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ぁ……、と。
何か言おうとして、けれど何を言えばいいのか分からなくて、結局自分の口から漏れたのは、乾いた言霊の欠片だった。

月も雲に隠れていて、四人の顔がよく見えない。
すっ、と。
歩いてきたのは三郎だった。


「名前……私達に、薬…盛った、ろ……」


胸元の服を掴まれる。
ぐにゃりと寄り掛かってきた三郎。


――…薬が効いてないわけじゃない、のか…?
なら考えられるのはひとつ。
薬を作った人が薬の量を、私が頼んだ量とは変えたんだ。


脳裏に、栗色の髪の一学年上の先輩が浮かぶ。
どうやら自分は、柔らかい笑顔の下の洞察力と元来の優しさによって、お節介を受けたみたいだ。


「ねえっ名前、名前っ。なんで?なんで僕らに薬盛ったの?これから何処に行くんだよぉっ…!」
「……雷蔵、キツいだろ?無理するな」
「名前、何故だ、何処に行くんだ…?私達も一緒に行く。私達は一緒だ、ろう…?」
「兵助……みんなも、私が何処かへ行ってること、気づいてたのか…?」
「つい、最近だよ…!ううっ…最近やっと、気づいた!」
「勘ちゃん……」


泣かないで、なんて。
今の私には言えない。
言う資格が無い。

けれどそうして、私は気づいていた。
――もう隠すことは出来ないと、そう解った。

ふう、と息を吐いて、床に倒れたまま泣いているハチを見た。


「ハチ…大丈夫、か?悪い、少し強くしてしまった」
「謝んなっ…!あと、何処にも行くなよ!――俺達は六人でひとつだろ…?!」
「……それは、今までの偽者の私の話だ」


下を向いて少し笑う。
――ああ、出来れば、卒業までずっと隠していたかった。


「私は、は組の中でも落ちこぼれだ。けどそれは嘘だ。私はみんなよりも強い…というか、まあ、自惚れじゃなくてな」
「なんで…そんなこと…」
「……色々あってね」
「それより!今は今のことを考えるべきだ!何処に行くんだ、名前!私達を、置いて行くな…!!」


涙を流す三郎にギッと睨まれる。
その頬に手を伸ばし涙を拭って、そして笑った。



「人を殺しに」



息をのむのが聞こえて、そして出来た隙をついて、私は部屋を飛び出した。
追ってこれない、寧ろ私の部屋まで来れたこともすごい、そんな五人の状態を分かってて、私は飛び出した。

黒い口布を、持ち上げて。
私は人を、殺しに行った。






110310.