舞台上の観客 | ナノ
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夜の街を男女が歩く。
男が女を横抱きにし歩いているそれは微笑ましく、また可笑しい。
抱きかかえられた女の方が気分良さそうに鼻歌を歌っているのを聞いて、通り過ぎる連中は、酔っ払いかと納得したように笑った。
けれど何気なくちらりと見れば、男の方は五影の一角を担う風影で、ぎょっとすると思わず二度見する。


「我愛羅だ、我愛羅」


腕の中で楽しそうに名前を呼ぶと、首に回した手に力を込め顔を寄せてくる名前に、我愛羅は頬を緩める。


ーー結局会はお開きになり、男性陣は隣の部屋にいる女性陣を迎えにいった。
けれど何の手違いか、名前が飲んでいたのは酒で、立ち上がるとふらふらと踏鞴を踏んだ名前を我愛羅は抱き上げた。


そうして夜の街を二人でゆっくりと名前の家に向けて歩いているのだが、酒が回ったのか名前は完全に酔っている。
名前は基本的にいつでも笑顔だが、今は更にも増してにこにこと上機嫌だ。


盗み聞きをしていた時に名前が言ったように、最近名前は我愛羅が近付くと顔を赤くして逃げてしまう。
かといって昔のように、何も意識されていないからこそ近付いても逃げなかった時に戻りたいかと聞かれれば、それも違うが。
だから今のこうした状況が我愛羅には嬉しかった。


「我愛羅、ナルト達と久しぶりに会って、楽しかった?」
「ああ……名前はどうだ」
「私もとても楽しかった。カルイやテマリさんも元気そうだったし」


我愛羅は目を細める。
そして名前を抱え直すと柔らかな琥珀色に顔をうずめた。
夜の少し冷たい風と共に入ってくる優しい匂いは、ひどく心を落ち着かせる。


名前の家まで瞬身で飛ぼうかーー我愛羅はそう考えて、けれど止めた。


すれ違いざまに生温かいような、好奇の視線を向けてくる木の葉の人々。
それらを気にする我愛羅ではなかったが、頭の中で引っかかっているのは先程の会で何度か聞いた事実。
名前に言い寄っている誰かがいる、という話。


もしもすれ違った人波の中に、その誰かがいたのならーーそう考える我愛羅の独占欲に対しても、今回ばかりはテマリも、子供染みた真似をするなと言って叱ってはこない気がした。

















「ーー名前、着いた。起きれるか?」


暫くして、街外れにある静かな住宅街の片隅にひっそりと建ったアパートに着いた。
名前の家だ。
腕の中でうとうととしていた名前は我愛羅の声に何度か瞬くとぱちりとその目を開き、笑うと降りる。
いつもよりもいくらか足取りは危なっかしいが、名前は我愛羅の心配を余所にポーチから鍵を取り出すと扉を開ける。


「さあ我愛羅。どうぞ」


促す名前は、我愛羅が遠慮しても譲らない。
名前よりも先に家主の家に入ること、そして名前を後に残すことに後ろ髪を引かれる思いだったが、我愛羅は言われて玄関に足を踏み入れる。


「我愛羅、ちょっとだけ待っててね」


名前は言うと、我愛羅を残して扉を閉めてしまう。
戸惑い、焦った我愛羅が外に出ようとした時、呆気なく扉は再び外から開かれた。


驚き瞬く我愛羅に、名前はにっこりと笑う。


「ただいま、我愛羅」
「……お帰り。名前」


呆然としながらも我愛羅はつい返す。
すると名前は嬉しそうに笑い声を上げて、我愛羅に抱きついてきた。
勢いに押されながらも抱きしめ返した我愛羅の前で、扉が閉まる。
外界から閉ざされて、静寂が二人を包んだ。


我愛羅の胸に頬をくっつけて名前は言う。


「嬉しい。帰ってきたら、我愛羅がいる」
「ーー!」
「ただいま、我愛羅。一度やってみたかったの」


笑う名前を、たまらず我愛羅は抱きしめた。


「砂に来ればいい」
「え?」
「そうすればいつでも出来る」


名前は笑った。


「確かにそうだね」
「名前、お前を、砂に連れて帰りたいな……」


先程は些か呆然としてしまったが、今度はちゃんと、名前のことを迎えたい。
そして名前に、迎えてほしい。

想像しただけでこれほど幸せな気分に包まれるのだから、現実になったらいったいどうなってしまうのだろうと我愛羅は思う。


「好きだ、名前。愛している」


胸に抱えた気持ちを言葉にして伝える。
名前は顔を上げると、どこか得意気に笑った。


「私の勝ちだよ、我愛羅」


いつもと違う反応に、けれど我愛羅は緩んだ頬をそのままに聞く。


「勝ち……?」
「うん。だって私は我愛羅のことが、大、大、大好きだから」


我愛羅は目を見開いた。
顔を片手で覆うと、座り込む。


名前は続けて言った。


「そして我愛羅のことを、大、大、大愛してーー」


はたと止まると首を傾ける。


「大愛してるって、変だよね。なんて言えばいいのかな」


我愛羅は痛む胸をそのままに、名前のことをいっそう抱きしめた。


「死ぬ……!」


そうして呟かれた言葉に驚く名前だったが、きつく抱きしめてくる我愛羅に思わず詰まった声を上げた。


「名前に……殺される……!」
「ま、待って我愛羅。私も我愛羅に、殺されそう……!」





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