゃったってばよー!」
「おいナルト!どうしてこれが俺の記憶になるんだ……!」




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