HQ!!






コロコロと溢れる音を腕に抱えて一歩、二歩。目指す場所はいつもの秘密基地。基地という言葉はちょっと幼いかもしれないけど、眩しい笑顔の彼にはきっと似合う。
階段を一段上がったところでコロンと飴の音が鳴り響く。あ、と思って振り返った時には音は鳴りやみ、その黄色い袋を手にした彼は不思議そうにそれを眺めてから私の方に視線を流した。


「これ飴?」
「うん、レモネード味」
「レモネード?レモンじゃなくて?」


その味のチョイス面白いな〜と笑う彼の笑顔はやっぱり眩しい。つられるように笑顔になってしまう表情筋のなんとも緩いこと。それだけ彼の表情筋は人への影響力が強いのだ。そんな彼の手を取って屋上に向かえば今日も誰もいない。
少しひんやりしたコンクリートになるだけ触れないよう体育座りをしてみたものの、「こっちでいいべや」と促されたのは彼の膝の上。え、さすがに恥ずかしいんだけどな、という気持ちを込めて彼の目を見てみたけどどうやら無意味に終わってしまったと知るのは強引にそちらへ引き寄せられたから。背中から感じる孝支の熱がほんのり温かい。


「で、その飴たちどーしたの?」
「クラスの女の子のお母さんが福引きで大量の飴を引き当てたらしくて配ってたの」
「へぇ〜。いろんな味があんのな。……なにこれ草味?」
「こっちにはせっけん味もあるよ」
「……なんでそんな味ばっかりなんだよ」


意味わかんね〜とか言いながらも楽しそうに飴を探す彼はなんていうか、本当に可愛い。私から見ても可愛い彼に女子として嫉妬しつつも結局そこに惚れてしまったのは自分自身なんだからというところに落ち着いてしまう。そういえば誰かが言ってたけど、澤村くんがバレー部のお父さんで、孝支がお母さんみたいなポジションだって。分からなくもない。


「なぁ、どの飴にする?」


休み時間終了まであと十五分。先にまずそうな飴を食べてお口直しに美味しそうな味の飴を食べる。その方向でいこうと決め、手を伸ばした先にはこげちゃ色の『土味』。孝支の手には『草味』が納められており、綺麗な黄緑色を空にかざして見ている。不思議な儀式をしている孝支をそのままに土味の飴を口に含む。

含む、と言ったが。含んだ瞬間のなんとも言えない気持ち悪い味が口だけではなく全身に広がったような気がした。鳥肌がすごい。土なんて、食べることはないけど。これどんな味!?まずい…!!と口に出すのも憚られていた私に気付いたのか、後ろで孝支が笑っているような気がした。背中に当たる彼の胸が当たっているのだ、これは絶対に笑っている。

抗議しようと後ろを向いたのと、仕方ねーなぁと彼が呟いたのはほぼ同時で。さらには少しだけ温かい唇が押し当てられたのも、ほぼ、同時で。


「…………まっず」


入り込んだ舌が、私の口内から飴を奪い取った。


「土なんて改めて食べたことないけど、こんな味すんのかー」
「孝支……草味は?」
「んーまだ食べてない」


飴を口に含んだまま喋っているから少し滑舌が悪い。でもその飴をほっぺに入れてる姿が愛らしくて、そこに今度は私がそっと唇を当てる。きょとんとした後、急にガリガリッという破壊音。べぇっと舌をだし、もう全て食べ終わりましたよアピールをしている彼に首を傾げる。


「今度は美味しそうな味を俺が選んで食べるから、次は俺のを奪って食べて」
「え、なんで」
「口直し、必要だろ?」


どうせなら美味しい味を二人で共有したいじゃん?なんて一体どんな殺し文句。そして私はその言葉を鵜呑みにして首を縦に振ってしまうんだから呆気なく殺されてしまったんだ。彼に。

吸い込まれるように重ねた唇から伝わった味が全身に広がるのはもう時間の問題。













レモネードの酸味を甘味に変えて




- ナノ -