呪術



ピピピピピ…………


無機質な電子音が鳴る。音を出すことに精を出しているこの小さな体に休みを与えるべくそっと腕を伸ばす。スマホのアラームでは心地よい眠りに誘われてしまう為、レトロな味わいのあるこの目覚まし時計を買おうと提案したのは紛れもなく横で眠る大男だ。にも関わらず寝ているのだから結局どの目覚ましでも同じなんじゃないかなって思う。
でもこうして安眠できるくらいにここを居心地がいいと思っているなら、それはそれでもちろん嬉しい。普段とても忙しい人だから休める時に休んでほしいと思うのは、社交辞令なんかじゃない。


「気持ち良さそうに寝てる……」


ほっぺをぷにっと触ってみるも起きる気配なし。これはきっと午後から活動コースだな。いやむしろ午後から活動できればいいな〜、ぐらいに思っておこうっと。


「おやすみ」


横で気持ち良さそうに眠る悟の胸に気持ちばかりの体重をかけて、私も再び眠りにつくことにした。











「……気持ちよさそうに寝てること」


隣ですやすやと眠る彼女は深い眠りについているのか、僕がほっぺたを軽くつまんでも起きやしない。むしろちょっと嬉しそうに寄ってくるのなんて反則じゃない?


「……名前、ごめんね」


忙しく家に帰れない時も多いけど、彼女は何一つ文句を言わない。むしろ僕を労って早く休ませようとする姿はとても献身的だ。まぁ僕としてはもう少しイチャイチャしたりそのまま流れるように…とかも思うんだけど、どうせならその不安は体を重ねることで取り除くのではなく、君の望む形で晴らしてあげたい。そんなこと考えるなんて僕もだいぶ君に依存している、と自虐気味に笑うけど、仕方がない。


「こんなに大切なものが出来るなんて思わなかったよ」


本当に。
大切なものを作ったって、自分の掌からすり抜けて落ちていく。守れるものだって、守られる覚悟がある者だけ。全部は無理だ。そんなこととっくの昔に分かってたはずじゃないか。

(なのにもう、手放したくないなんて)

ずるい人間に捕まっちゃったね。反省する素振りなんかどこか遠くに捨てやって。今はただ、横で眠る君を抱きしめることだけに集中する僕のことを君はどんな風に思ってるんだろうね。



「…………ん、」
「あ、おはよ」
「…さとる…くん…」
「寝起き一番に僕の顔を見られる名前は幸せ者だね」
「逆もまた然り…………」


そう言ってふにゃっと表情を崩して笑う可愛いコイツを、本当にどうしてやろうか。


「……ん、……ん、ふ、……っ」
「朝からそんな声出すなよ。……止まんないだろ」
「出させてるのは……、っ、悟くんだよね……?」


生意気言う彼女の唇を角度を変えて何度も塞いでやれば、反抗的な態度も鳴りを潜めて僕に体重をゆるくかけてくる。この体重の重みもなんだか嬉しくてついつい抱きしめてしまうのは僕だけの秘密。

頃合いを見て舌を入れれば水音だけが部屋に響く。
僕とオマエだけがいるこの空間で響く音がこれだけだなんて、随分とそそられるだろ?


「…………っ、は」
「目ぇ覚めた?続きしてもいい?」
「………、したい」
「!じゃあ」
「おでかけ、したい」


それじゃあ早速、と思い服に手をかけた途端にかけられた言葉は僕が思ってもみない言葉で。え?おでかけしたい?僕とシたいじゃなくて?


「悟くん、明日までお休みだったよね?」
「そうだけど」
「そしたら今日、どこかおでかけしたいな」


たまには悟くんと一緒に歩きたい。
滅多にお願い事をしない君がそうやって甘えてきちゃったらさ、嫌だなんて言えないだろ。はぁ、とついたため息を否定と捉えたのか悲しそうにする彼女をもう一度抱きしめて


「名前のお願いを断るような男だと思ってるの?そもそも一人で出かけるなんて言っても行かせてあげないけど」
「じゃあ行ってくれる?」
「だから行くって。その代わり」


夜はちゃんと甘やかされる覚悟しておけよ?

そう耳元で呟けば顔を真っ赤にしながら頷く彼女はどうやらどこまでも僕を煽るのが得意らしい。我慢の意味もこめてもう一度軽くキスをし、二人の体温が籠った世界から抜け出す準備をした。









君が望む世界へ、さぁお手をどうぞ?

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