舞台上の観客 | ナノ
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「#年下攻め」のBL小説を読む
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「下がっていろ」


我愛羅が再度言う。


「巻き込む可能性はゼロではない。だがそれは本意じゃない。俺も、そしてーー名前も」


言われたとおりに更に私達から距離を取った忍達は我愛羅の言葉に動揺を見せる。

我愛羅が一歩前に、私の方へと足を踏み出す。
そしてそれと同時に私は一歩、後ろへと下がった。


「……我愛羅」


辺りへの警戒は解かないまま、緊張を胸に抱えて私は我愛羅を見返す。


「我愛羅とは……戦いたくない」
「……それは俺も同じ気持ちだ。だが名前、お前は誰とも戦いたくないはずだ。戦場での報告をいくつか聞いたが、お前はこちらの動きを止め、けれど何もせずに去っていく……お前に傷を付けられた者等誰もいない」
「確かに、それは真実だよ……だけど」


我愛羅とは、特にーー。


甘ったれたことを言っている自覚はあった。
それに戦いたくない、なんて言ったところで我愛羅が、それに連合の忍達が受け入れてくれるような望みじゃないことも重々承知だ。
彼らは私を簡単には行かせてくれないだろう。


けれどマダラさん達がいる場所は我愛羅の向こう。
どうにかして通らなければ、たどり着けない。
だけど、行かなきゃならない。
何故だか脳裏に焼き付いて、離れない未来があるんだ。


白眼を両目に宿し額にも一つの瞳ーー輪廻眼と写輪眼のようなーーを持つ長い白髪の女性。
彼女が未来に出て来たのはただの一度きり。
なのに、自分でも分からないけれど彼女の存在を稀な未来だからと無視できず、心臓が急かすように私を動かす。


ーー目を閉じて、長く、細く、息を吐く。
吐ききったところで私は目を開くと真っ直ぐに我愛羅を見据える。
印を結んだ。


「響遁・重音の壁」


押し通る……!


「響遁・軽音の術」


彼らの空気に圧をかけ動きを封じた私は間髪入れずに印を結び、次の術を自分にかける。
体が軽くなりスピードが上がった。


この隙に……!


地を蹴り我愛羅の横を通り過ぎる。
突破しようとした、けれどその時前方に砂の壁が立ちはだかる。
このままのスピードでは突っ込んでしまい砂に捕まる。
私は慌てて地面を削りブレーキをかけ、後ろを振り返った。
動きを制限された我愛羅は後目に私を確認していて、右手の人差し指だけを動かし砂を操っている。


するとクイ、と我愛羅の指が動いた。
途端に聞こえる多くの砂の音に、瞬時に再び印を結ぶ。


「響遁・重音の術」


前方にだけ現れていた砂の壁が四方に現れ、私のことを閉じ込める。
そうしてそのまま距離を縮めてくるので、このままいけば砂に捕まり動けなくなる。
しかし術で発した見えない壁ーー空に立つ時と同じ原理のものを私も四方に出したから、その透明な壁と砂とが押し合いになる。


一点集中で壁を破ってこようというのか四方でそれぞれ一カ所に砂が集まり、尖った先端が壁を押しやってくる。
空気が歪む。

私は両手の平をパンと合わせた。
外に向かって勢いよく消える壁の術と、弾け飛ぶ砂。


砂が我愛羅の方へと戻っていく。
他の忍達には未だ破られていないけれど我愛羅には既に重音の壁は解かれた。
我愛羅と私は再び対峙する。


「さ、さすが風影様だ……!」


本当、さすが我愛羅だ。
抜けない……。
それにチャクラが減ってきたのか、術のかかりがいつもよりも低い。
だけどそれにしたってこうも簡単に重音の壁を解かれるか……やっぱり砂のスピードには敵わないし……時空眼でいくしか……!


「名前」


すると我愛羅に名前を呼ばれた。
時空眼を開眼しようとしていた私は思惑に気づかれたかと緊張する。


「俺達は昔、手を取り合っていた」


けれど我愛羅のその言葉にハッとして、開眼しようと練っていたチャクラを戻す。


「だが俺がその手を離した」


連合の忍達が戸惑った様子で息をのむ中、私は構えていた手を下ろす。


「差し伸べてくれたお前の手を、血濡らせることさえした」


よみがえるのは過去ーー木の葉崩しの時の記憶。
あの時我愛羅は一尾にのまれ、尾獣を恐れ恨む人々の気持ちにのまれ、孤独にのまれていた。


「だがナルトに出会い、家族に支えられ、俺は人を信じることが出来るようになった」


私は頷く代わりに目を細めるとゆっくりと瞬きをする。

脳裏には、暁に捕らわれた風影を奪還しようと奮闘する砂隠れの里の人達や木の葉の小隊……それにさっき、一尾と協力する我愛羅の姿がうつる。


「しかし今度は、名前が手の先にいなかった」


我愛羅が私に手を差し伸べる。
私は目を見開いた。


「また、手を取り合いたいんだ」
「が、我愛羅」
「隣にいてほしい。笑っていてほしい」


完全に困惑している忍達。
同じく私も動揺しながら、そんな彼らと我愛羅を交互に見やる。


「我愛羅は風影で、私は暁なんだよ」
「確かにお前は暁だ。だが名前、お前は変わってなどいない」


断言する我愛羅に慌てる。

忍連合軍を束ねる五影の一人。
他に並びない人物である風影が敵にこんな言葉をかけてはいけない、駄目だ。


私はポーチからクナイを取り出すと右手に構える。


「響遁・軽音の術」


そうして直ぐにまた術を発動させ体を軽くする。
地面を蹴って、我愛羅の前へと一瞬で近づいた。
土煙が舞う中驚きの声を上げる忍達と、冷静に私を見る我愛羅。


「響遁・重音の術」


クナイの先に術をかける。
砂に防がれ弾かれたことで受ける反動を大きくするのが狙いだ。
弾かれ飛んで、私はそこから逃げる。
かなりの距離を飛べるだろうし、我愛羅の砂はクナイへの防御で使われるから追うにも少し遅れるだろう。
その一瞬の隙さえ出来れば十分だ。


我愛羅の首目掛けてクナイを振る。
近づいていくクナイに、声を上げる忍達。
けれど我愛羅は顔色を変えない。
それどころかーー。


「ーー!?どうして……!」


私は必死の思いで自分の手を止めた。
ーー嘘が苦手な私はおそらく演技も下手だろう。
けれど我愛羅に向かって思いっきりクナイを振ることは出来る。
こちらが躊躇しなくても、砂が我愛羅を守るから。


「砂の絶対防御が、出ない……」


けれど風影が持つ最強の盾、砂の絶対防御は、いくら私のクナイが近づこうとも現れなかった。


首の皮に触れるあと少しのところでやっと腕が止められる。
恐怖と焦りでドッと汗が出てきた。


「……お前に俺を殺す気など無い。母様も、それを分かっているのかもしれないな」


反射的に地を蹴り空中で翻り、我愛羅から再び距離を取る。
そして聞こえたその言葉を繰り返した。


「母様……」
「それに……名前にならたとえ傷を受けても構わない……その言葉を汲んでくれているのかもしれない」


「傷付くのを分かっていながら、傍に来てくれた」
「だから俺は、名前と戦う。今度は俺が、名前を守る為に」



名前、と我愛羅は私を呼んだ。


「俺にはお前が、ひとりの孤独な道に行こうとしているように思える」
「……孤独……」
「ひとりになるな。俺はお前の、傍にいたい」


「名前は、…ひ、ひとりじゃない、よ…?ぼ、…っ、ぼくでいいなら…!ぼくが、いっしょに、いるから」


ーー昔、我愛羅が私にくれた言葉。
家族が傍にいなくて、ひとりだった私に我愛羅が言ってくれた。

うつむいて、少しだけ笑う。


「確かに私は、過去はひとりだった。未来もそうかもしれない。だけど我愛羅は違う。我愛羅はひとりじゃない」
「……ああ。俺には多くの繋がりが出来た」
「我愛羅が気づいていないだけで昔から、その繋がりはたくさんあったけどね」
「昔、から……?その左眼で視たのか、俺の過去を」
「えっ」


私は慌てて弁解する。


「ち、違うよ、視てない!いや、出てきたことは何回かあったけれど、未来を選ぶ時に重要そうじゃないことっていうか、プライバシーに深く関わりそうなところは視ないようにしてるから!」
「……?視ては、いないのか」
「うん、さすがにその線は守ってるよ!あ、安心して……!」


暁に入っている時点で、プライバシーとかそういう犯罪的なことを気にしても今更な気もするけれど。


ーー昔私はベストポジションをどこからでも確保できる白眼に憧れていた。
時空眼はいわば、見逃した名場面などを過去へ遡って視ることが出来るものだけれど、いざ実際に視られるとなったらなったで、遠慮が生まれる。
難しいものだ。


「視ていないのにーー俺が昔から愛されていたと言うのか……?」


当たり前の我愛羅の問いに疑問符を浮かべながら頷く。
我愛羅は優しく、息を吐くように笑った。


「穢土転生された父様と、会った」
「ーー!」
「そして分かった……俺は父様と母様に、愛されていた」


その事実を確認出来た我愛羅に、嬉しくて私も笑う。
そうして口を開いた。


「私も両親に会ったよ」
「ーー!見つけられたのか……?」
「うん。もう、生きてはいなかったけれど……巻物の中にチャクラを残していてくれて、それで少しだけ会えた。ーーだから、いいんだよ我愛羅」


自身の胸に手をあてる。


「我愛羅と出会ってから私は、本当にたくさんの人に出会えた。その思い出は私の胸にはずっと残ってる。それにさっきも言った通り、我愛羅の周りには本当にたくさんの人がいる。そして里がある」


「名前は、…ひ、ひとりじゃない、よ…?ぼ、…っ、ぼくでいいなら…!ぼくが、いっしょに、いるから」
「我愛羅は、ひとりじゃないよ。…わたしでいいなら、わたしがいっしょに居るから」



「だからあの約束はもう、必要ない。私のことはいいんだよ、我愛羅」


ーー伝えた私に、我愛羅がポツリと呟く。


「俺は欲深いのかもしれない」
「欲?」
「ああ……家族、砂隠れの里の者達、そしてナルトなど他里の者達……俺には本当に多くの繋がりが出来た。だがそれでもーー名前、お前に隣に、いてほしい」
「が、我愛羅の言ってることがよく、分からない。だってーー」
「分かっている。俺はもうひとりではない。だが俺がお前に傍にいてほしいと願う理由は、自分が孤独だからじゃない」


疑問符を飛ばす。


「確かに昔、俺はひとりで、そして孤独が嫌いだった。けれど俺がお前に傍にいてほしいと望んだのは、孤独から逃げたかったわけじゃない。名前だから、傍にいたいと願ったんだ」


我愛羅が私を真っ直ぐに見る。
目が合って、名前を呼ばれる。

ひどく優しい、笑顔だった。




「俺はお前をーー愛している」




心臓が大きく鳴って、そして苦しくて、息をのむ。
一瞬で体中に血が巡ったのが分かる。
顔が熱い。
指の先が震える。
どうしてーー涙が流れる。


「だから、傍にいたい」


ーー言って、どうなる。


「人として、女としてーー名前のすべてを愛している」


ーー気持ちを伝えても、どうにもならない。
無意識の内に思わず首を横に振ると、我愛羅は続ける。


「どうして、愛さずにいられる」


ーーこの気持ちが、報われることはない。
我愛羅の私への想いは消えて、残るのは私だけ。
それはいつか必ず、私に不幸をもたらす。


「お父さんは、初めて私に想いを伝えてくれた人だったの。大切だと、一緒にいたいと、そうね」


ーーだけど。


「ぼ、ぼくも、名前といたい…!いっしょに…」


足を踏み出す。
我愛羅に向けて。
忍達が戸惑ったように風影を見て、そうして何か言おうと開いていた口を閉じた。


「最初は私でいいのか悩んだわ…だけどやっぱり、その想いが嬉しくて。そして私も、一緒にいたいと思った」


私は走る。
我愛羅に向かって。
そうして近づいたところで、手を伸ばす。
我愛羅が目を見開いた。


「じゃあ、いっしょにいようよ、我愛羅」


ーーだけど、それでも……!




「好きだよ、我愛羅」




首に手を回して我愛羅を抱きしめる。
涙を流しながら、そうして笑った。



「私も我愛羅を、愛してる……!」



ーーそれでも、心の奥に閉じ込めて無視をして、いつしか無くしてしまうにはーーこの感情はあまりにも大切で、あたたかすぎる。


「誰かを愛する気持ちーーこんなに素敵なものだったんだね……だから皆、キラキラ輝いて見えたのかな」
「名前……」
「ありがとう、我愛羅。ありがとう。私を愛してくれて。私に、愛するっていう、こんなにも大切な気持ちを教えてくれて……!」


だから抱えて、生きていく。


「私もう、これだけでずっと幸せに、生きていけるよ」


少しだけ離れて、我愛羅を見つめる。
すると思わず顔が歪んで、涙を流してしまう。
幸せなのにーー幸せだからこそ悲しい。

驚いて目を見張る我愛羅はどこか不安そうで。
最後くらいはと私は一度強く目を閉じ、それからにっこり笑った。


「名前ーー」


我愛羅の声が途切れる。
その目にーー輪廻の模様が刻まれていた。
辺りを見回せば忍達も皆同じ。


私は今、開眼させた時空眼で己の時間を止めていた。
だからかかっていないーー無限月読に。


空を見上げる。
月に宿る眼を見つめ、私は地面を蹴った。




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