舞台上の観客 | ナノ
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四代目火影の元へ行けーーそう九尾に頼まれた我愛羅は砂を飛ばし、九尾を抜かれ心臓を止めたナルトと、そのナルトの蘇生を繰り返すサクラと共に波風ミナトの元へとやって来た。
うちはマダラから離れはしたもののこちらはこちらで、カカシとミナト対オビトの体を支配した黒ゼツが一触即発の空気。


ナルトを助ける術を持つミナトに代わり我愛羅がカカシと共に黒ゼツと対峙する。
けれどミナトが、自身の中にいる陰の九尾をナルトへと渡そうとした瞬間、それは黒ゼツに阻まれた。
陰の九尾を奪われただけでも絶体絶命、しかし加えて場にはーー。


「遅いぞ黒ゼツ。こちらから出向いてやったわ」


うちはマダラが到着した。
ミナトらの近くには、マダラと共にやって来たのか、名前が空から降り立つ。






ーーピクリとも動かないナルトを見下ろす。
仰向けに倒れ、呼吸はしてない。
心臓も止まっている。
この眼ーー時空眼でそのことを確かに感じるから、分かる。

我愛羅、サクラ、そして四代目様を見た。


「ナルトに九尾の半身を入れる必要はありません」
「名前……!?ナルトの心臓は今、九尾を抜かれたせいで止まってる!息を吹き返すためには、尾獣が必要なの!」
「サクラ、ナルトは、死んでないんだ」


嘘、とサクラは一度言葉を無くすと、けれど直ぐに真っ直ぐに私を見る。


「私は確かに看たのよ、名前」
「ーー時空眼……君のおかげだね」


四代目様の言葉に我愛羅がハッとする。


「やはり人柱力を生かしたのはお前のその眼か、名前」
「……ナルトの体は今、仮死状態になっている」


私は四代目様に向き直った。


「私がナルトにかけている眼の作用を解けば、ナルトは無事に息を吹き返します。だから、九尾の半身を入れなくても大丈夫なんです」
「だけどこのままいけば、代わりにマダラが尾獣を手にすることになる。そうすれば、世界は終わってしまうよ」


後ろをチラリと振り返るとマダラさんの様子をうかがう。
カカシ先生、そして黒ゼツさんに捕らわれたオビトさんとジリジリと対峙している。

私は声をひそめて言った。


「終わらせません。そして、世界や国、里が終わるかどうかの重要な岐路に、もう尾獣や人柱力は立たせない。彼らに重荷はもう背負わせません」
「君は……」
「ナルトは生まれたばかりの時、里を救うためその身に九尾を入れた。そうして今度は世界を救うため、再び九尾を入れようとしている。それじゃあ何も、変わら……変わ……」


言葉を続けようとして、けれど途切れる。
ーーこのままじゃ尾獣と人柱力という歴史は何も変わらない。
そう続けようと思っても、脳裏によぎる光景と、望みを抱いた心が邪魔をする。


「……そうだね確かに世界には、変わらないことはたくさんある。僕が生きていた間も大戦は起こっていたし、今もそうだ。忍の世界から、争いは中々消えてくれない」


四代目様は続ける。


「だけどね、変わったことだってたくさんあるよ。君はその眼で、誰よりも多くのことを視てきたから分かってるはずだ。それにさっきも実際に視ただろう?だから君の中には今、迷いが生まれてる」
「名前の中に、迷い……?」


サクラがナルトの肩に手を置いたまま私を見上げる。


「ナルトは僕の信じた通り、いやそれ以上に、尾獣との共存の道を切り開いてくれた。手を取り合って、協力し合ってね。そして君はそれを望んでいるんじゃないのかな」


ーー左眼で視た、過去の記憶。
九つの尾獣が生まれた時、望まれていたのは強大なる力として恐れられることでも、各里の力のバランスとして分けられるーー戦力としてしか見なされないことでもなかった。
望まれていたのは共存。
人々と尾獣は手を取り合える……いや、取り合えると思っていた。

協力し合えるのかどうか。
その希望ともいえる問いを否定したのは過去、歴史だった。


「どうか息子を、信じてほしい」


四代目様の言葉にギュッと目を閉じる。


ーーオビトさんでは、成し得なかった。
十尾の人柱力……。


もちろん、オビトさんは事を急いて不完全にでも人柱力になろうとしたから拒絶された、それは確かにある。
けれど、それだけじゃない。
あの異常なまでの拒絶は、不完全だったから、だけではなくて尾獣達が拒否をし暴れていたからだ。


「人と尾獣が手を取り合うことなど不可能だ。いや、たとえ可能だったとしてそれが何になる?」
「尾獣は遥か昔に、各国の戦力バランスを均等にするために振り分けられたーーそう、道具だ。歴史を理解していないお前が、知ったような口を聞くな」
「尾獣は支配するべきだ。強大な力で以て、な」



尾獣と人柱力ーーその歴史を続けていくのなら、力で拒絶をも抑え、支配するべきなのか。


「九喇嘛を、尾獣達を、戦の為の道具として使ってきたお前には、何も分かんねえよ……!」
「そんな下らねえ歴史は、俺が変えてやる!」



それとも協力し合い、憎しみ合っていた過去を変えるべきなのか。


「尾獣を抜く……!人柱力は、つくらせない!」


ーー今までの歴史では、世界の幸せと、尾獣や人柱力の幸せは交わらなかった。
尾獣と人柱力はある種世界の平和の為に犠牲を強いられた者達だった。

けれどもし、全ての幸せが交わる未来があるとすれば、それは絶対にーー。


「ナルトを信じろ。名前」


声に、振り返る。
それはオビトさんだった。
ゼツさんの支配に汗を流しながら、荒く息をしながら抵抗し、マダラさんと対峙している。


「けれど、ナルトを、…信じて下さい」


サクラに名前を呼ばれる。


「名前、お願い。尾獣が、忍が、世界がーーナルトのことを、必要としてるの」


ーーもしも、もしも全ての幸せが交わる未来があるとするならば、それは絶対にーー。


「分かり、ました」


尾獣と人柱力の共存。
力を合わせることで、世界も幸せになる。
そしてその希望のような夢物語はナルトによって、実現される。


「ナルトに尾獣を託します」


四代目様はホッとしたように、そして嬉しそうに笑う。


「ありがとう」
「いいえ……私は尾獣を捕獲する手伝いをしていました。憎まれこそすれ、感謝の言葉を言われるなんてことは」
「それでも息子を、信じてくれたからね」


にこっと上手に片目を瞑る四代目様。
勇気づけられるその笑顔に、確かにこの人はナルトと家族なんだなと、笑み返しながら思った。


「ナルトの体の状態は、時空眼で支配しているので何かあれば直ぐに感じ取れます。九尾の半身をどうにかナルトに入れられることになったらその時に眼を解きます」


ただ、オビトさんの体が……。


振り返って、オビトさんを確認する。


十尾を抜いた時、時空眼はオビトさんにしかかけていなかったから、余裕もあったのか、オビトさんの体の状態を頭のどこかでハッキリと感じていた。
けれどナルトにもかける等、他にも時空眼を使ったことで体に負担がかかってきたのか、途中からオビトさんにかけている作用が弱まってしまった。
オビトさんの体の状態を完全には把握出来ず、加えてゼツさんに侵食させる隙を与えてしまったんだろう。


輪廻転生の代償でオビトさんが命を落とすことは回避出来たけれど、このままゼツさんに体を乗っ取られ輪廻眼を回収されるのも危ない。
ただでさえボロボロな状態なのに、そんな負担がかかったらーー。


私は地を蹴るとオビトさんに向かって駆けていく。


本当は左眼で巻き戻しをかけ、オビトさんからゼツさんを離すことが出来れば良いのだけれど、一度防いだとしても輪廻眼の回収を諦めることはないだろうし、何より私の体への負担は時間の停止よりも、巻き戻しや早送りの方が大きい。
もしも途中で、前の五影会談の時のように時空眼が解けてしまったら、その隙を狙われてしまう。
オビトさんは今、自力でゼツさんのことを抑えられている。
停止の作用をかけよう……!


走る足を止めてしっかりとオビトさんを時空眼で捉える。
けれどその時、視界の片隅にいたマダラさんが消えた。
そう思った次の瞬間には私の前に現れる。


「うちは返し」


マダラさんの手にした芭蕉扇が振られる。
その風を受けた時、私の体は完全に動きを止められていた。


信じられない……!
けれどこれ、まさか時空眼の作用を返された……!?
私の体の時間が止まってる……!


「子供の語る夢を信じたか……」


マダラさんが私の頬を撫でる。


「お前達はいつでもそうだ。現実は夢のように甘くない。そしてそれをその眼で視て誰よりも知り、味わっているのにーーそれでもなお、夢を信じる」


馬鹿な忍だ、そうマダラさんは言った。


「分かってきたなナルト、名前は誰も、裏切りはしない…本当に、馬鹿な忍だ」


視界にうつるオビトさんとカカシ先生が何故だかピクリと反応する。


ーーどうする……!
いっそのこと、時空眼を解く……いや、体の時間が止められている中で出来るのか……?
それにもし出来たとして、けれどそうしたらナルトにかけている作用も解かれてしまう。
息を吹き返したナルトは、さっきまでの戦いで疲弊しているし九尾も抜けたことからチャクラはほぼ無いはず。
そんな状態で、今のマダラさんとーー。


「どこかへ飛んでいろ」


考えを必死に巡らせていたその時、マダラさんがそう言うと私の腹に手をあてた。
何かが光り輝く。
けれど痛みも熱さなんかも何も無い。
ただーー吹き飛ばされている。
そう気づいたのは周りの景色が恐ろしい速さで変化し始めた時だった。

景色のかぎり凄まじい速さだと分かる。
けれど体の時間が止まっているから空気の冷たさを感じないし、風を切る音も聞こえない。
恐らく木々やら色々な物にぶつかっているんだろうけれど当然その痛みも感じない。


頭を切り替え直ぐに対処法を考える。
けれど響遁で空気に圧をかけスピードを落とそうにも体は動かないし、かといって時空眼を解くことはやっぱりリスクが大きい。
なので途中から諦めた。


マダラさんは私に飛んでいろと言った。
きっと私がいない内に全てを終わらせるつもりなんだと思う。
確かにここまで戦場から離されてしまえば、マダラさんの強さを考えてもまず間違いなく間に合わない。

だけど私は戦場の近くに結界をつくっている。
印を組んで、未来を視ていたあの結界まで飛ぶ。



ーーそう決めた時、時空眼がナルトのことを感じた。
時間が停止したナルトの体に、膨大な量のチャクラが入っていくのが分かる。


私は直ぐさま時空眼を解いた。
徐々に小さくなっていた光が腹を削る間もなく、再び時空眼を発動させる。
そうして光の時間を止めた。

光に押されることで浮いていた私は地面に軽く着地をし、何度も体の求めるままに呼吸する。
けれど時間もないので、数歩右に歩き光を避けると時空眼を解いた。
光は再び真っ直ぐ後方へと消えていく。
濃さは大分淡くなったのに、さっきの一瞬で腹は少し傷が付いたし、光が去っていく速さもまだかなりのものだ。


「ゲホッ、ゲホッ」


時空眼を解いたことで負担が体に現れる。
けれど今の内に一度発散させておいた方がいい。
このまま戦場に戻ろう。


かなり飛ばされたらしい、見覚えのない辺りをぐるりと見渡した私は印を組み、結界へと飛んだ。












ーー結界の中からは思った通り、まだまだ戦が続いていることを示す様々な音が聞こえた。
私は地を蹴りそのまま一気に空へ飛び上がると、マダラさんやオビトさんがいるだろうさっきの場所へ向かって走り出す。

けれどその時前方にある人物の姿が見えて、私は半ば反射的に空から地面へと逃げ降りた。

いくらか投げ倒されているものもあるけれど木々は姿を隠してくれる。
加えて少し遠くの戦いで起きた土煙等も漂っていて紛れやすい。

このまま木々を飛び移り場所へ向かおうとしていた時、けれど前方に何人もの忍の姿を確認して足を止めた。


「ーー!名字名前だ!」
「どうする、戦うか!?それとも報告を……!」
「報告へと向かう奴を、見逃してくれればいいけどな。それに報告と言っても、向こうでは他の奴らもまだ戦っている!」
「俺達は九人。奴は一人。それに戦も佳境だ!奴も大分疲弊したように見える!」
「油断するな!!」


忍達がその場を蹴って、円のように私を囲む。
一定の距離を保ったまま構えていく彼ら連合軍を私も静かに観察していく。


「敵は暁だぞ!疲弊しているのはこちらも同じ!それに奴は時空眼を持っている!」
「そういえば命令で、名字名前は時空眼のことを含め確認したいことが多々ある人物だから生け捕りにしろとあったよな」
「だけど今この状況で、生け捕りなんて器用なこと、出来るか?」
「殺す気でいけばいい……!それでやっと、丁度良いだろうさ……!」


相手は九人……連合軍の忍として各里から選ばれ、なおかつ今まで生き残っている。
手練れのはずだ。
けれど疲弊しているのは彼らの言葉通り。


なら、響遁でいく……!


耳を澄まし、神経を研ぎ澄ませ、印を結ぶタイミングをはかる。



「ーー待て」



けれどその時、頭上から声が降ってきた。


「それはそうと、戦いたくない奴はいるか。お前の使う響遁があまり効かなそうな奴など、色々と考慮に入れて、な。それらを踏まえて、配置を練る」


心臓が動いた音が聞こえた。
脳裏ではいつかのオビトさんの言葉が響く。


「お前達は下がっていろ」


私の前に、降り立った人物。
ーーやっぱりさっき空で、私が気づいたように向こうにも気づかれていたか……。


「ほう……?何故だ。理由はあるのか」
「……私の術の、天敵なんです」
「天敵?」
「重音の壁はもう力ずくで解かれてしまいましたし、私がいくらスピードを上げても、向こうの武器はそれより軽くて速い。私音の消失を使って惑わしその隙に逃げようとしても、相手は感知も出来ます」
「成る程確かに、厄介だな」



対峙する、その人物を私は真っ直ぐに見返した。


「名前とは、俺が戦う」
「名前とは、俺が戦う」


ーー五代目風影。


「我愛羅……」





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