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「名字」
「はい、先生」


この前の試験の結果。
31点。
ちなみに、100点満点のテストだ。
赤点は30点未満で、そしたら追試を受けることになる。


おお、ぴったり。
追試をギリギリで免れたは組そのものだ。
いくら何も出来ない名字名前だからって、追試は面倒臭いからな。


興味が無いその紙を、折って折ってゴミ箱に。
弧を描いて消えたそれを見届けて、外を眺めた。








「まあ適当に自主練でもしてろ。あ、的当ては絶対一回はしろよー基礎は大事だからなー」


クナイや手裏剣を全部投げ終えて、へたりとその場に胡座をかいて座る。


「お、相変わらずいいコントロールだな、名前」
「ちゃんと自主練してんのか、偉いじゃん」
「私ってば真面目だからな」
「悪い、耳の調子が…」


同じは組の数人との軽いやり取りに緩く笑みを浮かべて、空を見上げた。








――名字名前が来る、数分前の食堂にて。


「はあ…」
「どうしたんだ?三郎」
「兵助ー」
「ハチまで、みんな、何かあったのか?」


五年ろ組の鉢屋三郎が前に置かれた定食を少し食べては箸を置き、また少し食べては箸を置きを繰り返している。
そんな三郎に苦笑しながら、優しい手付きでその髪を撫でるのは不破雷蔵。
その二人と机を挟んで向かいに座る、竹谷八左ヱ門。
そして竹谷の隣に座り定食を置くと直ぐ様竹谷に抱き着かれたのは、久々知兵助だ。


「今日ろ組の移動教室の時に、中庭では組が自習授業だったんだけどよ」
「ああ、名前か」
「そう、名前、名前…!名前の馬鹿…!」
「うわあ、落ち着いてよ三郎」
「でも雷蔵だって、三郎の気持ち、分かるだろ?」
「…う、そりゃまあ…」
「ああもう!三人とも私に分かるように説明してくれ!」
「私は嫌だ。思い出すのも嫌なのに、言葉になんて」
「俺も三郎に同じく」
「…はぁ……あのね兵助、最初一人で、名前は自主練してたんだよ」
「ああ」
「そしたらクナイを投げ終わった時には組の人達が来て」
「……」
「名前はその人達の肩に頭を預けて寝たの」
「………………」
「それでそのままは組の人達は、寝ちゃった名前をおんぶしてその場を去ったんだ」


ぎゅう、と、四人の手に力が込められる。


「あぁ…本当もう、思い出しただけで泣きそうだ」
「俺もだ三郎…」
「ちょっと二人とも!話したのは僕なんだから!」
「その光景思い浮かべたけど…叫んでいいか?」
「直で見るよりマシだぜ」


騒がしいお昼時の食堂で、暗い空気を醸し出す四人。
――そんな時に、名字名前が食堂に入って来た。






――今日の定食は、っと、唐揚げ定食と焼魚定食か。
よし、唐揚げにしよう!
…それにしても、もう少し空いている時間に来れば良かったかな。
…座れるかな、はは。


ほとんどが埋まってしまっている席を眺める。

と、見馴れた面子が。
三郎、雷蔵、ハチ、兵助。


…物凄くこっち見てるけど…私か、私を見てるのか?


「はい、A定食だよ!」
「あ、はい、ありがとうございます」


ぺこりと頭を下げて、盆を掴んで、空いてる席を探す為に歩き出す。
すると、勢いよく立ち上がって此方に来るのが視界に入って、私はまた視線を戻した。


も、もしかして三郎の饅頭を勝手に食べたのがバレたか!
いやでも、それに対して四人揃って報復なんて…!


思ってる内に四人が前にきていて、それぞれ様々な表情をしているのを見上げる。


「――名前の馬鹿!目が合ったら普通こっち来るだろ!」
「なん、」
「椅子なら持ってこれるから一緒に食べよ、名前」
「あり、」
「ほら、持ってやる」
「大丈、」
「行こう、名前」
「……うん」


全部…遮られたな…見事に。
この連携プレー…グルなのかそうなのか。


兵助に手を取られて歩き出して、雷蔵と三郎の間に置かれた椅子に座った。

すると隣の三郎と雷蔵が、私の肩をつつく。
右に三郎、左に雷蔵。
全く同じ笑顔の二人。


「どっちが三郎で」
「どっちが雷蔵?」


こく、お茶を飲みながら二人を横目でちらりとね。
ことりと湯呑みを置いて、息をひとつ。


「右が雷蔵で左が三郎!」

「違う!私は三郎!」
「もう、名前ー」


騒ぐ三郎と苦笑する雷蔵。

――毎日のように繰り出されるどっちでしょうに失敗するのは、これで四年目程だ。


三郎と雷蔵を見分けれる人はほとんど居ないから、馬鹿な私としては当然見分けれない部類を選んだんだけど…続けている内に、逆に珍しい部類になったんだよな。
いくらなんでも数年経てば、まぐれで何回か当たるよね、普通は。
…でももう変えられなかったんだよなあ。


「ごめん、私馬鹿だからさ」


だからもうご飯食べよう。
二人が拗ねるように両側から抱き着いてきてるから、箸が持てないんだ。
つまりご飯が食べられない。


「三郎も雷蔵も、名前離せよ!」


兵助…ありがとう、私が困ってるのに気付いて言ってくれたんだな。


「二人だけズルいぞ!」


って、えぇえええ?
なんでだよハチ、私が困っているからじゃないのか。
兵助も頷いてるし、お前もそういう理由だったのか。


「ふは、拗ねんなって」
「可愛い可愛い」


するりと私に抱き着く手を緩くして、兵助のでこをピンと突く三郎。
ハチの頬を撫でる雷蔵。


…兵助もハチも幸せそうだ。
本当にみんな、仲良いよね。
今は何故だか居ないけど、勘ちゃんも。
…私お邪魔虫じゃないか。
居ちゃ駄目じゃないか?
よし、早く食べて早くここから去らねばなるまいな。


自由に動かせる程度になった左右からの巻き付き。
――そしてそれが再び強くなったのは、飯を食べ終えた私が去ろうとした時だった。











――暗闇が辺りを包み込む中、月の光で薄らと輝く城。
その近くの木の枝の上に、着地する。


巻物の回収だったよな、この任務内容。
…まだ楽なほうだよね。


忍術学園の忍服とは違う、闇と同じ黒い色。
口布を上げ直して、闇に溶け込んだ。


――五年は組、名字名前。
座学も実技も出来ない落ちこぼれな、は組の中の、落ちこぼれ。





10/08/17.