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――木曜日、夕暮れどき。
任務につくすべての者が場所に着いている予定のとき。
けれどそこには――名前の姿しか無かった。


「――――……」


協定式が結ばれる、中心の台座から二時の方向の木の上。
からだを縮めて、膝をかかえて、顔をうずめて。


…分かってたような気は、するんだ…。
本当にみんな、来るのかなあ…、って。
水曜の昼に学園を出て、今日の昼に…みんな、ここに来るのかなあ、…って。
 分かってたよ、誰も、――来ないことなんて、さ…。


目を閉じて、浮かぶのは。
天女様が来るまえ、そして、私の秘密が知られる前の、みんなとの、日々。



「名前、飯を食いにいかないか」
「うわあ、名前!この怪我大丈夫?どうしたの?」
「名前、大好きだ」
「眠いんだったら一緒に寝ようぜ、名前」
「だったらみんなで一緒に寝ようよ!ね、名前――」



ほんの、数ヶ月前には…違う、一ヶ月前にだって、あった筈なのに……もう、淡い色で包まれてる、薄れてる。



「――その血、落としてきたほうが良いんじゃないか」
「うん、愛さんには会わないようにね!」
「愛さんは血が嫌なんだ」
「まあ愛さんが来たら、足音で直ぐ分かると思うぜ」
「だから愛さんだって分かったら、直ぐ方向転換してね」



睫毛がふるえて、目から涙がこぼれ落ちた。
 濡れる視界にうつる空気はもう、暗くなってきている。


「――会い、たい…」


会いたい、会いたい…!
みんなに、会いたい……!
天女様なんかに、あんな女なんかにおかしくされる前の五人に会いたい……!


「三郎…雷蔵…兵助…ハチ…勘ちゃん……」


会いたいよ……!!!




するとその瞬間、協定が結ばれる中心の台座から、爆音が響き渡った。


「なっ…?!」


驚きながら立ち上がると、台座は滅茶苦茶に潰れていて、残骸が見るも無惨に散らばっているだけで。
 そして徐々に、わき上がるような声が聞こえてきた。
 数秒後、そこには争い合う両城の侍や忍が――。


「な、んだよ、これ…!」



「ま、その二つの城はもう長いことずっと協定を結んでいるからな。毎年行われる、再確認の恒例行事ってとこだ」



「いったい、何が…――!」


すると直ぐ後ろで、人が降り立つ音がして――振り返った私の視界に、黒く光るクナイがいっぱいに映った。





111013