じゅうまん | ナノ

子供と英雄


「誕生日?トゥーシーくんの?」

ギグルスちゃんが家に来た時は肝が冷えそうになったが、どうやら今回は女子会の誘いではないらしい。
首を傾げてオウム返しすると、ギグルスちゃんは頬に手を当てた。

「そうなの。本当は大人全員呼んでパーティーしたいんだけどトゥーシー自分の為のパーティーとか照れて何も話さなくなっちゃうから、毎年私とカドルスだけで小さなお誕生日会するの。それで、今年は伊夜もどうかしらと思って」
「私は全然大丈夫だけど、いいの?私混ざっちゃって」
「いいのよ、だってトゥーシー伊夜のこと割りと好きだもの」

割りと、ね。まあ、彼女がせっかく誘ってくれたのだから行くけれど。
明後日なんだけど都合ある?と尋ねるギグルスちゃんにいつもは有無を言わさずなのに珍しいと感じながらも頷いた。
だが、プレゼントどうしよう。

「トゥーシーくんって何あげたら喜ぶかなぁ…ギグルスちゃんあの子の好きなもの分かる?」
「ヒーローね」
「ああ、うん。そうだね…」

即答されてしまったが、流石に渡せないだろうそれは。

「毎年、といってもヒーローがこの街に現れてからだけど、私はヒーローのグッズとかあげてたわよ。ほら、ヒーロー展なんかもあるじゃない?あまり手に入らないものだけど、ちょっとお金持ちのボーイフレンドから譲って貰って、去年はそのチケット渡したら泣いて喜んでたわ」
「そっかぁ」

お金持ちのボーイフレンドについては何も聞かないことにしよう。というかヒーロー展とかあるのね。スプレンディド知ってるのかな?許可したのかな?
それは置いといて、どうしようかな。私もグッズ渡せばいいかな?

「でもトゥーシーってヒーローオタクだからかなりグッズ集めてるのよね…そこらへんに売ってるものなら絶対もう持ってるからおすすめしないわ。まあ、あげても保存用にって貰ってはくれると思うけど」
「ええ…」

なら、どうしたらいいんだ。
腕を組み眉を寄せる。

「まあ、プレゼントなんて気持ちが一番だから、あまり深く考え過ぎないでね」

至極正論なのだが、それでも大人として下手なものは渡せないのである。
それじゃあ、また明後日来るから場所あけて置いてね。その言葉を最後にギグルスちゃんは立ち去ったが、あれ、私の家でやるの?
もしかして、そのために誘った?会場提供のため?え、悲しい。

「ヒーロー、か…」

ヒーローヒーローってアイドルか何かじゃないんだから…。普通に話したらいいのに。
あ、でも、ギグルスちゃんがよく助けてもらうけどヒーローってあまり話してくれないのよね、とため息を吐いてたことがあったっけ。

「よし」

これなら彼も喜んでくれるだろう。
私はリビングに戻ると、ソファーにごろりと寝そべった。



「お誕生日おめでとう!」
「おめでとー、トゥーシー!」
「おめでとう」

ぱん、とクラッカーを連発して私の家を容赦なく汚していくカドルスくんを横目に、ほんのり顔の赤いトゥーシーくんにお祝いの言葉を投げかける。
ケーキはお誕生日会するなら食べてー、とランピーさんが作ったものを有り難く使わせていただいている。
他の大人達も気を利かせてトゥーシーくんではなく私にこっそりと食べ物やプレゼントを渡してきた。
直接渡すとやはり照れてしまうようだ。

「私からはこれ、ヒーローのサイン」
「ヒーローのサイン!?」

崖から飛び降りるの勇気いるんだからね、とトゥーシーくんに色紙を手渡すギグルスちゃん。呼ぶために態と危険に飛び込んだらしい。もし助けに来なかったらどうするの危ないこと止めて。
サインとか…よくスプレンディドを説得したものだ。
トゥーシーくんはプルプルと震えながら壊れ物を扱うように色紙を手にした。感動で瞳が揺れている。

「ボクは頑張ってここ1ヶ月のヒーローの活躍を動画に撮ってきた!結構近くまで行けたからきっとレアだよー!」
「ま、マジでか!」

これまた感動で打ち震えてるトゥーシーくん。近くまで行って撮るとか巻き込まれたらどうするやめろ。皆危険顧みずいろいろやりすぎだ。
まあ、今回はトゥーシーくん嬉しそうだから許すけど…。
大事そうにプレゼントを抱えながら、トゥーシーくんが最後の私を見る。

「で、お前は何だ?ヒーローの等身大フィギュアか」
「何で私にだけそんかお高そうなもの求めるの、フリッピーさんの負担を考えなさい」
「お前が払えよ!」

馬鹿を言うな。私は無一文だぞ。恐らく等身大ともなればミスター諭吉が一万や二枚では済まないし私にどうしろと。臓器でも売れっていうのか。

「お金ないしフィギュアなんてあげれないけどさー」

その時インターホンが鳴る。開いてるから入っていいよー、と軽く叫ぶと、ちゃんと聞こえたようで、玄関から誰かがペタペタと歩いてくる。

「プレゼントにはならないかもしれないけど、本物連れてきたわ」
「伊夜、急にヒーローの姿で家に来いってどうしたんだい…ってあれ?」

がちゃりと開けられたリビングの扉。赤いマスクに赤いマント姿のスプレンディドが現れると、シンッと部屋が静まり返った。
スプレンディドは私の後ろにいる子供達を見て首を傾げる。

「ヒーローだ…」
「本物ね…」
「ぼんぼぼどびーどーだ、だだだ…!」
「何て?」

唖然とするカドルスくんとギグルスちゃんはいいとして、トゥーシーくんのテンパり具合がやばい。
本物のヒーローだ、かしら、と苦笑いのギグルスちゃんはまだそこまで驚いてはいないようだ。まあ、よく助けられるから慣れてるか。

「生放送での、お送りです…?」

ガタガタと震えているトゥーシーくんに冗談混じりに言うが、いつもなら放送じゃねえだろ、なんて減らず口を叩くというのに何の反応もない。

「ええと、私お邪魔しちゃったかい?」

何が何だか分かっていないスプレンディドが戸惑いながら尋ねると、私が説明する前にトゥーシーくんがハッとしたように大きな声でとんでもないです!と叫んだ。
耳が痛い。


「いつも伊夜さんにお世話になっているトゥーシーといいます。本日はお忙しいところをありがとうございます」
「あれ、誰だこの子」

スプレンディドに丁寧にお辞儀をするトゥーシーくんに事の詳細を耳打ちして大体把握できたスプレンディドはさわやかに気にしなくていいよ、お誕生日おめでとう!と笑みを向けた。
トゥーシーくんが吐血しそうなほどに噎せた。彼今日死ぬんじゃないかな。

「そ、それで、ヒーローは伊夜さんとはどういったご関係で…?」

その伊夜さんっての気持ち悪いんだけど。
猫被ってんなよ。
スプレンディドは笑顔で首を傾げた後、思考の為か視線をさまよわせた。

「今は友達、かな」
「今は?」
「ああ、今はね」

やめろ私達ズッ友だろ。曖昧なスプレンディドの言葉にギグルスちゃんは食いつく食いつく。

「まさかヒーローは伊夜のことが好きなの!?」
「まさか!そんなはずないだろギグルス!よりにもよってこいつを…ヒーローに失礼だぞ!」

その言葉は私に失礼だと思うな。
子供の視線がヒーローに突き刺さる。スプレンディドは何かおかしな事でも言ったかな、といった顔をしてから人差し指を立てると唇に押し付けて秘密、と微笑んだ。
ギグルスちゃんが悲鳴を上げる。
私は慌てて変な冗談は言わないのーと笑顔をひきつらせてスプレンディドの横に立つ。

「私はそんな冗談は言わな…っ!」

思い切り足を踏みつけたらやっと黙ってくれた。子供達が納得したかは知らないがとりあえずもう話を流してお誕生日会の続きを促す。

「あれ、私まで混ざってもいいのかい?」
「はい!もう今日の主役はヒーローみたいなものですから!」

ええ、何を言ってるのトゥーシーくん。
お誕生日会の参加許可にスプレンディドは少し嬉しそうだ。まあ、お誕生日会とかしたことなさそうだからな、友達いないし。

「ええと、プレゼントになりそうなもの…あ、これ作りすぎたから持ってきたんだけどよかったらまた家で食べてくれ」

スプレンディドが思い出したように手に持った箱をトゥーシーくんに渡す。
どうせパンだろ。また作りすぎたのか。いつも作りすぎてるじゃん、量調節しろ調節。
トゥーシーくんは一瞬石化したかと思うとヒーローノテヅクリ、と片言でそれを受け取る。
それから箱とスプレンディドを交互に眺めてから、何故かぶっ倒れた。

「トゥーシー!?」

ギグルスちゃんとカドルスくんがトゥーシーくんに駆け寄る。
そこまで嬉しかったのか…。
混乱するスプレンディドは放置で、私はトゥーシーくんを見下ろしながら苦い笑みを浮かべるのだった。

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