舞台上の観客 | ナノ
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「#お仕置き」のBL小説を読む
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女ーー名字名前と名乗ったその者の望みはカカシによって叶えられた。
最近起こっていた地震について調べるための任務を受けたナルト、サクラ、サイの三人がそのまま名前に同行することになったのだ。

名前に言われた通りに木の葉隠れの里を出て、火の国の外れへと向かう。


時間が無いからという名前の言葉で、四人はサイの術ーー墨汁で描かれた鳥に乗って目的地を目指していた。

前を行く名前の背、靡く琥珀色の髪を複雑な気持ちで見ていたナルトは口を開いた。


「それで、これから向かうところに、時空の歪み?ってのがあるんだよな」


名前は少しだけ振り返って頷く。


「その歪みは、世界にあってはいけないもの。だから私がこの左眼で時間を巻き戻して、消す」
「僕達に君を守るよう言っていたけど、いったい何から守ればいいんだい?」
「未来の人から」


三人に衝撃と動揺が走った。
名前はその反応を予想していたようで、顔を前へと戻すと説明を始める。


「時空の歪みに干渉すると、時空の交錯が起こる。未来と現在が、交わってしまうんだ。そしてその時を狙って、未来の人達が、私を消そうとやってくる」
「ちょっ、ちょっと待って!訊きたいことはいくつかあるけど、名前はどうして、未来の人に狙われてるのよ?」


名前は憔悴した顔で首を振る。


「分からない……一つ心当たりがあるのは、例の男が、私から力を得たと言っていた。だから時空に干渉出来るようになったと。それは分かるんだ。私の一族以外に時空に関わる忍なんて、知らないから。だけど同時に、男に力を与えた記憶なんてものも無い」
「どういうことだってばよ……?」
「未来で何かがあったのかもしれない。男も未来の人間だから」
「未来であなたが、そいつに力を与えてしまったかもしれないってこと……?」


サクラの問いに、名前は険しい顔でうつむく。


「どんな時の私でも、そんなことは絶対にしたくないって、思ってるはずなんだけれど……確認は出来ない」


名前は右手を、その右目へとかざした。


「時空眼は未来を視ることも出来るんだ。だけどとても負担が大きくてーーゲホッ、ゴホッ」


突然咳をした名前に三人は驚く。
けれど名前は慣れたものなのか、苦笑するように笑った。


「もう余裕がなくて……いったいどうして、自分が未来の人から恨まれるようになってしまったのかは気になるし、知ってその道を回避したいとも思うけど……やるべきことは、他にあるから」
「余裕がないって……もしかして、もう先が長くないの?」


複雑そうな表情で訊いたサクラを、名前は振り返る。
そして暫く、その瞳を見つめていたかと思えば、名前はにっこりと笑った。


「大丈夫。未来を平和なものにするまでは、私は絶対に死なない。だから安心して、サクラ。世界は必ず、守るから」


サクラは息を呑んだ。
そして首を傾ける。
勇気づけられるその言葉は何故だかひどく懐かしくて、サクラの胸を衝いた。


「そんで俺達が、お前を守るんだろ?だったら名前は、死んだりなんかしねえってばよ」
「ーーナルト」
「確かにお前ってば、まだ必要最低限のことしか言ってこなくて、謎ばっかりで、スゲー怪しいけど……でも、悪意とかそういうものは、何にも感じねえ。世界を守りたいっていうお前の言葉は本当だって信じてる」


名前がナルトを見て、眩しそうに目を細める。


「それなのに、せっかく守った世界で生きられねえなんて、そんなことあるかよ。平和になった世界で、きっとお前も、生きられるってばよ」


ナルトと名前を見守っていたサクラは強く頷くと、口を開いた。


「私、医療忍者なの。だから、あなたの体のことにも、きっと力になれるわ」
「うん、サクラの医療技術はすごい腕前だし、きっと大丈夫だよ。それにサクラはまるでゴリラのような怪力も持っていてーー」
「その情報、今いらないでしょうが!」


サクラの右拳が鳩尾に直撃して、サイは鳥の上で沈む。
そんなサイを見てナルトはひきつった笑みを浮かべ、サクラは名前に対して取り繕うように照れ笑いをする。

名前は思わず笑うと前を向き、一人静かに呟いた。


「それは、とても幸せな未来だ……」















ーーここだ、と名前が言ったのは周囲に何も見えない広い草原の上だった。
サイの鳥から降り立った一同は不思議そうに辺りを見回す。


「ここに時空の歪みがあるの?」
「うん、サクラや皆は感じないんだ。私は時空眼があるから、惹かれるような感覚がして、分かるだけで」
「そうなのか。歪みって言うから、俺ってばてっきり、こうオビトの時空間忍術のように、空気が歪んで見えんのかと」
「馬鹿ね。それだったら名前が私達に教えに来るよりも先に、誰かがその異変を報告してるでしょ」


名前が笑い声を上げる。


「そういう現象は確かに起こるけど、それは私が、歪みを巻き戻す時だけだね」


そうしていくらか歩いたところで名前が足を止める。
三人には何も見えない、いたって普通の空気である場所を名前は撫でた。


「ここに時空の歪みがある。今から巻き戻すね」
「巻き戻したら、すぐに未来から人がやってくるの?」


サイの問いに名前は頷く。


「およそ三十人ってところかな。私もなるべく早く歪みを巻き戻すから、そう数多くはやって来れないんだ」
「一人につき十人ね。いいわ」
「……本当は私も戦闘に参加すべきなんだけれど、生憎巻き戻しで精一杯で……彼らに邪魔されないように、私は少し遠くから作用をかけるね」
「それで、名前のところに行かせないよう、俺達が食い止めればいいんだな」


言ってナルトは首を傾ける。


「未来の奴らは、ここにある歪みを伝ってやって来るんだよな」
「そうだよ」
「なら歪みのすぐ傍で待機してて、こっちに来ようとした瞬間に押し返せばいいんじゃーー」
「うん、本当はそれが一番いいんだけれど、敵もそれを読んでいた時があって……爆発を近距離で食らってしまったことがあったんだ」
「もしかして、その時の傷が原因して体が悪いの?」
「あ、ううん。爆発を受けたのはーー」


言いかけて名前はハッとした。
そして言葉を濁すと首を振って、下手くそに話を終わらせる。


「それと未来から来る人達のことなんだけれど、私が歪みを消すまでのその間に、未来へと帰してほしいんだ。間に合うかぎりでかまわないから」


何かを隠したことは明らかだったが、無理に笑う名前を問いつめることは若干気が引けた。
それに先ほどから名前が言っているように、今すべきことは他にある。


サイが口を開いた。


「尋問部隊に引き渡すのはどう?」


名前は慌てて首を振る。


「彼らは何も悪いことはしてないから……ただ自分達の時を平和にしたいだけなんだよ」
「だけど、状況を把握すれば有利に動ける可能性はずっと高くなるんだよ」
「うん、分かってる……だけどそれでも、自分の生きてきた時とは違う時代に取り残されるっていうことは、すごく辛いことだから……」


何か思い出しているのか、名前は目を落とし、ここではないどこかに思いを馳せているように見える。


「分かった」


じっとその様子を見ていたサイが言う。


「名前の言うとおり、彼らは元の時代へと送り返すよ」


顔を輝かせると礼を言った名前に、サイもちらりと笑う。


「それじゃあーー」


そうして場所から離れようとした名前は、何か思い出したように声を上げると立ち止まった。


「もしも未来からやってきたのが例の男だった場合には、その身柄を確保してほしいんだ。多分まだ来ないとは思うけれど」
「まだ?」
「うん、本当は彼が来るのが一番望ましいことなんだ。元凶だから。ーーけれど時空の歪みは今世界に六つある。歪みがある限り男はそれを伝っていくらでも過去にやって来れるから、胡座をかいているんだよ」
「つまり世界の安全のためだけじゃなくてソイツを誘き出すためにも、歪みは消さなきゃいけねえわけだな」


名前が強く頷いた。
ーー走って三人からいくらかの距離を取ると、名前は静かに目を閉じる。



(ーー時空眼!!)



見守っていた三人が眼を見開く。
開かれた名前の瞳は白緑色になっていた。


けれど見入っている暇もない。
間髪入れずに空気が微かに揺れ始める。
そして何もない場所から本当に人間が飛び出してきた。

構えを取りながら、例の男ではないのかどうか、確認するため三人は名前を見る。
名前は即座に首を振った。











「ーーあいつらが皆未来の人間だなんて、信じられねえってばよ」
「確かに、術や武器なんかは、特に変わりがなかったものね」
「だけど彼らが何もないところから現れて、そうして消えたこともまた確かだよ」


サイの言葉にナルトとサクラは頷く。


ーー戦闘は終わった。
僅か一分にも満たなかっただろう。
現れた者達は皆実力的に三人の敵ではなかったし、彼らはこぞって名前を狙いに行くから動きが読みやすかったのだ。


未来の人間を全員押し戻したところで名前が時空の歪みを閉じたことを告げた。
そうして今は、歪みを完全に消す作業をするから何か影響が出てはいけないということで、名前に促されて三人は大分離れた場所から様子を見守っている。


サクラが肩をすくめて言った。


「なんにしても、オビトの時空間もそうだし名前のあの眼も……時空間忍術って不思議よね。あまり数がいないせいかもしれないけど」
「確かに、父ちゃんの術もスゲー強くて速すぎて、何が何だか分からなかったってばよ」


するとその時、三人の背後で微かな物音がした。
瞬時に振り返った三人は眼を見開く。
ナルトとサクラが揃って声を上げた。


「サスケ!?」
「サスケ君!?」
「ーー近くで戦闘が起こっているから何事かと思って来てみれば……お前らか」


サイがにこりと笑う。


「任務で来ていたんです。奇遇ですね、サスケ君。君こそ火の国内にいたなんて、知らなかった」
「そうだってばよサスケェ!近くに来たんならせめて少しは連絡くらいなぁ……!」
「連絡なんかじゃ駄目よ!里まで寄っていって!」


ナルトとサクラに詰め寄られたサスケがため息を吐く。


「木の葉へは寄ろうと思ってた。今はその道中だ。それより任務ってーー」


言ってサスケは視線を名前の方へと向ける。


「あの女か」
「そう、私達は彼女の護衛を任されたの」
「お前達三人が揃って護衛……?いったい何者だ」
「詳しいことは何も」
「はぁ……?」


サイの返答に、サスケは訝しげに眉を寄せた。
ナルトが名前を見たまま口を開く。


「サスケ、最近起こってる地震、あるだろ」
「ああ」
「名前は、それを止めようとしてくれてんだ」


眉を寄せて名前を見たサスケが眼を見開く。
名前の手が伸ばされたその先の空気が、歪み始めた。
ーー巻き戻しが始まった。





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