HQ!!






他校の名前も知らない女の子。青葉城西との練習試合の際応援しに来ただけのその子に目を奪われた。所謂一目惚れってやつ。惚れっぽい訳でもないのに、まさか一目惚れするなんて思わなかったし今でも信じられないんだけど。残念ながらこれは夢ではなく現実なのである。

先日行われた烏野高校との練習試合。序盤及川を欠いていた事もあり負けてしまうも、ふっと顔を上げた瞬間その子が目に飛び込んできて息を飲むのも忘れた。すごい可愛いとか、特別美人って訳でもないのに、なんていうか雰囲気?飲み込まれそうになった。

高校が違うとなれば接点だって非常に少ない。また会えるかどうかだって分かったもんじゃない。そこまで考えた俺は便所に行くとだけ伝えて体育館を離れた。友だちと来ていたのだろうか、笑っている横顔の彼女が見えてさらに胸を打たれる。試合後とは思えない猛ダッシュで彼女の元まで駆け寄り腕を掴む。いきなり捕まれた彼女は怯えた様子で振り返っていたが、ユニフォーム姿の俺を見た途端「あ、青葉城西さんの…」と声に出して緊張を少しだけ緩めた。



「いきなりで悪いんだけど、名前と、連絡先教えて」



それだけ告げる俺に焦って、「え?え?」と繰り返していた女の子。その様子もとても可愛らしかったが見兼ねたお友だちが「名前、教えてあげたらいいんじゃない?」と助け船を出してくれたので事は上手く運んだ。ありがとうお友だち。



「じゃ、連絡します。ありがとう」
「あ、はい……?」



何かが始まる予感にわくわくしながら体育館に戻る。もう少し話していたかったけどこれ以上遅くなるとさすがにマズい。案の定戻ったら「まっつんトイレ長すぎ!うんこかよ!」と及川に責められたので、あの時戻って良かったと俺の取った選択を褒めてやりたい。(もちろん及川はこの後岩泉にオマエも変わりねぇだろーが!!と投げ飛ばされている。グッジョブ岩泉)











珍しく練習が午前中で終わった日曜日。今日俺はあの子とデートする。あの後からずっと連絡を取り続け名前も学年も分かった。(同い年という点ではあまり納得がいかなかった。)が、会うのはあの日以来初めて。しかもお互い、当たり前だけど制服だったし、私服で会うなんてなんだか変に緊張する。高校生なんて制服自体がブランドみたいなところあるし、それ着ときゃなんとかなるみたいなのがあるから、わざわざ私服を選ぶことも少ない。これで大丈夫か……?という不安がないわけでもないがこればかりはセンスの問題だし、彼女が気に入るかどうかも判断基準に入るから不安になっても仕方はないのだ。

髪の毛や服の乱れがないかチェックしながら時計を見ると待ち合わせ時間の十五分前。かなり早く家を出たから待つのは別にいいのだけれど、刻々と迫るその時に柄にもなく心臓まで早鐘を打つのだから困ったものである。



「ま、松川くん」
「………あ」



ごめんなさい、お待たせしました。と駆け寄ってくる彼女がまるで小型犬のようでにやける顔が止まらない。さすがに恥ずかしいので手元を口で隠すも、彼女の格好はばっちりと目に焼き付ける。ゆるっとしたカジュアルなTシャツにシンプルなカーキ色のスカート。彼女の雰囲気に良く似合っている。これは、想像以上に可愛い。



「ごめんなさい、ちょっと迷っちゃって」
「あぁ、全然平気。むしろ慌てなくて良かったのに」
「姿が見えたからつい走っちゃいました」



はにかむように笑いながら言われた台詞に問答無用で心臓が持っていかれる。どうしました?みたいな顔でこちらを見る彼女は何、天然なの?いや連絡取ってる時点でなんとなく分かってはいたけど。実際に会うと尚更実感する。
このままではマズイと思い、とりあえずご飯食べに行くことを提案し歩き始めたが、会話がどうにも続かない。続かないというか、彼女の返事が先程から相槌が多いのだ。これはあれだろうか、連絡取り合う時点では大丈夫だったのに会ってみたらやっぱり違いました、みたいなアレ?でも俺たち一度は会ってるわけだし初めましてじゃないんだけど。……ってことはやっぱり私服が良くなかった?



「ねぇ、あのさ。今日あんまり会いたくなかった?」
「……え?……え!?そんなことないですよ!?」
「さっきからなんか浮かない感じがしてたから」
「あ、……あぁ……えっと……」
「何か言いづらいこと?」



あー、とかうーん、とか唸っている彼女に駄目押しで別に言ったって怒んないよ、と伝えると、顔を少しだけ赤くさせてあの、と口を開いた。



「松川くん、前会った時は制服だったし…。なんか私服姿がすごく、その、かっこよくて……」



ちょっと緊張しちゃっただけです……。
そう話す彼女にポカーンと、それこそ阿呆面をかましてしまったことに後悔するも、すぐに引き締め、そして理解する。彼女が浮かなさそうにしていた理由を。これまたずいぶんと可愛い理由でどうしようかと思ったけど、ここは素直に受け取るべきだろう。



「そうかな。名字さんも十分可愛くて緊張してるけど」
「え、嘘ですよね?全然そんな素振りない…」
「んー本当なんだけど」
「松川くんは余裕綽々、って感じありますよね」



それよく言われるけど、別にそんなことない。緊張することにはちゃんと緊張する。それを表に出すか出さないかの違いなだけなような気もするけど。ただ今に関してはキミをドキドキさせていたいっていう気持ちの方が勝っているから余計になのかも。今も隣で頬を染めてるキミの手を握って歩き出せば、さらに戸惑う様子につい笑みが溢れる。



「このデートが終わるまでに、俺と付き合うかどうか答えられるようにしておいて」



ね?と耳元で囁いた時のキミの顔を見たら勝ちは確定しているようなものだけど、楽しみは最後まで取っておきたいから。
そう思いながら今日のデートに心を馳せている時点で俺自身もだいぶ浮かれているなと思ったけど、それはこの先も彼女には内緒。









出会いの価値、時価おいくらで?




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