――苛々していた。
波の国での任務の後だと他の任務が余計下らなく思えていて、全くの足しにならねえことに嫌気が差していた。
そんな俺の気持ちなんて知らないように(当たり前だが)夕日が辺りを暖かく照らしていて、そんな無駄に柔らかい空気にさえ苛立ちを覚えていた。
そんな時――、
「なっ?!」
左の方から気配を感じて振り向けば、そこには宙を飛ぶ――名前が居た。
舞台上の観客
どしゃっ!と音と砂煙を立てて地面に転がる名前。
おい!と声をかけながら肩を支えて覗き込めば、コイツは目を丸くさせた。
そして直ぐににこっと笑う。
「サスケ、さっきぶり」
無事なことへの安堵と、呆れたことでため息が出る。
「さっきぶり、じゃねえ。何呑気に笑ってんだ、ウスラトンカチが」
「あはは…、修行していたんだけれど、ちょっと失敗しちゃってね…」
――…へえ、修行。
少しの興味を持つと、名前は、最近任務に出られていないから修行しなきゃ、と苦笑いを溢す。
任務、あれが任務か。
修行で埋める隔たりなんか全くねえような任務だな。
…大体コイツはそんなに弱くねえ。
アカデミーの時はそんなに気にしたことは無かった。
身体も弱いしな。
けど波の国の任務の時、コイツはあのドベやサクラとは比べものにならねえ、それが分かった。
「じゃあ、戻るね」
笑顔のまま立ち上がって、俺に手を振り演習場へと戻っていく名前を見る。
――毎日下らねえ任務をやって、家に帰って修行する。
……コイツと修行するのも、おもしれえかもな。
「――おい、待て」
「何であんな場所まで飛んで来たんだ?」
「ああ、あれは、新しい術を作ってたんだけど、どうにもまだ上手くいかなくて…」
「新しい術…どんなんだ?」
いくら此処が演習場の出入口に近くても、術を失敗して演習場を飛び抜けて来るってどんなだよ。
すると名前は少し困ったように笑った。
「その技、周りにも影響が出るんだよ。まあ、そういう術を作っている訳だから、当たり前なんだけれど…」
「…成る程な。俺のことは気にすんな、やってみろ」
「いや、でも……そうだ!サスケに被害が行かないようにするのも、術をコントロールする修行になるよね!」
閃いたように髪を輝かせた名前は、けれど「上手く扱えなかったらごめんね」と眉を下げて、印を組む体制になる。
…コイツ、俺のこと舐めてんのかよ?
…いや、コイツはただ優しすぎるだけだな。
――忍には向いてねえんじゃねえかと、波の国で思った。
馬鹿みてぇに他人のことばっか考えて、他人の為に行動している。
…誰がどうしようと、俺には関係、ねえ、けど。
「響遁 重音の壁…!」
瞬間、ドンッ…!と、全身に重力がかかって思わず足に力を入れる。
力を抜けば一瞬で地に圧し伏せられそうだ。
何とかそうはなってないものの、指の先まで動かせそうにねえ。
「サ、サスケ!ごめんね!」
次の瞬間にはふっとその重力が消えていて、コイツが上手くコントロールしたんだと分かった。
……コイツ、やっぱり全然弱くなんかねえ。
少しの悔しさに似たような、コイツよりは強くありたい、なんて訳の分かんねえ感情が胸の辺りに生まれる。
けどそれ以上に俺は、下らねえ任務の毎日からの転機に、愉しさのようなものを感じていた。
――…けどこの技…どういう仕組みだ…?
大体まず響遁…波の国の時も思ったがそんなの聞いたことねえ。
けどそれが関係している技だから、きっと――、
「音の波動か」
「わ、流石だね、サスケ」
「音の波動で周りの空気に圧力をかけ、相手の動きを封じる…か」
「うん、けれどまだその圧力も大きくないし、バランスがおかしいのか、術を解いたらさっきのように吹っ飛んでしまうんだよ」
――間。
「…………は?」
「あはは!サスケのぽかんとしている顔ってレアだよね」
「んなこと言ってる場合じゃねえ、ウスラトンカチが!術解いたからああなったのか?!」
「そうだよ」
からりと笑う名前は続けて「だから少し待っててね」と言って――、
「解」
術を解きやがった。
110430.