舞台上の観客 | ナノ
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嘘だ、と言ったのは一介の忍だった。


「どうして名字名前がそんな術を使う。俺達の仲間を生き返らせる。あいつは暁だぞ!」
「そ、そうだ!もしかして、仲間を生き返らせることで、許しを乞おうとしてるんじゃないのか?」
「いや、それじゃあ意味がねえ」


場の視線がシカマルに集まる。


「確かに、この戦争で死んだ奴らをよみがえらせれば、名前の罪は軽くなるだろうさ」
「だったら……!」
「だけど、その術を使えばあいつは俺達の記憶から消える」
「ーー!」
「なのにどうして許しを乞おうとする?俺達の仲間を生き返らせた後にあいつが許しを乞うて、誰がそれを覚えてる」


だから意味がねえんだ、とシカマルは繰り返した。
忍達に動揺と困惑が走る。

するとまた別の忍がオビトを指差した。


「こいつの言ったことを信じるのか!?こいつは暁で、戦争を起こした張本人で、仲間を大勢殺したんだ!」
「それに、歴史や人々の記憶から消えるだと!?そんなこと、ありえない!」
「ーーいや」


人群の後方からした声にざわめきが広がる。それは空に浮いた土影、そして火、雷、水の影達だった。
自然と下がる忍達、開く道を通って影達は話の中心であるナルトらのところへやって来る。


「前から不思議には思ってたんじゃ。あれほどの瞳力を持つ一族を誰も知らないことの方が、歴史や記憶から消えるという仕組みよりもはるかに可笑しい」
「まさかその理由が、そんな術の代償だったとはさすがに思いもしなかったけどね」


腰に手をあてて息を吐いた火影は、オビトを見やって続ける。


「だが本当に消えるのか、オビト。私達の記憶から。いったいどうやって」
「俺も詳しいことはよく知らない。ただ死者の命が巻き戻される時同時に、俺達の記憶から奴らの生きた証が巻き戻される。……本当に消えるかどうか。それはお前達が身を以て証明している」


場に衝撃が走る。


「ある一定以上の歳の奴は皆そうだ。あいつら一族の忘却の生き証人……いや、覚えていないのに証人というのも、可笑しな話だがな」


オビトは吐き捨てるように笑う。
険しい顔をした水影が口を開いた。


「けれど、いったいどうしてそんな代償が」
「説は色々ある。はるか昔、今よりもっと世界に戦いが溢れていた時代、便利な瞳術だと狙われないよう情報を忘れさせる為編み出したというもの。あるいは罰だというもの」
「罰?」
「確かに、死ぬよりは生きていた方がいい。だが忍にとって死は同時に覚悟の果てでもあった。そうなるとあいつらの術は、その覚悟を根本から覆すようなものだ。だからその罰を、たった一人で背負い償う為に忘れさせる、とな」


オビトは体を動かすと端々に起こる痛みに舌打ちをした。
ーー名前はご丁寧に、オビトが名前を追えない程度に体の傷を治していったのだ。


「とにかく、このままいけば俺達は名前のことを忘れる。まるで最初から、名前なんていなかったかのようにな」


その言葉にカカシは息をのんだ。
思い出すのは数年前、名前が里を抜けたと知った日のこと。


あの日カカシは、まるで名前が、最初からいなかったかのような思いをしていた。
誰にも何も知られずに、名前は消えた。
けれどあの時は、今まで名前がいた場所にぽっかりと穴が空いていたのも分かった。

しかし今度は、その穴さえ消えてしまう。


「名前を……忘れる……?」


呆然と我愛羅が呟く。
自分の手のひらを見つめた。
名前が暁に入ってから伸ばし続けてきた手だ。


「俺が名前を……忘れるのか……?」


こんなにも、想っているのに。


この気持ちを無くすなんて、我愛羅にはとても信じられなかった。




「ーーそれじゃあ」


一人の忍がポツリと呟く。


「どうして名字名前は……俺達の仲間を、生き返らせるんだよ……」


やり切れない思いはこぼれて、伝染していく。


「名字名前は、暁だろ。敵じゃ、ないのか……?」
「許しを乞うわけでもない。ただ、誰からも忘れ去られるだけだぞ……?」
「それなのにどうして、術を使う。あいつは敵じゃ、なかったのか……?」


どうして、とまた誰かが問いかけた。


「どうして名字名前は、俺達の仲間を……生き返して、くれるんだ」


ーー答えたのはオビトだ。


「それがあいつの望みだからだ」
「だから、それが分からないんだよ!暁の名字名前がどうして、連合の俺達が生きていることを望む!」
「説明するのは難しいな。俺に言えるのは、あいつは底無しの馬鹿だってことくらいだ」
「けど、なあオビト」


ナルトがオビトの肩を急いて掴む。
じっとしていたら可笑しくなりそうだった。


「名前の望みだってところは分かる。あいつはスゲー、優しい奴だから。だけど、それならどうして名前は、暁に入ったんだってばよ」
「…………」
「俺ってばさっきからパニックで、頭もよく働いてねえけど、ずっと話聞いてたら、可笑しいところに気付いた。それは、名前が暁に入ってるって点だ。あいつが連合側の忍なら、全部がすんなり理解出来る」


確かに、と忍達は口々に言う。

カカシが真っ直ぐにオビトを見た。


「知っているなら教えてくれ、オビト。俺達はずっと、名前が暁に入った理由が分からなかった」


ーー暫し置いて、オビトが口を開いた。


「助ける為だ」
「助ける為……?」
「ナルト、我愛羅、キラービー」


突然名前を呼ばれた三人は驚きを見せる。


「それに他の人柱力達と、尾獣をな」


ナルトはオビトに聞き返そうとした。
けれど喉が乾いて上手く言葉が出ない。


「名前はお前ら人柱力と尾獣を助ける為に、暁に入ったんだ」





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