HQ!!






※ Muster your courage!のサイドストーリーになります。




「まっつん、あの子だれ?」
「幼馴染」
「ふーん」



今から一年程前の練習試合。俺たち青葉城西の応援に来ていた彼女を見たのが、最初のきっかけ。俺の応援をしに来てくれた女の子たちがほとんどという中で、俺のことを全く見ていなかった女の子。まっつんの幼馴染なんだからまっつんしか見ていないのも仕方ないか。そんな、自らに興味が全くない子がちゃんと俺のことを見てくれたのは、まっつんに手を振った時だけ。

試合が終わった後「俺アイツと帰るから」とさっさと身支度を済ませたまっつんを見送った後「アイツってだれ?」というマッキーに対し「幼馴染だって。でも付き合ってるんじゃない?」と返したのは正解だったと思う。なのにどうしたことか、たまに廊下で遠目に見るまっつんはあの幼馴染ちゃんともう一人女の子と三人でいるではないか。



「まっつん、昼間話してた女の子だれ?」
「だから幼馴染だって」
「違うよ!その子じゃなくてもう一人の方!」
「あー、そっちは彼女」



彼女…………?彼女……!?
幼馴染というなんとも美味しいポジションの子がいるというのに別の子を彼女にするというまっつんの気が知れなかったし、本当に意味が分からなかった。あの子と付き合いたいとか今までなかったの!?と問い詰めると「いや、アイツはそんなじゃないから」なんてあっさり言うんだから俺はもう絶句。いやいや、君にとってそうでもあの子からしてみたらさぁ……なんていうか、こう複雑なんじゃないの?いろいろとさ。
そんなことを考えているうちに何だかあの幼馴染ちゃんが気になって仕方がなくなり、あぁもしかしなくても俺あの子のこと好きなんだってすぐに自覚した。……気付いたら目で追っていたのには、さすがに自分でも驚いたけど。

まっつんと彼女と、幼馴染の名字名前ちゃん。三人一緒にいる時に見せる笑顔や外の授業で友だちと笑っている顔。目立つわけじゃないのに目を惹くというなんとも不思議な現象に胸が締め付けられることもたくさんあった。かといって何かアクションを起こしたかというと何もしておらず、たた時間は流れていくばかり。というのもあの試合以来彼女は体育館に来なくなったし、クラスも違うから急に話しかけるなんてことも出来なかった。体育館に来なくなったのはきっとまっつんに彼女が出来たから見に来る必要がなくなったからだろう。そうやって考えるとまっつんも罪作りな男だな。







「え?試合ですか?」



監督から言われた試合の日程は7月20日。
突然組まれた試合が俺の誕生日なんて、これは神様がくれたチャンスかもしれない!!一年近く何も出来なかった俺に与えられた唯一のチャンスを逃すことは出来なかった。まっつんのことが好きでもいい。ただ少しでも俺のことを視野に入れてほしい。



「ねぇ、名字さんって彼氏いないよね?」
「いないけど、好きな奴はいるよ」
「そっか……って、え?え!?」
「なに、及川アイツのこと好きなの?」



……っ、そうだけど!?って半ば叫ぶように言い返せば笑いながら「頑張れよ」と言ってくるまっつんがこの時ばかりは憎たらしい。えーえー頑張りますよーだ!と舌を出しながら子ども染みた罵倒をしながら部室を出た。

後日試合を見に来てほしいと意を決して誘った訳だが、まぁなんとも曖昧な返事が返ってきたので勢いで彼女の両手を掴み「絶対だよっ」なんて、これまた子どもみたいな約束の仕方をしてしまった。彼女のことになると何もスマートじゃなくて恥ずかしくなるけど形振り構ってられないから不可抗力ということにしておこう。


これで、見に来てくれるかもしれない。今度はまっつんじゃない、俺を見に。






『背中は押してあげるから、頑張ってごらんよ』



委員会が終わって体育館に向かう途中に聞こえた声は間違いなくまっつんので、その声の先にいるのも、間違いなく幼馴染ちゃんで。しかもどういう会話の流れでそうなったのか全く分からないが、彼女の頭を撫でている。

なぜ?

どこに捌けていいのか分からないこの苛立ちを、少し荒い手付きで目の前を塞いでいた教室の扉にぶつければ驚いた顔でコチラを見る二人。なんだよ、なんなんだよもう。端から見たら恋人同士のようなやりとりなんてするなよ。






「……何話してたの」



気にしないようにすればするほど浮かんでくるのは先程の光景。優しく笑いかけるまっつんと、それを嬉しそうに受け入れる彼女の微笑んだ顔。



「あー……。及川さ、そんなに気になる?」
「なるから聞いてるんだけど」
「それくらい名前に夢中ならさ、もう本人にちゃんと気持ち伝えれば?」



まだアイツたぶん教室残ってるよ。
立ち止まって俺に助言をするまっつんの目はいつになく真剣で。それはまるで、"名前のこと泣かせたら許さない"とでも言っているようで。

まっつんは、俺のこともよく知ってる。同じチームメイトとして三年間も一緒にいる、仲間だから。でもそれ以上に彼女のこともよく知っていて、きっと大切なんだよね。だから俺が中途半端にあの子に近付くのを良しとはしないんだろ。それも分かってるよ。


だから、ちゃんと伝える。



「…………先、体育館行ってて」
「……ん」



振り返らず、元来た道を駆け抜ける。
どうかまだいてくれますように。

俺の願いを、聞き入れてくれますように。





『特別な日には、特別な女の子に見てもらいたい』





そう宣戦布告を彼女に落とすだけ落としてきたよ。そう報告した俺の顔を見て、笑ったまっつんにも牽制する。





「あの子のこと一番大切に出来るの、俺だから!」









Take swear an oath!




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