舞台上の観客 | ナノ
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名前が宿から出ると、ちょうどサイがやってくるところだった。
気づくとお互いに目を丸くする。


「名前、どうしたの?サクラに治療を受けてたんじゃ」
「治療はもう終わったよ。そしたらサスケが来たから、二人の邪魔をしちゃいけないと思って」


笑う名前にサイは、へえ、と呟いて宿の二階を見上げる。


「じゃあ僕も、戻ってきたところだったけど、また少しどこかへ行っていようかな」
「きっと喜ぶよ、主にサクラが」
「だろうね。二人の邪魔をしてサクラに怒られるのは勘弁だ」
「それだけサスケのことが好きなんだよ。それに会うのも久しぶりだって言ってたから」


うん、と言ってサイは続ける。


「名前、もうご飯は食べた?」
「ううん、まだだよ」
「それじゃあ一緒にどうかな。時間も潰せて、親交も深められて、一石二鳥だと思うんだけど」


名前は笑って頷いた。


霧隠れの里と言えば秘密主義なこともあり、他里の忍がやってくるとその者たちをじろじろと見定めていたのだが、戦争が終わってから、それらは無いにも等しくなっていた。
見慣れない顔だ、という好奇の目はすれ違い様に感じるが、それはどこの里でも同じこと。
木の葉の里は五大里のなかでも特に平和だと言われるが、霧隠れの里の活気も、何ら変わりないように見える。


人波のなかを歩きながら、サイが名前に言う。
いくらか声を張り上げないと、夜の賑わいに埋もれてしまいそうだった。


「あだ名を決めたいと思うんだけど」


言うと何故だか笑った名前に、サイは首を傾げつつ続ける。


「前に本で読んだんだ。仲良くなるには、まずあだ名や呼び捨てで相手を呼ぶことが大事だ、って」
「……ありがとう。こんな得体の知れない私に、そんなことを言ってくれて」


名前は静かにそう言うと、一転して明るく笑う。


「私のあだ名は、ブスでいいよ」


口許に手を当てて笑い声を上げる名前のことを、サイは暫し呆気にとられて見ていた。
やがてため息を吐く。


「あだ名って難しいなと思ったけど、やっぱりそれよりもずっと、女性の方が難しいよ」
「何かあったの?」


首を傾げる名前に、サイは頷く。


「前に、サクラにブスってあだ名をつけたら、それはもう阿修羅のごとく怒られてね」
「それは……だってサクラはブスじゃないから」
「え?ーーまあその後、別の女性に、今度は思ったことと逆のことを言ったんだけどーー」


言ってサイは、あ、と声を上げる。


「そういえば言い忘れてた。さっき火影様に任務報告をしたと同時に、里からも連絡が来てね。明日は雷の国に向かうけど、そこで木の葉の増援と合流するから」
「増援……そんなに力を貸してくれて、本当にありがたい」
「気にすることじゃないよ。ちょうどその二人は、別の任務で雷の国近くに行っていたから、都合がよかったみたいなんだ。それに事は世界の一大事なんだから、数は多いに越したことないよ」


名前は頷いて、気づいたように首を傾げた。


「増援は二人って言ったけど、任務は三人一組で行うはずだよね?」
「基本はそうなんだけど、その二人は、この任務に加わるほどには強いし、何より幼なじみで息も合うから、そうしてたまに少数任務をこなしてるんだ」
「幼なじみ……」
「木の葉を代表する三人一組だから、名前も知ってるんじゃないかな。猪鹿蝶って言うんだけど」
「ーーうん、知ってるよ」
「明日加わるのは猪と蝶、その二人だよ」


言ってサイはちらりと笑う。


「そのーーいのがね、さっき話してた女性なんだけど……名前?」


サイは不思議に思って名前を呼んだ。
名前は、ちらりと浮かべられたサイの笑みを、ぽかんと口を開いて見上げていた。


「どうしたの?」
「ううん……何でもない」
「そう?」


まだいくらか呆然とした様子の名前が少し気にかかりはしたが、当の名前に首を振られたので、サイは改めて話を始めた。
僅かではあるが楽しそうな様子を浮かべるサイの横顔を名前は見上げて、そうしてにっこりと笑った。















「あなたが名前ね。私は山中いの。今回の任務、よろしくね!」
「僕は秋道一族の秋道チョウジ。話は火影様から聞いてるよ。頑張って君を守るから、安心して」


雷の国の国境で、一行と増援は合流した。
名前は二人に挨拶と礼の言葉を返す。


「私は名字名前だよ。二人とも本当にありがとう。とても心強いよ」
「任せといて!私たちが加われば百人力よ!」
「でもいの、シカマルは?」


サクラの問いに、いのは慣れたように肩を竦めた。


「シカマルなら別任務よ。たまにあるでしょ」
「シカマルは頭が良くて隊を率いられるから、あちこちから引っ張りだこなんだよね」


ところで、といのは笑顔でサスケを見た。


「久しぶり、サスケ君。元気だった?」
「ああ」
「ちょっといの、何色目使ってんのよ!」
「ーーゲホッ」
「やだ名前、大丈夫?」


咳をした名前にいのが訊く。
笑って首を振る名前に、サスケが言った。


「無理はするなよ。隠すことで被害が出るのは、何もお前だけの問題じゃないんだからな」
「分かってる、本当に大丈夫だよ」
「サスケ、お前ってばもうちょっと言い方っていうものがあるってばよ」


ふん、と明後日の方向を向いたサスケに、ナルトが突っかかっていく。
その様子を呆れたふうに見ながら、ため息混じりにいのが言った。


「名前も大変ねー。せっかく護衛がついたのに、こんなドタバタの班だなんて。ーーサイ君も失礼なこととか言ってない?」
「嫌だなあ、いの」


サイがにっこり笑って答えた。


「名前はいのと違ってどうやら素直みたいだし、猫被りでもないから、失礼なことなんて言わないよ」
「やだもうサイ君ったら!ーー誰が猫被りですって?」


鮮やかな笑顔で言ったいのは突然サイの胸倉を掴み寄せて低い声でそう呟く。
沈黙が降りるなか名前だけが、それを見ながらも笑っていた。


すると左方から微かな物音がした。
振り返り感覚を研ぎ澄ませば気配も感じる。
口を閉ざし、僅かな警戒を見せる一行に、そちらから声が飛んできた。


「おーい、チョウジー!」


この声、と言ったのは、呼ばれたチョウジだ。


「カルイだ」


名前が、え、と目を丸くする。
声のした方へと歩いていくチョウジの後を追いながら、サクラが名前に説明した。


「カルイさんは雲隠れの里の忍よ。きっと雲からも増援を送ってくれたんだわ」
「それはとてもありがたいけど……」


名前は呆気にとられた顔のまま、先に合流しているチョウジとカルイを見る。
カルイの後ろにはもう二人いて、名前はその一方に見覚えがあった。


ーー確か、オモイさん。


残る一人は、金色の短い髪をした女。
特に記憶にないその人物から、名前の視線はチョウジとカルイへと戻る。
楽しそうに会話している二人に、名前は瞬いた。


「驚いた」
「どうしたの?名前」
「サクラ、いや……あの二人付き合ってるんだね」
「えっ!?」


サクラは驚いて声を上げた。
何事かと振り返ったいのの肩を掴む。


「ちょっといの!チョウジとカルイさんって、付き合ってたの!?」
「何よその話!?」
「だって名前がーー」
「あれ、違うの?」


サクラといのの視線を受けて、名前は頭を掻いた。


「そういう雰囲気だったから、てっきりそうなのかと思ったよ。それじゃあまだこれからなんだね」
「やだもう、名前の勘違い?」


いのに笑われて、名前は瞬く。
いのはおかしそうに腹を抱えながら言った。


「どう見たってそんな雰囲気じゃないでしょ。名前ってそういうことに疎いのね」
「確かに名前ったら、深読みしすぎよ」


すると面々を見渡していたオモイが名前の前へとやってきた。


「見知らぬ顔、ってことは、あんたが名字名前だな。護衛の手伝いをするよう言われてる。場所へ案内してくれ」


頷く名前に、オモイは続けて言った。


「任務が無事終わったら、雲隠れの里へ寄ってくれ。休む場所は用意してある。ーー雷影様が話をしたいとのことだ」










用意されてあった休む場所、というのは雷影邸だった。

雷影と話をする名前について来たのは、ナルト、サクラ、サスケの三人。
サクラは、名前の容態がもしも急変したときのため、サスケは話に興味があるから、そしてナルトは、知るあの熱血漢と名前を対峙させるのが不安だったためついて来た。


「お前か。時空眼という瞳力を持つ忍というのは」


そして、前に会ったときからいくらか時間は経ったがまるで衰えていないその覇気に、ナルトは予感が的中したと名前の前に出る。


「雷影のおっちゃん、相変わらずこえーってばよ。名前ってばさっき任務を終えたばっかりで疲れてんだから、もう少し優しくいこうぜ?」
「わしは何も怒ってなどおらんぞ。だが世界が滅びるかもしれないと聞いて、落ち着いてなどいられるか!」
「だからそういうとこだって……」


呆れて肩を落とすナルトを、名前が呼んだ。


「怖くなんかないよ。むしろ感謝してる」
「えっ、そうなのか?……名前ってば案外、度胸あるんだな」


名前は笑って頷くと一歩出る。
体の大きさがまるで違う雷影を、真っすぐに見上げた。


「名字名前と申します。この度は増援をありがとうございました」
「はたけカカシから連絡が来たからな。あの男が認めたとなれば、納得するしかあるまい」


それで、と雷影は訊いた。


「火影からの話によれば、お前たちが今消している時空の歪みは、ある男が過去を変えたために起こったものらしいな」
「それじゃあ俺たちは今、改変された過去から生じた時間の上に、生きているということか」


ナルトが頭上に疑問符を浮かべて眉を寄せる。
名前は俯いて首を振った。


「あのときは時間がなくて、言葉が足りませんでした。……男が変えた過去は遥か昔のことではなくて、つい最近の話です。遡れる時間には限界があるから、男が生きている時間からやって来られる時間は、最大で今」
「それじゃあ過去っていうより、ほとんど現在じゃねえか!」
「男は未来人だから、彼からすれば、私たちが生きている今このときも過去なんだ」
「そいつはいったい何者だ。何故過去を変えられて、そして変えようとしてる」


雷影に低く問われて、名前は言った。


「男の名はカサネ……強力な幻術使いです」


名前は目を落とす。


「けれどカサネが過去を変えられているのは、幻術を使えるからじゃない。おそらくは……すみません、私のせいです」
「お前の?」
「カサネを含め、未来から来た人たちは、私が時空の力を与えたと言っている。そしてそれは嘘ではないと思います。時間に干渉できる者なんて、他に知らない」
「けど信じてくれ、雷影のおっちゃん!名前は今、歪みを消そうと必死に頑張ってる。そしたら世界も元に戻るってばよ。間違っても、俺たちを騙して何かしようと企んでるような奴じゃあねえ。それは俺が保証する……!」
「ナルトーー」
「わしはまだ何も言ってないだろう」
「あ、そうだっけ?いやー、つい顔がこわいからーー」
「失礼なこと言うな!」


ナルトの頭にサクラの拳が落ちた。


「す、すみません、雷影様」
「いやーーそれで、狙いは何だ。男は何故、過去を変えるなんて愚行を働く」
「……世界を創り直す、と」


名前は苦い顔で首を振る。


「今までの歴史は争いばかりで、それは間違いだった。自分ならもっといい世界を創ることができる。だから世界をリセットするーーそう、カサネは言ってました」
「……何だよ、それ」


声を震わせ言ったのはナルトだ。


「おかしいってばよ、そんなの……!大体、争いが間違いだとか言っておいて、自分だって世界を壊そうとしてんじゃねえか!」


本当に、と名前が頷く。


「あの男の考えは、理解できない」
「……確かに忍の世界に争いは尽きない。わしらは憎しみを与え、また受けてきた。だが手前勝手な理由で世界を滅ぼすなんてことを、許せるはずがない!」
「もちろんです。ーー世界の歪みは残り三つ。必ず消します……!」


三つ、と呟いたサクラがハッと息を呑んだ。


「ねえ名前、そのカサネっていう男が過去を変えたから、時空の歪みは生まれちゃったんでしょ?それなら、最初歪みは六つあったけど、カサネは六回も過去を変えたの?それとも、一度変えただけで歪みが六つもできてしまったの?」
「……カサネが変えた過去は一つだけだよ。それに、過去を一つ変えるにつき生じる歪みは一つ」
「でもそれじゃあ、残りの五つは」


サクラの問いに、今度は名前は答えなかった。
眉根を寄せて黙り込んでいる。


「……本当に、付き合わせてごめん」


やがて名前は何かを呟いた。
それは小さな声で聞き取れなかったが、名前は顔を上げると口を開く。


「必ず世界は救います。時空の歪みはすべて消す。……歪みが残り一つになったとき、カサネは必ずやって来る。そのときが、決着のときです……!」




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