舞台上の観客 | ナノ
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「なんじゃお前ら、超ドロドロのバテバテじゃな」


タズナさんの言葉にドアの方を振り向き、飲んでいたお茶を吹き出しそうになった。
何とか抑えたら激しくむせて、サクラが背中をさすってくれた。


――ああ…もう何だか、涙が出そうだよ、私は…。
ナルトとサスケも、最初は意地張り合っていたのに…。


修行から戻って来たナルトとサスケは言葉の通りにボロボロで、泥だらけだ。
そしてナルトはサスケに肩を支えてもらっていて――。


「……っ」


ほろり、涙が出そうだ。
波の国に来るまでの道中では「ビビり君」とか言ったりもしていたけれど、こんなに仲良くなっちゃって…。


うんうん、頷く。
すると向かいに座っているイナリ君が下を向いて震えているのに気がついた。

ぽたり、ぽたり、。
テーブルに涙が落ちる。


え……。
も、もしかしてイナリ君も、ナルトとサスケが一歩前進したことに感動して…――?


他のみんなも気がついて、イナリ君を見ると、イナリ君はばんっ!と机を叩いた。


「何でそんなになるまで必死に頑張るんだよ!修業なんかしたって、ガトーの手下には敵いっこないんだよ!いくらカッコイイこと言って努力したって、本当に強いヤツの前じゃ、弱いヤツはやられちゃうんだ!」


って、あ、あれ…?
修行を否定している、つまり今の今までナルトとサスケが修行してきていたことを否定している…。
……!
イナリ君はサクラを応援している派か…!
はっ!
も、もしくはナルトのサクラへの恋心を応援…。


「お前見てるとムカつくんだ!この国のこと何も知らないくせに出しゃばりやがって!」


ム、ムカつくって…。
じゃあやっぱりイナリ君はサクラを応援していたのか…。
なあんだ、涙まで流すなんて感情豊かじゃあないか。
それに他人も思いやれる。
けれどまあ、ムカつかなくても良いんじゃあ…。


「お前に僕の何が分かるんだ!辛い事なんか何も知らないでいつも楽しそうにヘラヘラやってるお前とは違うんだよォ!」


ぴたり、思わず固まる。
ナルトを見ると低い声で「だから…」と言っている。


イナリ君、流石に――。



「悲劇の主人公気取ってビービーないてりゃいいってか…。――お前みたいな馬鹿はずっと泣いてろ!泣き虫ヤローが!」



流石に、言い過ぎだよ。


ナルトはギロッ…!とイナリ君を睨むと、椅子を鳴らして立ち上がり、家から出ていってしまった。
目を見開きながら涙を流すイナリ君。


「イナリ君、ナルトにも色々あるんだよ。だから、あんまりナルトを責めないであげ」
「っ、うるさい!お前にだって、僕のことは分かんないだろぉ…!」


ぐわっと睨むイナリ君に、にこっと笑う。


「分かるよ」


するとイナリ君は一瞬怯んで、目をまんまるくした。


「イナリ君にとって、カイザさんがどれだけ大切な人だったのかは、分かるよ。だってイナリ君は、今そんなにも悲しんでいるから」
「…っ…」
「でもね、イナリ君。なら、幸せな思い出も、たくさんあったんじゃないのかな」


大きな大きな幸せを無くしてしまったから、後には深い深い悲しみが残る。


「だからイナリ君は今、何にも無いって、この辺りにぽっかり穴が空いてるみたいな、そんな気持ちになっちゃってる」


――でも、何も残らないなんて、そんなことないんだ。
それなら人間は、記憶なんて要らない。
何かを覚える機能なんて、必要ない。


「幸せが記憶になってしまったら、確かに負の感情を感じるよ?けれどね、幸せな記憶は、これからを生きていく糧になる。その幸せは無くなってしまったけれど、これからまた幸せを探していけるくらいの元気を、貰える筈だよ、イナリ君」


にこっと笑うと、イナリ君は鼻をすすって、そうして破られた写真を振り返った。






110421.