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甘ったるい匂いがキッチンに充満している。換気扇もつけているし窓も開けているのに空気が上手く循環出来ていない気がする。タバコ吸ってないからそう感じるだけじゃない?なんて言っているが流石にキッチンで料理作ってる時に吸ったことねーよ、と小突いておいた。

滅多にない12月25日の休暇を喜んだのは俺ではなく彼女の方だった。せっかくだから普段出来ないことをしようよ、と笑顔を振りまいていた彼女に不覚にもヤられてしまい、そのまま首を縦に振ってしまったのは先月のこと。面倒な事は御免だと思っているのに、彼女が言ったらまぁいいかという気になってしまうなんてとんだ腑抜けだ。萩辺りが聞いたら茶化されるに決まっている。(なので絶対に言わない)

結局何をするのかというと、『一緒にケーキ作り』だった。名前一人でケーキをつくることは今までにもあったが俺が作ったことは一度もない。作るよりも買った方が楽だということは明らかだし何故自分の為にケーキを作らなければならないのか。世の中にはそういう奴もいるが俺には全く理解が出来なかった。でもま、名前が一緒にしたいってんならそれを断る理由もないから別にいいんだけど。



「はーい、じゃあまず陣平くんはその薄力粉を篩にかけておいてくださーい」
「へーい」



じゃあこれ、と渡された篩を手に取り予め分量で分けられていた薄力粉をそこに入れる。しかもせっかく作るのだからと俺が分かりやすいように手書きのレシピを作ってくれていたらしい。絶対これ一人でやった方が楽なのに、名前楽しいんか…?気づかれないようにそっと盗み見るといつもよりもご機嫌な様子でキッチンに立つ名前が見えて、あ、はい。と一人で勝手に納得した。



(めちゃくちゃ嬉しそうじゃん)


ニヤける口元を腕で上手く隠しながら篩にかけていったが、途中不思議そうな顔で俺を見ていたから多分隠し切れてはなかったんだと思う。
篩にかけた物に牛乳を加え、生地をひたすらかき混ぜていく。腕、疲れたら変わるからね、と声を掛けてくれたのは嬉しかったがこんなことで弱音を吐くような男じゃねぇ。最後までやり切ってやるから大人しくそこで見てな。



「…めちゃくちゃチョコの匂いがする」
「今生クリームとチョコ混ぜてるからね。匂い平気?」
「それは別に。てかそれだけで美味そうだな」
「少しだけなら食べてもいいよ。どうせ余るだろうし」
「マジ!?じゃあ遠慮なく」


指で一掬いしたチョコを口に含むと程よい甘さが口に広がっていった。なんだコレうま…。少しだけ感動している俺が面白かったのか横で名前がクスクスと笑っていたので何だよ、と軽く小突いたら「だってほっぺにチョコついてるから可愛くて」と。

名前はたまに俺のことをガキ扱いしてる節がある。この前も何かのタイミングで「怒らないで」と頭を撫でられることがあり、カギ扱いすんなと言ったばかりだ。(腹が立ったので抱き潰してやったが)今回もそれと同様の扱いを受け、だから、ガキじゃねぇっつーの。と思わずにはいられない。



「じゃあ取って」
「えぇ?自分で取れるでしょ」
「いいから」



もう仕方がないなぁと俺の頬に指を当てついていたチョコレートを軽く拭い取る。それを迷う事なく口に含んだ瞬間を、目で追っていた俺は見逃さなかった。
その腕を奪い、驚いてコチラを見上げた彼女の唇を掻っ攫う。舌も入れない、ソフトなやつ。でも何度も何度も繰り返せば彼女も息が途絶え途絶えになってなんともいい感じの表情になっていく。口にチョコレートの味が広がるのと彼女が息苦しそうに俺の胸を叩くのはほぼ同時で、最後に一回だけ重ね合ってからその唇を解放した。
肩で息をしながらコチラを睨んでいるが、ちっとも怖くないっつーの。



「……ケーキ、あと冷やすだけだよ」
「……それは、なに。誘ってくれてんの?」
「クリスマス、だし……」



たまにはいいかなと思って。
少しだけ照れながら笑う彼女に、たまにじゃなくてもいいんだけどなと思いつつもそのお誘いに有難く乗ることにする。髪の毛をぐしゃぐしゃっと撫でてからケーキの入った型を冷蔵庫に入れる。冷えるまでの間は思う存分楽しむとしようか。








加熱厳禁、冷却不可避






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