舞台上の観客 | ナノ
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「…ようやく分かったよ」


過去の話をし終えたマダラ。
場に在る、驚きが混じった沈黙を破ったのは、カカシの静かな声。


「昔、名前が里を抜けてしまった時、俺達木の葉は、どうして暁が名前を引き入れたのか、分からなかった」


「とにかく、うちはサスケは勿論のこと、名字名前も抜け忍だ。特に暁に入ったとなれば…」
「綱手様…」
「何だ?ガイ」
「暁は何故、名前を誘ったのでしょうか。将来有望で抜きん出た奴なら、何も名前じゃなくても…」


「けれど、名前の眼の能力…時空眼のことを知って…そしてその時空眼についてお前が詳しいことから、理由が分かったよ」
「――!そうか、暁が名字名前を引き入れた理由は、彼女の持つ時空眼」


ヤマトの言葉に、カカシは頷く。


「暁の裏の支配者だったお前は名前の存在を暁に告げ、あの子を仲間にするよう、仕向けたんだろう」
「流石だなカカシ、察しが良い。――最初に暁を名前に接触させたのは、中忍試験の第三次の時だ」


ナルト、カカシ、ヤマトの三人が目を見開く。


「中忍試験の第三次って確か、死の森の中の建物で行われた、一対一の勝負…それじゃああの時の名前の相手は、暁だったのか?」


ナルトの問いに、けれどマダラは「いや」と言う。


「ギジ・セイド、だったか…あの男は別に、暁でも何でもない。ただのサソリの部下だ…ギジ・セイドは、戦いの最中で死んだだろう」


ナルトとカカシの脳裏に、中忍試験第三次での、名前の試合の結末――煙幕が晴れた時、呆然と立ち竦む名前と、息絶えた相手の男――が蘇る。


「あれは自殺だ。サソリの術で完全に操られていたアイツは、勧誘紛いのものを終えると自殺するよう設定されていた」
「暁ですらない下っ端は、情報露見の可能性を排除する為にも、用済みになったら殺すというわけか」


侮蔑を滲ませたヤマトの言葉に、再びマダラは「いや」と言う。


「遣いの者の死は、名前を一旦木の葉から出させる為に必要なものだった」
「名前を一旦、木の葉から出させる、って…名前が消えてた、本選までの一ヶ月の時のことかってばよ」
「ああそうだ…自分に何かを伝える為に試験を受け、そして死ぬ…そんな人間がいると知った時、他の誰よりも一番、アイツが困惑するのは分かるだろう」


それに何よりも、私に伝える為にこの試験を受けて、そして――自殺したっていうことなのか…?!
そんな…あ、あり得ない!
だって私は、わ、私は、そんなことをされるような、だって、…何で!
観客なのに!


「しかし名前自身に、心当たりは無い。けれどその時ばかりは流石のアイツも、何らかの理由が自分にあると、思わざるを得なかった」


――私に心当たりは無い。
それなら、私の知らない私に、答えはある。
小さい頃にずっと探してた、私というものに。


「だから名前は、自分の知らない自分を探し始めた。いつか昔、そうしていたように」
「…そして今度は、見つかった、ってわけだ」
「ああ、俺はその時に名前に接触し、時空眼を与えた」


カカシがキツく眉を寄せる。
そしてナルトが「なんで…」と言葉を漏らした。


「なんで…どうしてだってばよ!名前の親が名前に、時空眼を引き継がせたくねえって思ってた、って…さっきお前ってば、そう自分で…!」
「あの、白緑色の瞳を持つ奴らは」


言葉を遮られたナルトがハッとする。
けれどマダラはいたって普通に、のんびりと、と言えるくらいに、どこかを見ながら続けて口を開いた。


「俺に必要なんだ」


すると次の瞬間、マダラの胴体をカカシの千鳥がすり抜けた。
マダラを拘束していた縛りが巻き込まれ木片が宙に浮く。

突然の行動にナルトは目を見開き、同じくヤマトも動揺しながら「カカシ先輩!」と声を上げ印を結ぶ。

けれど当のマダラには、木遁が壊れた隙に逃げる気も、カカシの攻撃への動揺も更々無いようで、自分の身体をすり抜けていく雷遁を纏ったカカシの腕を横目で見ていた。


「――カカシ、先生…」


――カカシの千鳥が身体を通過し終え、ヤマトの木遁が再びマダラを拘束する。
荒く息をするカカシを、ナルトが呼んだ。


「忍はいつでも冷静であれ、だぞ?カカシ」
「いい加減にしろ、マダラ…!」
「フ…聞く耳無し、か」
「お前の勝手で名前に時空眼を与え、お前の欲望の為に、その眼を使う…あの子は、お前のものなんかじゃない」


カカシが両の目で真っ直ぐに、マダラを見た。


「名前は、俺達第七班の、一員だ」


そんなカカシの言葉に、驚いていたナルトが、笑う。


「クク、欲望の為に、か…」


「俺に必要なんだ」


「まあ確かに、強ち間違いじゃあないな…だがな、カカシ…親ですら望まなかった時空眼をアイツに与えたのは、確かに俺だ。しかし暁に入る決断をしたのは、名前自身だぞ」
「――!」
「それに俺が、名前に時空眼を与えた時…アイツは何を言ったと思う」


ナルトが眉を寄せ、控えめな疑問符を浮かべる。


「どういう意味だってばよ」
「…ナルト、お前も、色々とよく考えるんだな…名前という繋がりを、本当に手繰り寄せるのかどうか…とかな」
「ンだと…!」
「お前に、歴史の重さが支えられるのか?ナルト」
「――!」


息をのむと言葉を失ってしまったナルトをチラリと見たヤマトは、再び視線をマダラに戻す。


「それじゃあ、両親でさえ引き継がせなかった眼を彼女に与えた君は、歴史の重さを支えきれるから、そうしたんだろうね、マダラ」
「フフ…さあな」


するとマダラの辺りの空間が、右目を起点に歪み始めた。
ヤマトが「待て!」と木遁を強めるも、それは既にマダラの身体をすり抜ける。


「お前らとの会話、楽しかったよ」


マダラは赤い瞳で、歯を食いしばりながら見上げてくるナルトの、青い瞳を見下ろした。


「それじゃあな」





120514