舞台上の観客 | ナノ
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「ナルトだけでなく、サスケもカグヤと違い、愛が何かを知っている者だ」


六道仙人の言葉に、ナルトとサスケが去っていった方を眺める。
ーー二人は決着を着けるため行ってしまった。
視線をズラせばそこには地面に横たわるサクラと、そんなサクラのそばに佇むカカシ先生。
サスケを止めようとして、けれど幻術をかけられ意識を失っている。


ふと、サスケが里を抜ける時のことを思い出した。
あの時もサクラはサスケを止めようと必死で、そうして涙の跡をそのままに眠っていた。
サクラの一途さはずっと、変わらない。


「名字名前……この世に残る時空眼のたった一人の使い手」


すると六道仙人に名前を呼ばれた。
驚きながらも向き直れば、頭を下げられて更に瞠目する。


「人柱力や尾獣、それに他の色々なことについて、礼を言う。名前の尽力の御陰だ」
「そ、そんな、どうか頭を上げてください。私がしてきたことは人柱力と尾獣を離すこと。あなたの望みと真逆のことです」
「だがそれはあ奴らを想ってのことだった。それに最後はうずまきナルトを信じてくれた」


うつむいて笑う。


「それは私の功績ではありません。ナルトのおかげ……ナルトが、信じさせてくれたから」
「そうか……。だがお主は時空眼で過去を、歴史を視てきた。にも関わらず未来に希望を持ってくれた。そこにあるのは他の誰でもない、お主自身の強さだ」


過去は未来のためにある。
六道仙人が言った言葉だ。


ーー私はこれまで、過去のために未来を捨てていた。
人柱力と尾獣は相容れない関係だと左眼で視て、だからこれからも無理だと思っていた。
過去は、歴史は証明であるとそう、思っていた。
だけどーー。


「そんな下らねえ歴史は、俺が変えてやる!」


過去は未来のためにある。
過去の絶望があるからこそ、未来を希望に変えられる。
ーー世界は変わる。


爽やかな風が吹いて、私は笑った。
けれどあることを思い出して、六道仙人に問いかける。


「一つ聞きたいことがあるんです」
「わしの時間ももうそれ程無いが……許す限り何にでも答えよう」


頭を下げて礼を言う。
そうして真っ直ぐに六道仙人を見た。
脳裏にうつるのは彼の母親、大筒木カグヤの泣いている顔。


「カグヤは、私のことを知っているみたいだったんです」
「名前はその頃の記憶について……いや、視ていないか。そこまで過去のことは、もう必要ない」


六道仙人は答えた。


「名前、お前の一族の祖……この世で初めて時空眼を宿した人物は、カグヤの友であった」
「ーー!」
「その者はかつての母と同じように愛情に溢れ、人々を想い、そうして想われていた」
「そうだったんですか……」
「しかしチャクラの実を食べてから母は変わった。力に溺れ、たった一人でこの世を支配し……鬼と呼ばれるようになった」
「そして無限月読を完成させてしまった……」


彼は重く頷く。


「わしら兄弟はカグヤを封印することとした。けれどお前の先祖はどうしてもそのことに踏み切れなかった。かつて優しかった母のことを、一番近くで見ていたからな……」
「……その人は……」
「カグヤの時間を巻き戻そうとした。チャクラの実を食べる前の時間まで。……しかしその負担は大きく、途中で命を落とした」


六道仙人が私の肩に手を置く。
歴代火影の時と同じように感じる、あたたかいチャクラ。

ハッと見上げる私に、六道仙人は目を細めて言った。


「よいか名前。過去は、未来のためにあるのだぞ」










ーー六道仙人が消えて、私は空を見上げる。
ナルトとサスケの二人がこの場を去ってからもういくらかの時間が流れた。
空も少し暗くなってきている。


「ん……」


すると後ろでサクラの声が聞こえた。
振り返ると起きたらしい、サクラにカカシ先生が声をかけている。
私も足を進めて近付いた。


「ーー!名前!良かった……」


サクラの隣に膝を折って目線を合わせる。
言葉の意味が分からなくて首を傾ければ、サクラはうつむいたまま自分の体を抱きしめた。


「サスケ君が行っちゃって、ナルトが追いかけてくれて……まるであの時と同じ。だから私、名前もまた、消えちゃったんじゃないかって」


その言葉に思わず、サクラの震える手に自分のそれを重ねる。
けれど安心させる言葉を続けることは出来ない。

うつむいて、口を開く。


「昔、言ったよね。ナルトとサスケのことを絶対、仲直りさせるって」


「絶対に、最後は元に戻るから…!絶対に、仲直りさせるよ!」


「ごめんねサクラ、あの言葉についてなんだけど私ーーサ、サクラ?」


私は慌てた。
目を見開いたままのサクラの目からとめどなく涙が溢れている。

動揺する私に、サクラはギュッと目をつぶった。


「覚えて、たの……?」
「えっ、な、何が?」
「昔病院の屋上で言ってくれた、その約束のこと」
「わ、忘れたと思ってたの?」


今度は私が驚く番だった。


「だって名前、あの後直ぐに、里を抜けて暁に入っちゃったから」
「……言われてみれば確かに、やってることと言ってることが裏腹だね」


だけど、と私は笑う。


「忘れたことなんてなかったよ」
「……名前」
「だけど勘違いはしてたかもしれない」
「勘違い……?」
「うん。もっと、ナルトとサスケの仲直りは、難しいものだと思ってた。何年も経っちゃった時点で、簡単じゃなかったって言えばそうなんだけど……」


「私のことは、どうでもいいんだよ。ただ私は、マダラに生きててほしかった。柱間にマダラを殺させたくなかった。二人で並んで、生きていてほしかった。それなのに……ごめんね、マダラ……!」


「ナルトとサスケは大丈夫」


サクラが私の瞳をじっと見る。


「時空眼で視たの?」


私は首を横に振る。
時空眼が視せていたあの二人の未来はずっと、仲直りなんかじゃなくてーー。


「螺旋丸!!」「千鳥!!」


むしろその逆……仲違いの光景だった。


たとえば今、未来を視たとして、そしたら再びこの未来は現れるだろうか。
何度も現れ、絶望を与えたこの運命は。


ーーだけどもう、きっと私は落ち込まない。
諦めもしない。


「時空眼で視なくたって、分かるよ。サクラ」


たとえ戦ってしまったとしても、その先が大事なことを、私は学んだから。


ーー変わらないものと変わるもの。
ナルトやサクラ、カカシ先生や皆のサスケへの思いはずっと、変わらなかった。
だから変わる。
憎しみ合ってきた歴史が。
争いが絶えなかった世界が。


「どんな時でも、どんな場所でも。何が起こる未来であってもーーあの二人なら、皆なら大丈夫だって、そう思うんだ」




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