舞台上の観客 | ナノ
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空を駆け足を止めないままに印を結ぶと、右手を口元にあて指笛を吹く。
音は鳴らない。敵に位置を知られないように。
けれど目には見えない音の波が、地上を走る忍たちへと放たれた。
響遁の術の一種で、対象者の平衡感覚を狂わせることが出来る。
地上の忍たちは困惑したような表情を浮かべると、次々にふらつき地面へと倒れ込んだ。


それを確認すると私は足を止め、戦場を見下ろし再び状況確認をする。
尾獣捕獲はまだだから、今私にオビトさんから下されている命令はない。
なのでどこへ向かおうかと考えていた時、後方から風を切る音が聞こえた。
気配も感じて、振り返る。


「名字名前さん、ですね」


そこには墨汁で描かれたような鳥の上に乗る色白の男性ーー時空眼で何度か視たことがあるーーそれにカンクロウさん、そして色黒で何かを咥えている男性がいた。


鳥の上に乗る三人と、空の上に立つ私が対峙する。


「まさか、こんな最初から出てくるとは思わなかったじゃん。いざ戦争となれば、名前、お前ら暁側の戦力は、穢土転生とかいう術で生き返らされた連中と白ゼツたち。生身の人間のお前やマダラが出てくるのは、俺たち連合が消耗した頃かと思ってたぜ」
「……お久しぶりです、カンクロウさん」


カンクロウさんの言葉を受け流して、少しだけ笑うと挨拶をする。
それに、と私は続けて色白の男性を見た。


「カカシ班の、方ですね」
「ーー!僕のことを、ご存知なんですね」
「勝手ですが、この眼で何度かあなたのことを視ましたから」
「……僕はサイといいます。はじめまして。そして、これからよろしくお願いします」


私のことを見つめたまま表情を変えずに真顔でそう言うサイさんに、私と、そして色黒の人が目を丸くする。


「サイ!お前何言って……!」
「だって僕はカカシ班の一員で、そして名前さんも、同じカカシ班の仲間なんだ」
「ーー!」
「だけど僕と彼女は初対面だから、挨拶したんだよ」
「名字名前って、カカシ班だったのか……いや、でも班や里を抜けて暁に入ったんだぞ?挨拶したんだよ、じゃねーだろ!」
「でも、切れそうになってるつながりは、手繰り寄せないと」


サイさんの言葉に、脳裏にいつかのナルトが浮かぶ。


「僕も、勝手ですが、ナルトやサクラ、それにカカシさんから、あなたのことは聞きました。とても仲間思いな人だったこと。優しかったこと。ーーそして暁に入ってからも、それは変わってないっていうことを」
「…………」
「僕も、同じカカシ班の仲間のことを誰かから聞くんじゃなくて、直接関わりたいんだ。だから、ナルトや皆が名前さんとのつながりを手繰り寄せようとしているように、僕も、絶対にあなたを木の葉へ連れ帰る!」
「サイさん……」
「だから、よろしくお願いします!ーーブス!」


真剣な表情から一転、ようやく笑顔を見せてくれたサイさん。
美形だから真顔だとどこか冷たい印象を受けるけど、にっこり笑うと冷たさなんて吹き飛ばす!
可愛いはつくれる!
……いや、そんなこと思ってる場合じゃなかった。

今のサイさん、可愛らしい笑顔とよく晴れた青空がマッチしていて、今なら爽やか男子特集号なんて雑誌があったら表紙を飾れそうだけど(ただし眼下の戦場とはミスマッチ)……ま、まさかこんなに正直な人だったとは。


「サイお前、名前でブスって……お前の中の女のレベル高すぎじゃん」
「前に、女性に思ったことをそのまま伝えたら失敗したことがあるんです。だったら本音とは逆のことを言えばいいってことですよね」


時空眼で視る過去や未来の中では、一人一人の詳しい部分までは分からないことが多い。
というか分かろうとしない。
もちろん、大事な未来を選ぶために必要なことだったら、申し訳なさはあるけれど視る。
ただ物語の核心に触れないような、個人的な部分についてはプライバシーだから……。
そ、そりゃあ私は暁で、だから暁以外の人たちの物語が気になるところではあるけれど。
悪魔が囁いてきたりもするけれど。


だけど今まできちんと理性が働いてきたし、つまり天使の囁きに耳を傾けたから、サイさんをこの眼で視たことはあったけど、どんな人なのかまでは知らなかった。


美形な人が第七班に入ったな、とは思っていた。
もちろん他の班の人達だって容姿性格諸々が素敵だけれど、これでまた第七班の顔面偏差値が上がったな、と。


サスケにどこか似ているかもしれない、そうも思った。
だけど今こうして直接話してみて、その考えは間違っていたことが分かった。

だってサスケはツンデレだ。
しかもただのツンデレじゃない……ツンデレを極めし者、ツンデレ玄人だ!
……ツンデレがゲシュタルト崩壊しそうだ。
とにかく、対してサイさんは素直。
対極にいる存在だと言ってもいい。


「サイさん」


だけど……良かった。
サスケは基本的にデレよりもツンの方が多い。
サクラはサスケには素直だけどナルトにはツンツンしていたし、ナルトも、熱く真っ直ぐだけれどサスケにたいしてツンツン……というかムキになることが多々あった。
それにカカシ先生は飄々としている人だから……良かった。


「あなたがカカシ班に入って、本当に良かった」


素直なサイさんの加入によって、ツンが飽和しそうな第七班がまた素敵なものへとステップアップすることだろう。


にっこり笑って言うとサイさんは目を丸くして、何度かパチリと瞬きをした。


「いいんですか隊長?さっきからサイの奴、名字名前をこっち側に連れ戻す気満々ですけど」
「いいんだよ。つうか俺も同じ意見じゃん」
「ええっ!?砂隠れの隊長まで!?お、俺がおかしいのか?だけど名字名前が暁なのは確かなことだし……な、何がどうなってるんだ?」
「オモイ」


カンクロウさんが私を見たまま名前を呼ぶ。
それに色黒の彼が反応した。
オモイさん、という名らしい。


「雲隠れの二尾の人柱力、二位ユギトが、尾獣を抜かれたのにもかかわらず生きて戻ってきた……そうだな」
「え……そうッスけど……」
「それには恐らく、名前が関わってる」
「そりゃそうッスよ!尾獣を抜いてるのは暁で、名字名前は暁だから、関わってるのは当たり前……!……けど、隊長の今の言い方……名字名前が生かしたってことですか?」
「他の人柱力について確かなことは言えねえじゃん。ただ、我愛羅……一尾の人柱力の場合にはちゃんとした証拠もある」


名前、とカンクロウさんが私の名前を呼ぶ。


「お前の持つ時空眼なら、それが出来るじゃん」


ーーするとオモイさんが私の瞳を恐る恐る、といったふうに見てきた。


「でも時空眼って、聞いた話じゃ、すごい能力持ってる代わりに体力もすごい食うって……人柱力を狙っておいて、それでもわざわざ生かしたんだとしたら、何か裏があるんじゃ……」
「確かに、オモイ、心配性のお前じゃなくてもそう思う奴の方が多い。げんに先の会議でもそう懸念が出た。だから人柱力は戦場に連れてきてねえじゃん。それにーー」
「それに今は、きっとナルトに協力してくれている」


カンクロウさんの言葉をサイさんが引き継いだ。

私は無意識にピクリと眉を寄せる。


「ナルトに、協力……?人柱力の人たちが……いったい何を」
「尾獣の力をコントロールするためだよ。ペインが木の葉を襲ってきた時、ナルトは九尾に心と体を奪われて、そのままの状態で力を奮ってしまったから」
「コントロール……せっかくだけどそれは必要ありません。私たち暁が、ナルトから九尾を抜くから」
「らしくねーな名前。ナルトを信じるじゃん。アイツはきっと、尾獣とでも、力を合わせることが出来る」
「力を合わせる……尾獣と、人が……?」


カンクロウさんの言葉に左眼で視てきた過去が脳裏をよぎる。
私は顔を曇らせると首を横に振った。


「そんなこと出来ない……無理です」
「無理じゃない。うずまきナルトは根性がある奴だと思うしーーなにより今、アイツのそばにはビーさんがいる」


ビーさん……キラービー、八尾の人柱力か。
そうか、この黒い肌……雲隠れの忍。


「ビーさんは八尾を完全に制御してるどころか、仲良く会話までしてる。本当、我が師匠ながら変な人だよ」


尾獣を完全に制御……いや、それよりーー尾獣と人が、心を通じ合わせている?


八尾の人柱力のことは、オビトさんから頼まれたこともあって何度か時空眼で視たことはあった。
その中で尾獣化して戦っていた時もあったけど、それは尾獣に精神、体を乗っ取られたからだとばかり……。
今そのキラービーさんが、そして他の人柱力たちが、ナルトに協力している……。


「そして、尊敬もしてる」


オモイさんの言葉にハッと顔を上げる。


「俺はアンタと会うのは初めてだから、いくら仲間の言葉といえどアンタを信じることは出来ない。だから、師匠に手を出すのは、俺が絶対に許さねえ!!」


ーー私はこの左眼で、尾獣と、そして人柱力という存在が生まれた過去を知った、何を望んだかを知った。
私はこの左眼で、それからの尾獣たちと人柱力たちのことを視た。


未来は、変わるのだろうか。



ーー私はその場を蹴ると三人から更に距離を取る。
警戒するように体勢を低くする三人の中、私はカンクロウさんを見る。
そして名前を呼んだ。


「鉄の国での言葉……ありがとうございました」

「どうして俺らが名前を見てるか、って、そんなの、名前が名前だからに決まってんじゃん」

「とても信じられなくて、そしてーー嬉しかったです」


にっこり、自然と笑えばカンクロウさんは驚いた顔をしてからニッと笑う。


「やっぱり、素直なのが名前じゃん」

「それに私は」「大切だなんて、…思って、ないんですから」
「…やっぱり、嘘、全然上手になってねえじゃん」



私もまた笑う。
そして素早く、印を結んだ。


三人の声が聞こえたような気もしたけれど、今はもう空の上じゃあない。
あらかじめ用意していた小さな結界の中に私は瞬身をした。


時空眼で作用をかけた結界ーーこの中に入ればどんなに優れた感知タイプの忍にも気づかれることはないだろう。


(ーー時空眼!)


私は地面に腰を下ろすと右眼の時空眼を開く。
そしてーー未来に飛んだ。

未来は、変わるのだろうか。

視なければならないものが、出来た。





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