舞台上の観客 | ナノ
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木の葉隠れの建物の、角が欠けたり、崩れかけている屋根の上を伝う。


「けど、火影になる時の室の巻物整理の時に、見ていた記憶があったのさ」
「ここには、さっき言ったような、時空眼についての説明と、それから、とある呪印のようなものが記されてあってな」
「それに手をかざし、自身のチャクラを流し込むと、時空眼を持つ者達のチャクラが現れるようになっている」


――五代目火影が言っていた、時空眼についてが記されている巻物…。
木の葉に向かっている時に、この巻物を奪う、っていうもう一つの目的を思い出して、そうして今、火影邸に向かっている。


「エビス先生、悪いけど、ここから先は一人で行けるか?これ」


けれどその時懐かしい声が聞こえて、私は少し息をのんで、場所を向いた。


「木の葉丸くん、どうして…いくら君が強くなったとはいえ、君の先生として、まだまだ危ない状況に君一人を置いていくわけには、」
「でも、先生、俺、守らなくちゃいけないんだ、これ」


そこには、木の葉丸がいた。
木の葉丸は笑顔で、少し崩れかけた小さなアパートを見上げる。


「ナルトの兄ちゃんは今ここにいないし、サクラの姉ちゃんもきっと、怪我人の手当てで忙しいと思うんだ、これ。だったら俺が、守らなきゃ」


その小さくて、色がくすんでしまったアパートは…昔、私が住んでいたものだった。


「名前姉ちゃんが帰って来る場所を、守るんだ、これ」


胸に満ちていく何らかの感情が溢れて、身体を動かす。
私は屋根から飛び下りて、アパートの向かいの建物の前に、着地した。


「――!名前、姉ちゃん」


拳を握りバッと振り返った木の葉丸が、けれど直ぐに、目を見開く。
そしてエビス先生、と呼ばれていた男の人が、手負いながらもヨタヨタと、木の葉丸の前に立ち塞がった。


「名前、姉ちゃん」


木の葉丸が、涙を流す。
そうして顔を強く歪めた。


「名前姉ちゃん、それ、脱ぐんだぞ、これ!暁の装束なんて、名前姉ちゃんには似合わねえ!」


私は少し、眉を寄せ下げる。


「木の葉丸にだって、情報はいっている筈だよ。私は、暁の一員なんだ」
「情報なら、来てるぞこれ!名前姉ちゃんが、アスマのおじちゃんの事件に、関わってるってこともな!」
「――!…ごめんね木の葉丸、私は、また今ここで、生かす殺すの善悪について話すつもりはないんだ。言っておけるのは、…私は、暁の一員なんだよ」


そして私はもう、昔みたいに木の葉にいることはないよ。
と、そう言えば木の葉丸はまた顔を歪めて、エビス先生の前に出た。
そうして両手の間にチャクラを集め始めて――けれど直ぐに、地面に膝をついた。


「あ、あれ…?どうしてだ、これ…?ナルト兄ちゃんに、教えてもらった技を、」
「木の葉丸くん!恐らく、チャクラの使いすぎです!また一人暁と戦うことなんて、今の君には無理です!」
「でも、俺、…名前姉ちゃんを、力ずくでも、」


ナルトに教えてもらった技…もしかして、螺旋丸?
両手の間にチャクラを集めていたし、多分、そうかな。


「新技も覚えたんだ、これ!」
「忍法!お色気の術!」


少し、目を細める。


「木の葉丸は知らないかもしれないけれど、私は、木の葉を抜ける時に家の家具やらを全部、消したんだ。そのアパートにだってもう、私の帰る場所なんてものは無いよ」


すると木の葉丸は、地面に膝をつき、荒い呼吸をしながら、けれど笑う。


「なら、ドアを開けてみればいいんだ、これ」
「…?」
「結構、大変だったんだぞ、これ」


私は木の葉丸の言葉に少し困惑しながら、昔の住まいだったアパートに向かって、足を踏み出す。

エビス先生が、守るように木の葉丸に身体を寄せる。

懐かしい、くすんだクリーム色のドアの前に立って、冷たいドアノブに手をかけた。


「――…!」


そして、目を見開いた。

懐かしい部屋が、昔のまま、そのままに、在ったから。


「ど、うして」
「ナルト兄ちゃんと、サクラの姉ちゃんと、集めたんだ、これ」
「そんな、…どうして、」
「どうして…?そんなの、名前姉ちゃんが、いつでも帰って来れるようにする為に、決まってるぞ、これ」


私は、震える呼吸をしながら部屋に入る。
そうして、木で出来た机の上にある写真立て――カカシ班が結成された時に撮ったものを、手に取った。


「――名前、一旦、木の葉の外に出ろ」


するとその時、耳元の無線からペインさんの声がして。


リーダー、私が木の葉にいること、気づいていたんだ。


私は、写真立てを机の上に戻す。
けれど少しそれを眺めてから金具を外して、写真を取り出し、ポーチの中にしまった。


「名前、姉ちゃん」


――部屋を出て、未だ地面に座る木の葉丸を見下ろす。
そして木の葉丸に向かって、手を伸ばした。


「まだ火影様に挑戦してるんだね。木の葉丸は偉いねえ」
「偉い?偉いかこれ?!」
「うん、上を上を目指すのはすごく良いことだと思うよ。私も木の葉丸に負けないくらい頑張らなきゃなあ」
「名前姉ちゃんは俺が守ってやるんだぞ、これ!」
「あはは、ありがとう」


けれど直ぐにエビス先生がクナイを構えたから、その手を止める。


「…木の葉丸は、偉いね」


するとエビス先生は少し息をのんで驚いて、クナイを構えた右手を揺らした。

だから私はまた、少しだけ手を伸ばして木の葉丸の頭に優しく、手を乗せる。


「成長、してるんだね」


目を見開いた木の葉丸の頭を少しだけ撫でて、そうして私は振り返り、地面を蹴った。





120208