MHA







※上鳴から見たお話しになります。




同じクラスメイトの爆豪勝己は喜怒哀楽の「怒」が強い奴で、特に緑谷には常に怒っている。向上心はあるので模擬練習や強い敵と遭遇した時には「喜」や「楽」を発揮するが、通常みんなが感じるようなそれではない。「哀」は……俺は見たことがない。だからそんな爆豪の為に最高の「喜」と「楽」を用意してやる!もちろんA組のみんなにも協力してもらってな!!


「爆豪!俺と山登ろうぜ!!」
「アホ面がアホなこと言ってんじゃねぇ」
「まぁいいじゃん!山登った後はめちゃくちゃ美味しい麻婆豆腐の店連れてってやるから!」
「……誰と」
「俺と峰田!」
「俺も!?」


泣き叫ぶ峰田はこの際放っておく。登山も辛い物も爆豪の好きなものだ、きっと食いついてくるはず。


「行かねぇ」
「行かないんかい!」
「なんでテメェらと山登って飯まで食わねぇといけねぇンだ」


それはそうだ。ごもっともだ。だがその日爆豪にはどうしてもここから出てもらわなければならない……!しかしここで下手に食い下がれば怪しまれてジ・エンド。どうする。


「爆豪ー。どちらにせよ20日は寮の点検が入るからここにはいられないぞー」


俺が早くも最大のピンチを迎えているところに、神降臨。持つべきものは切島様である。ヒラヒラと寮点検のお知らせを見せながら近づいてきた切島の手元をジッと見ながら溜息をついた爆豪は何故かそのまま黙って自室に戻ってしまった。あれ?結局俺たちとの登山はどうなった?


「っていうか切島。そんな貼り紙あったっけ?」
「いや、作ってもらった」


聞けば俺の登山計画は恐らく断られるだろうと踏んでいた女子たちが事前に作っていたらしい。それを切島に渡し、絶妙なタイミングで見せる。連携の取れた作戦に感動するのと同時に、俺の計画が断られることを真っ先に考えていた女子たちに哀しみが生まれる。もしかしたらオーケーでたかもしれねぇじゃん。


「仮にオーケー出たとしても行けばいいだけの話だろ」
「俺は断られて良かったと思っている!!!」
「とりあえずこれで20日爆豪がここにいることはなくなった」
「だな」


この事前準備が無事に終わらなければ当日の動きに支障が出る。みんなのおかげでなんとかクリア。あとは当日、寮に戻って来ないように見張ることが俺に課せられた任務!





「予定通り、爆豪は寮を出た」
『じゃあそっちは頼むぞ!』
「あぁ!切島たちも頼むな!」


切島たち寮に残るA班と、爆豪を尾行し寮に戻らないようにするB班に分かれて行われる『爆豪勝己「喜楽」作戦!』は好調な滑り出しを見せた。俺と峰田の尾行に爆豪は全く気付いていない。それもそうだ。数日前から地獄のような特訓(主に耳郎から)を受けてきた俺たちがすぐにバレるとあっては、あの時間はなんだったの!?とこれまた地獄のような説教(主に女子と飯田から)を受けることになってしまう。それだけは避けたい。


「なぁなぁ。爆豪って友だちいんの?」
「さぁ?俺たちぐらいじゃね?」


友だちの輪があまり広くない爆豪が今日という日に一体どこへ出かけるのか。慣れたような足取りで向かっている所がどこだか見当がつかず、気付けばよく知らない所に出ていた。それは峰田も同じようだったので、とりあえずグループラインに現状を報告しておく。しかしかなり歩いてんのに歩くスピードが遅くならないってほんとアイツなんなの?


「あ、曲がった」
「慎重にいくぞ……」


曲がった時は一番気をつけなければならない。曲がり角に爆豪が立っていて、「なにしとンだ」となったらゲームオーバーである。ミッションもそうだが、俺たちの人生もゲームオーバーである。


「……ここって、爆豪の家?」
「……なのかな」


見失わない程度の時間をあけつつ、間をとりつつ、俺たちも爆豪の後を追う。するとようやく目的地に着いたようで、その家に入っていく姿を確認できた。ここが、爆豪の家?場所をちゃんと聞いたことはないから本当にそうなのか確かめようがねぇ。あ、でもたしか緑谷とも地元が同じだから聞けばわかるか。ひとまずまわりの写真を撮って、送信。


「ここって爆豪の家?……っと」
「……ぉっ、おおおぉぃぃぃいいいっ!!」
「バッ……!大きい声出すな!」
「だってオマエ!!爆豪が!あの爆豪が!!女といる!!!」


緑谷に確認している時に突然隣にいた峰田が慌て騒ぎ始める。しかしその声は想像以上に大きく、峰田の口を塞ぐも遅し。


「……なにしとンだ……!!」


つまり、ここで俺たちは終わったのである。





拷問を受け、俺たちは哀れな末路を辿るのだ。そう覚悟していたのに、そうはならなかった。それもこれも、爆豪の隣にいる女性の「まぁまぁそんなに怒らないで」という助け舟を出してくれたからである。いやしかしその一言で爆豪が落ち着くわけないと思っていたのに、悪態をつきながらも黙ってしまったのだからあんぐり開いた口が塞がらない。


「勝己のお友だち?」
「アホ面と玉」
「何も伝わらない説明だなオイ」
「高校一緒なんですか?」
「はい!!俺たちもヒーロー科です!俺、上鳴電気!」
「俺は峰田実と申しますお嬢さん」
「じゃあやっぱりお友だちじゃない」
「だからちげぇっての」
「友だちです!」
「アァ”!?」
「彼女と俺たちとの温度差がエグい」


しかしこれだけ爆豪を手懐けているこの人……誰?名前で呼んでいるぐらいなのだから相当仲はいいのだろう。……考えたくはない。考えたくはないが、もしかして恋人?いやいや、あの爆豪に?でもよく見たらなんとなく目元が似ているような……。そうだ、姉という線もある。はやまるな俺。いつもだったら直感的に動いているが今回はたぶん、動き方によっては爆破される。


「貴女は爆豪のなんなんですか?」


峰田ァァァァァァァ!!!!!


「幼馴染なの。ね?」
「…………」
「お、お、幼馴染なんて……そんな羨ましいシチュエーションガチャに当たるなんて爆豪オマエェェェ!!!」
「るっせェ!!吹き飛ばすぞ!!」
「はじめまして。名字名前って言います」


あぁ、もう収集つかない。そもそもなんで俺たちここにいるんだっけ。


「……あ。二人は今から出かけんの?」


危うく当初の目的を忘れるところだったが、既のところで思い出した。俺たちは爆豪が寮に戻らないように足止め、もしくは違う所に誘導する妨害担当。でも、正直この状況。たぶん俺たちが足止めなどしなくてもすぐには寮に戻らないだろう。


「勝己ママから届け物を頼まれてたんだけど、寮はなんか、点検?が入るから行けなくなっちゃって」
「あー……」
「そしたら勝己が取りに来てくれたんだよね」


へぇ……。案外爆豪って優しいとこあんだな……って、え?顔背けてる?え、なに?それは恥ずかしいっていう表れ?えーー。なに。なに?爆豪ってそんな行動取るの?顔はいつもと変わらない無表情なのになんだその態度。っていうかそうじゃん。そんなに急ぎの物でもなければ後日でもいいわけだろ?なのに爆豪自ら取りに来たって……。そんなに大事な物なのか。それとも、単に名前ちゃんに会いたかっただけ……とか。いやいや、でもあの爆豪が?女なんてみんな同じぐらいにしか思ってなさそうな爆豪が?


「そのままにしてたらババァがくるだろ」
「たまには会いたいくせに」
「んなわけねェだろうが」


なんかこれは、間に入っちゃいけないやつだな。俺でもわかる。二人が話してる姿はあまりに息がぴったりで、これが幼馴染フィールドなんだなって。峰田。横で泣きながら何かよくわかんねぇ単語言うのはやめろ。


「あ、でもちょうどよかった。これから勝己とご飯食べに行くつもりだったんだけど、二人も一緒にどう?」


本来であれば同席して寮に戻らないようにするべきなのだが、ここで「行きます!」と答えようものならたぶん本当に消えてなくなる。存在がなくなる。だって隣の爆豪があからさまにキレる一歩手前だもん。さすがにそこまで野暮じゃないから安心してほしいし、なんなら名前ちゃんはそんな提案をしないでほしい。俺たちのライフはもうゼロに近い。よからぬ返答をしそうな峰田の口を塞いで丁重にお断りをした。


「俺たちあっちの書店に用事があっただけだから大丈夫」
「もがががっ、もがっ」
「あぁ、でもよかったら夕方には寮の点検終わるから爆豪と一緒に名前ちゃんも来たらいいんじゃない?」


一応夕方までは帰ってくるなよって釘を刺しておいて、せっかくなのでお誘いもしておけば断っても変な空気にはなるまい。俺、グッジョブ。


「じゃあまた!」


たぶんこれでしばらくは帰ってこないし、二人の時間も楽しめるはず。俺たちにとっても爆豪たちにとっても最善の選択だろう。うるさい峰田を引きずりながらその場を去り事の状況を伝えるべくスマホを出そうとしたけど、少しだけ気になって振り返る。


「……爆豪でも、あんな顔すんだな」


なんだか、なんというか。複雑な気持ちだ。なんて言えばいいかわからない感情がぐるぐる回ってる。けどそれは嫌な感情とかじゃなくて、なんだろ。ぴったりな言葉が出てこない。

ひとまずみんなに状況を報告しようとスマホを取り出し緑谷から返事がきていることに気付く。そういえばさっき俺から連絡したんだっけ。あまりに衝撃的な展開にそれすらも忘れていた。


『たぶん名前ちゃんの家かな?僕たちの幼馴染で、かっちゃんの彼女さんだよ』


息を吸ったんだか吐いたんだかわからない、奇妙な声を出してしまった俺に「どうした!?」と峰田が喰いついてきたが、これは、うん。教えられないよな。





だってあまりにも刺激が強いお話だから








「ハッピーバースデー!爆豪ー!」
「………揃いも揃ってなにしとンだ」
「今日はお前が主役だぞ!」
「あ!名前ちゃんも来てくれたんだ!」
「なるほど、だから寮点検だったんだね」
「爆豪さん!この方は誰ですの?」
「名前ちゃん久しぶり〜」
「出久くん久しぶり!」
「とりあえずひっくるめて後だ!ほら爆豪!」





キャンドルに炎を、キミの顔に喜びを





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