09
「撃ったァァァァァ!撃ちやがったよアイツらァァ!」
「なんですかァァあの人達!ホントにアンタ達の仲間なんですかァ!?」
「仲間じゃねーよあんなん!局長、俺もうやめますから真選組なんて……アレ?局長は?」
「オウここだ。みんなケガはないか、大丈夫か?」

近藤の縛られていた方、銀時の右側を見ると近藤は自由の身になっていた。代わりにボロボロになって頭に大きな木片が刺さっていたが。

「まるで長い夢でも見ていたようだ」
「局長、まさか記憶が……ていうか頭……」
「ああ、まるで心の霧が晴れたようなすがすがしい気分だよ。山崎、色々迷惑かけたみたいだな」
「いえ……ていうか局長……頭……」

頭に木片が刺さって記憶が戻る、なんて羽目にならなかったことは高杉に感謝しよう。これは嫌だ、格好悪い。

「とにもかくにも、今は逃げるのが先決だ。行くぞ」
「局長、待ってくださいまだ旦那が!」

山崎も撃たれた衝撃で看板が外れていたが、銀時の看板はしぶとく屋根に張り付いたままだった。
ここで放っていかれるのも困るが、助けられるのも性に合わない。看板を外すべく不安定な体勢ながら足に力を入れる。

「ふんがァァァァ、うべしっ!」

看板が外れる前に屋根に穴が空いた。縛られた看板に支えられるだけという宙ぶらりんな状態に、銀時はたそがれる。

「ハッハー、先に行ってくれ。ジミー、ゴリさん。早くしないと連中が来るぞ」
「チッ、クソったれ!普段のお前なら放っておくところだが、坂田サンに罪はない!記憶が戻ったら何かおごれよテメー」

ごめんなさい、記憶もう戻ってます。とは言えず。
近藤は看板を掴んで引っ張る。バキッと音を立てて看板が外れ、勢い余り銀時と近藤は屋根から放り出される。山崎も後を追い落ちる。

「!! 今だ撃てェェェ!!」

真選組から大砲が放たれる。
銀時は看板に縛られたまま、宙で一回転して体勢を整え着地した。背中から落ちた山崎も起き上がり、三人で走り出す。

「撃てェェェ!!“蝮Z”だァァ!!」

背後で放たれた蝮Zはビームのように伸び銀時達に向かってくる。

「チッ……らァッ!」

右の山崎を蹴り飛ばし、左の近藤に体当たりして軌道から逃げる。目を焼く光が収まった時、もうもうと上がる土煙の中蝮Zで抉られた地面が見えた。
リストラされたただの同心の作れるものじゃない。裏についている者は誰なのか、高杉に聞けばわかったかもしれない。

「フハハハ、見たか蝮Zの威力を!これがあれば江戸なんぞあっという間に焦土と化す。止められるものなら止めてみろォォ。時代に迎合したお前ら軟弱な侍に、止められるものならよォ」

工場長は蝮Zの威力に酔いしれ、真選組を嘲笑う。

「さァ来いよ!早くしないと次撃っちまうよ。みんなの江戸が焼け野原だ!フハハハハ、どうした?体がこわばって動くこともできねーか。情けねェ……」

その場で動く影は、二つあった。縄をほどこうと地面に体を擦り付けていた銀時は、目の前に立った二人を見上げる。

「どうぞ撃ちたきゃ撃ってください」
「江戸が焼けようが煮られようが知ったこっちゃないネ」
「でもこの人だけは撃っちゃ困りますよ」

新八と神楽だった。
探さないよう言ったはずだ。なのに何故か二人はここにいる。

「なんで、こんな所に……ぶっ」

新八と神楽に踏まれ、地面に顔が埋まった。

「一応待ってやったネ。けどオメー遅すぎんだヨ」
「仕方ないからアンタ迎えに来てやりましたよ」

銀時がここに来て一週間経ってないのに、気が短い奴らだ。
相変わらず想いを向けられるのは苦手だ。しかし、今はもう逃げようとは思わない。二十年ちょい生きてれば耐性がつくのもあるが、何より二回も高杉の手を煩わせているのだ、三回目は何をされるかわからない。
逃げれば高杉や、新八や神楽もこうして追いかけてくる。逃げ切れる自信がない。

「なんなんスか一体」
「不本意だが仕事の都合上一般市民は護らなきゃいかんのでね」

新八と神楽に、真選組の面々が並んだ。

「そういうことだ。撃ちたきゃ俺達撃て。チン砲だかマン砲だかしらねーが、毛ほどもきかねーよ」
「そうだ、撃ってみろコラァ」
「リストラに屈した負け犬がー」
「このリストラ侍が!」
「ハゲ!リストラハゲ!」
「俺がいつハゲたァァァ!!上等だァ、江戸を消す前にてめーらから消してやるよ!」

真選組による挑発で工場長は切れた。蝮Zの標準をこちらに向ける。

「私達消す前にお前消してやるネ!」
「いけェェ!!」

新八と神楽に真選組が走り出す。
ようやっと縄から脱け出し看板から離れることが出来た銀時は、護られているような陣形から抜け出すため走る。

「新八、木刀もってきたろうな?」
「え、あ……ハイ……」

抜きしなに新八から木刀を奪い、先頭を走る。二階に向け跳躍した。

「ぎっ……」
「銀さん!」

新八と神楽の嬉しそうな声がする。今記憶が戻ったと思われたのなら、好都合だ。実は数日前に戻ってましたなんてバレたらボコボコにされる。

「工場長。すんませーん、今日で仕事やめさせてもらいまーす」
「死ねェェェェ坂田ァァァ!!」
「給料貰えなかったけど……ま、お世話になりました」

ニヤッと笑い屋根を踏み締め、大砲の中に木刀を突き刺した。内部破裂によりヒビが入った大砲から、素早く離脱する。銀時の背で蝮Zが爆発した。

「けーるぞ」

工場が壊れたならここに用はない。いつ記憶が戻ったのか曖昧に出来たことだし、雪路を迎えに行くことにしよう。新八と神楽に声を掛け工場を後にした。





その後ろ姿をじっと見つめる視線が一つ。無表情で銀時に視線を注ぐ姿に、気付く者は誰もいない。



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