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※組織壊滅後、捏造です。




どんなプロポーズがいい?
子どもが出来たらどんな名前をつけたい?

なんて。そんな会話を学生の頃にした人は意外と多いのではないだろうか。私もそんな学生の一人だったし、結構その話題では話が盛り上がったような覚えがある。でもそういうのってわりと変わるもので、あの時はこういうのがいいって思ってたのに今ではこう思ってるとか。ありがちなんじゃないかな。
その当時、私は友だちに何と言っていたっけ。やっぱりプロポーズは夜景の見えるレストランで、とか。なんかそんなようなロマンチックを求めていたような気がする。ふふ、今思うとなんだか可愛らしいな。


「じゃあ今の名前は一体どんなプロポーズがいいのかな?」
「……そうだなぁ」


サプライズたっぷりのプロポーズ。もちろん花束付きかな、なんて。やっぱりロマンチックな演出に夢を見てしまう私はあの頃からあまり変わっていない。零くんは私のそんな話を馬鹿にするでもなく微笑みながら聞いている。
じゃあ零くんがもし女の人だったらどんなプロポーズのされ方がいい?そんな私からの質問に微笑みが一転、驚いた顔に変わる。もし僕が女性だったらか、と。真剣に悩み始めてしまったのでその様子を見守ることにした。


「やっぱり正統派かな」
「薔薇の花束抱えて結婚してください?」
「ストレートでいいだろ?」


たしかに。それが一番零くんに似合っているかもしれない。そう思えるのは彼がどんな時でも真っ直ぐな人だということを知っているから。だって彼ほど日本を愛し、守り抜きたいと思っている警察官は他にいないでしょ?少なくとも、私は知らない。
そしてそんな真っ直ぐな彼曰く、「日本のことはもちろん愛しているが、その日本にいるキミはそれ以上に愛してる」とのことで。これは何度思い出しても嬉しいやら恥ずかしいやらだ。











真夜中に響くチャイムの音。一体誰。無理やり起こされた事に少なからず怒りを覚えたけれど、インターホン越しに外を見た瞬間その怒りは消え失せる。


「零くん!?」


立っているのもやっとな姿で映し出されていた彼を捉えたと同時に扉を開ける。ボロボロという形容詞がこんなに当てはまる人がいるのかと思うくらい酷い状態だった。どうしたの。それ以外の言葉が上手く紡げず、後はただひたすらに「零くん」と呼び続けていた。
彼の以外と重たい身体を引きずりながらなんとか部屋の中へ。玄関の壁に寄りかからせ、とりあえず処置をしようと走り出した。が、私の腕を掴む手によってそれは叶わなかった。そんなに弱っているのにどこにこんな力があるのか、正直不思議で仕方なかったけど。何か伝えたいことでもあるのかと彼の口元に耳を寄せる。


「ようやく、終わったんだ」
「う、うん」
「やっと言える。名前に、降谷零として」


安室でも、ましてやバーボンでもない。僕自身としての言葉で。
私には、彼が何を言っているのかわからなかったけど。……それがとても大切なんだということは分かる。



「愛してるよ」



僕と結婚してくれないか。日本のことはもちろん愛しているが、その日本にいる名前はそれ以上に愛してるんだ。
微笑みながら、私の頬に手を滑らせる。愛してるんだ。ずっと。今までも、これからも。慈しむように私の目を見て。彼はこれでもかというくらいに愛の言葉を囁いていた。
こんなにボロボロで。会ったのも半年ぶりなのに。突然プロポーズって一体どういうこと?頭の中はそんな言葉で埋め尽くされていたというのに、そのどれもが口からは出てこなかった。むしろ出てきたのは、その手を濡らしてしまう涙だけ。


「嫌か……?」
「嫌なわけ……っ、ないじゃん……!」
「はは、だよな」
「自信家。……突然すぎるよ」
「サプライズは大成功だな」


こんな心臓に悪いサプライズなんて二度といらない。そう言ってるのに突然キスするとか、本当に悪いなんて思ってないでしょ。ちょっとだけ腹が立ったからその腹いせに鼻をむぎゅって摘んでやった。反省しなさい。そう言い残してから立ち上がり、ようやく救急セットを取りに行くことが出来た。










「懐かしいな。あれもう二年前なのか」
「本当に驚いたんだからね」
「悪かった」
「そんなこと思ってないくせに」


まったく。バレたか、じゃないよ。可愛らしく言っても駄目ですからね。その忠告に「わかった」と頭を擦り付けてくる辺り、全くわかってなさそうなんですけど。


「可愛さを全面に出すのは反則です」
「名前があまりにも可愛いから負けないように」
「なんだそれ」
「………………なぁ」
「なぁに?」
「僕からのプロポーズ、やり直してほしいと思うか?」


私の視線の先で揺れる、彼の瞳。なんだかんだ、気にしているのは零くんの方なのかもしれない。あの日、きっと彼はいち早く伝えようと来てくれたんだと思う。でももしかしたらその事を少し後悔しているのかも。じゃなかったらこんな風に不安そうな瞳で見つめない。


「思わないよ。そんなこと」


けれど私はあの日、零くんが真っ直ぐ会いに来てくれたことが何よりも嬉しかったのだ。なにより、インパクトがあったしね。とても記憶に残るプロポーズだったから、きっと他のをされても霞んでしまいそう。


「零くんからのプロポーズは、後にも先にもあの一回だけでいい」
「……そうか」
「そうだ」
「じゃあ結婚二周年のお祝いは楽しみにしててくれ」
「えっ、お休み取れるの?」
「実はもう取ったんだ」


そしたら二人でたっぷりお祝いしよう。私は美味しい料理を用意して零くんを待ってるから。あぁ、それがいい。そんな約束をしてから二人で眠りにつく。こんなしあわせを感じられるのも、貴方が私を『降谷』にしてくれたからだね。

ありがとう。その言葉と美味しい料理を用意して待つ私の目の前に、色とりどりの花束が差し出されるのはまだもう少し先の話。













夢みたいな本当の話をしよう






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