舞台上の観客 | ナノ
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――ギジ・セイド…。

「俺はお前に伝える為に、ここまで来た」

彼は、私に伝えることがあって中忍試験を受けた。

「俺の役目は、これで終わりだ!」

そして、死んだ…体に染み付いた忍術の秘密や、チャクラの性質、その体に用いた秘薬の成分、その他すべてを葬る為に…体の中に、無数の爆弾を仕込んで。


観客の私に、そこまでする理由…それが分からない。
けれど今回の出来事はどう考えても、その理由の在処は、私。
それならきっと、私の知らない私に――無くしている、幼い頃の記憶の中に、その答えはある。


木の葉の里を出で、とりあえずと道なりに進みながら、静かにため息をついた。


とは言っても、幼ないながらに私は昔ずっと、家族というものを探してて…それで結局は、見つからなかったわけで…。
あれから数年、探し物が得意になった、なんてことは別に無いし…。


私はピタリと足を止めると、一応は整備された道から、森の中へと進路を変えた。


とりあえず、忍五大国…大きな国、里は昔も探したから、今度は中、小規模な場所に焦点をあてよう。
過去、色々な人に聞いて回ったけど情報は得られなかったし…もしかしたら、人目につかない場所にいたのかな。
…いや、そもそも…。


「…見つかるかなあ…」
「今度は、見つかるのかな…」


私に家族は、いるのかな。



「見つかるさ」



森を抜けて、崖になっている場所の上で呟いた言葉。
それに後ろから返事が返ってきて、感じられなかった気配とに驚きながら振り返る。


「――久しぶりだな、名前」


そこに立っていたのは、右目の穴を中心に捻れ模様が施された仮面をした男の人。


「十年ぶり位、か。当たり前だが、大きくなったな」
「?あ、あなたはいったい」


するとその人が私の頭に手を置いたから、口をつぐむ。


「落とし物を、届けに来たんだ」


彼を見上げていたその瞬間、赤い瞳が私の瞳を見定めて。

その一瞬で、私の視界は殴られた時のようにぶれた。
赤い瞳…写輪眼にうつる私の琥珀色が、白緑色に染まっていく。
そして白緑が瞳孔にたどり着いた時…世界が消えた。
地面が無くなり、浮遊感を覚えるにつれ傾く身体。
そしてそのまま、闇の中へと落ちていった。


「――ま、俺に関しては少々いじらせてもらったがな」


――倒れてきた名前を抱きとめた仮面の男は一人言うと、腕の中の名前を見る。


「それにしても…今までで一番、似ているな」


そう呟くと、時空間忍術でその場を二人、去った。









――アジトの中、蝋燭の灯が茶色の壁の模様を揺らしている。
布団の上に寝かせた名前の近くの壁に、背を預け座り本を捲る。


「――ゲホッ、ゲホッ」


すると名前が咳き込んだ。
俺はは本を床に置き立ち上がると、そんな名前の傍に近づき膝を折る。


「戻ってきたか」
「ハァっ、はっ、ぁ、ここ、は」
「ここは過去でも未来でもない。現在、そして現実だ」
「げ、げん、じつ」
「時はまだ、中忍試験の最終試験を前にお前が木の葉を出たところだ。…思い出してきたか?」


震える手を握りしめたまま、記憶を辿っているのかどこかに視線をさ迷わせる名前。


無理もない、今の今まで名前は膨大な歴史の中に入れられていた。
時空眼とは過去と、そして未来を視られる瞳力…体はここにあるがその思考は実際にその現場にいっている感覚らしい。


「そ、それじゃあ私がいたのは、さっきまで起こっていたことは」
「過去は仕方がないとして…大丈夫、まだ起こっていないことばかりだ」


震えから歯を鳴らしていた名前は、よかった、そう漏らすと唇を噛みしめた。
そうしてまるでこわい何かを消し去るように目をつぶった名前の目から、涙がこぼれ流れる。

俺はそんな名前の頬に手をあてた。


時空眼で過去や未来を視れば、実際にその現場にいったような感覚に陥る…けれどそれは、特にこいつら一族にとってはとても辛いことだろう。
たとえ目の前で誰かが傷ついても、こいつらの叫びは聞こえない。
庇おうと身を飛び出させても、攻撃はこいつらをすり抜ける。
過去や未来でこいつらが流した涙は、その地面を濡らすことはない。


「あの」


すると落ち着いたらしい、名前が俺を見上げた。


「あなたは、マダラさん…なんですか?」


写輪眼の作用がきちんとかかっていることを確認し、俺は口を開く。


「ああ、開眼したその眼で見たか。…そうだ、ならば見ただろう、時空眼はそれだけで体に負担がかかるものだ。今は解いておけ」


俺の言葉に名前は素直にはい、と言うと目を閉じた。
そうして再び見えた瞳は琥珀色で、不思議そうに俺を見つめてくる。


「あの、どうして私の時空眼を開眼させようと…?」
「…そうだな、単刀直入に言おう…暁への勧誘に来た」


すると予想通り、名前は目を見開き驚いた。


「暁」
「そうだ、暁については、ま、その眼で視ただろう。説明はしない」
「どうして私を、暁に」
「尾獣捕獲、そして封印の際に、お前の時空眼の力が欲しい」


尾獣、と呟いた名前の瞳は時空眼ではないけれど、今さっきまで見ていた未来を振り返っているように思えた。


「暁、そして俺には…お前が必要だ」


名前は何か考えるように目を閉じる。

だがはっきりいって、俺には名前が、肯定の言葉を口にするのが分かっていた。
だから、暁に入る理由も。
そしてそれを知りながらも、俺は名前をこうして誘った。


「マダラさん」


名前は顔を上げると、俺を真っ直ぐに見た。


「私、入ります。暁に」


ああ、と俺は手を差し出す。


「歓迎する」


名前は俺の手に自分のを重ねると、それから、と言った。


「私の時空眼を開眼させてくれて…本当に、ありがとうございました」


今度は俺が驚く番だった。
にっこりと笑う名前に、何故だか喉の渇きを覚えて唾を飲む。


「お前の両親と俺との最後の会話を視なかったのか?」
「視ましたよ?」


不思議そうに首を傾げる名前。


「それならどうして、俺に礼を言う。――お前の両親は、時空眼を引き継がせることは望まなかった。けれどこうして俺はその願いを、約束を、破った…俺はお前に、歴史の重さを背負わせた」
「…確かに両親は、私に時空眼は引き継がせたくないって言ってましたし、歴史は、重いだろうけど…」


でも、と言った名前を見ると目が合う。


「私には、家族がいたから」
「見つかるさ」
「マダラさんが、見つけさせてくれたから」



どうしてだか無性に、名前を、抱きしめたくなった。


真実を知らないことは、どんなに辛い真実を知るよりも、辛いことだと思うんです…そう言った名前はまた、にっこりと笑った。



「だから、ありがとうございます。マダラさん」



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