舞台上の観客 | ナノ
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「#年下攻め」のBL小説を読む
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「はい、私も好きですよ」


半ば条件反射で答えてから一拍置いて、私は慌てて問いかける。


「すみません。もしかしてまたリハーサルをやってました?私てっきり、自分に言われたのかと」
「ううん、合ってるよ。名前に言ったんだ」
「よかった。ーーでも先生、こうしてたまに言ってくれますけど、相談に乗ったからって言ってちゃ、誤解されちゃいますよ。相手が私だからいいものの」
「いいんだよ。俺は名前が好きなんだから」


私は笑う。


「恋愛的な意味でね」


続けて笑ってーーそうして、はた、と止まった。
言葉の意味を理解する前に思わず、え?とカカシ先生を見上げる。

先生は少しだけ吹き出すように笑うと、にっこりとその目を細めた。


「俺の好きな人は、名前だよ」






カカシ先生の言葉が頭の中をずっとグルグルと回っている。
けれどいくら経っても、何度瞬こうとも、先生は笑顔のまま何も言わないーー撤回しない。

私はぎこちなく首を傾けた。


「リ、リハーサルじゃ……」
「ないよ」
「えっと、それじゃあ……」
「俺はずっと、名前の相談をしてたの」


唖然とする私に、先生は続けた。


「言ったでしょ。俺の好きな人はびっくりするほど、鈍いってね」


ーーカ、カカシ先生の好きな人が私、だと?
リハーサル、は否定されたし……ならばドッキリ、は辺りに気配を感じないし……ほ、本当に?


「だから俺の恋人に、なってほしいんだ」


緊張感を抱えたまま私は目を泳がせる。
ーーカカシ先生の恋人。
そう考えただけで胸にわき起こるのは、申し訳なさだ。


「わ、私じゃカカシ先生の恋人にはーー」
「相応しくない。俺と名前はまさに、月とスッポン……って?」


私はハッと息をのんだ。
対して先生は少し得意気に笑う。


「ね?あながち間違っていないでしょ」
「あ、相手が私なら話は別です!私は本当に、カカシ先生の隣になんて……!」
「俺ほどの人間が好きになった相手に、魅力がないとでも言うのか?名前」
「ーー!」


閉口する私に、カカシ先生は機嫌良さそうに笑う。
そして手を取ると優しく引き寄せてきた。


「名前は、俺の好きな人が自分だとは、信じられないのか?」
「そ、そりゃあ……」


言いかけて、慌てて撤回する。


「いや、大丈夫です!疑ってなんかーー」
「そうかそうか。それじゃあ、話してあげる。俺が名前、お前を好きな、理由をね」


恐れ多い!と首を横に振って拒否する私に構わず、カカシ先生は私の耳元にスッと顔を寄せた。
低くて優しい声音で、私の名を呼ぶ。


「好きだよ、名前」
「カ、カカシ、先生」
「優しくて、仲間想いで、真っ直ぐな名前が大好き。誰かを守ろうとしている時の真剣な表情も、明るい笑顔も」


耳にかかるカカシ先生の声と息がくすぐったい。
けれど肩に置かれた手は大きくてあたたかい。


「だけど泣き顔と、未だに直ぐ誰かの盾になろうとするところは、ちょっとだけ嫌いかな」
「…………」
「名前、俺は火影として、里と仲間と想い、守っていく。だから名前が俺以外の奴らのことを考えてたって、許してあげる。言ったとおり、仲間想いなところも、好きだからね」


すると、その手は背中に回った。
抱きしめられて、思わず体に力が入る。


ふ、と微かに笑った気配がした。


「でもね名前、もうこれからはずっとーー俺の、腕の中にいてくれないかな」
「……先生……」
「未だにちょっと、思うんだよね。……名前はある日また突然、消えちゃうんじゃないかって」


私は息をのむと、慌ててその背に手を回した。


「もう二度と、何も言わずに消えたりなんてしません」
「……それじゃあ、俺の恋人になってくれる?」


変わらずどこか寂しそうなその声音に頷きかけて、止まった。
口をつぐむ私に先生は少し離れると、へらりと笑う。


「俺の恋人になれば、特典もついてくるよ?」
「げ、限定……!アドバイスをきちんと生かしてますね……!」
「そのために相談したからね。それで、特典なんだけどーー」


カカシ先生はにっこり笑うと、片手を口布にかけた。
私はハッと息をのむ。


「カカシ先生、まさか……!」
「口布の下、見せてあげる」


落雷のような衝撃を受けた。
何故だか頭の中では、色っぽいお姉さんが服をはだけさせながら、この下見たくない?と誘惑している図が浮かぶ。

いや、カカシ先生には確かに色気はあるけれど、色っぽさが、さすがに服がはだけたお姉さんとまではいかないし、何よりチラチラと扇ぐように指がかけられているのは口布だ。

ああ、それでもどうしてこう、隠されているものというのは、見たくなってしまうんだろう。
禁止されていたら破りたくなるという性。


「そ、その口布は、カカシ先生の全貌を特別な人に見せるため、他の人へは隠すための物だったんですね……!」


重大な秘密を抱えたようで胸が重くなる。


険しい顔で胸元の服を握って、そうして気づいた。
カカシ先生が言う特別な人が私だということに、改めて。


「まあ、特別な人に見せるため、っていうか、必然的に見せることになるよね」


言葉に首を傾けながら先生を見上げる。
すると先生の顔がスッと近づいて、目を見開いた。
息をのんでーー吐くタイミングが分からなくなる。


「だって」


見つめ合うなか、先生は口布を下ろした。


「キスする時に、いらないでしょ」













ーー唇が触れそうな距離で、先生は止まる。
そうしてゆっくりと離れて、頭を撫でられた。
その時ようやく、いつの間にか先生が再び口布をしていたことに気がつく。


ーー確かに、とカカシ先生は笑う。


「キッカケには、なれたみたいだね」


先生が私の頬に触れる。
その手が冷たくて、私は自分の顔が熱くなっていることを実感させられたのだった。



ーーわ、我が先生ながらなんと恐ろしいんだ、この人は……!
何だったんだ、今の、寸止めは……。

確かに私には恋愛経験なんてものは無いけれど、ここまで差があるなんて……いったい、何が違う?
年齢、経験、知識ーー知識?


ハッと私は息をのんだ。
脳裏に閃いたのはとある本。
先生の愛読書ーーそう、イチャイチャパラダイスだ。


「カカシ、先生」


何事も無かったかのように首を傾ける先生を真っ直ぐに見上げる。


「い、今のままでは私は先生には敵いません」
「確かに、あそこで踏みとどまれたのは自分でも、少しすごいと思ったよ」
「だから、もし……たとえばお、お付き合いをさせていただくことになったら、失礼になると思うんです」
「……よかった。考えてくれるんだね」
「はい。私まずは、カカシ先生の隣に立てるようになります。だから勉強、そして修行を、してきます……!」




ーー力強く宣言した名前が去ってから、カカシは一人言う。


「いやー、相変わらず名前は真っ直ぐで可愛い……」


そして、はた、と止まった。


「勉強、修行……?」





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