03
親としての苦悩を抱えた西郷には悪いが、銀時も自分の子が気になる。西郷にどんどん酒をすすめ、つまみも作ってやり、酔い潰してやった。桂と店を脱け出し路地裏に隠れる。

「銀時。やはり俺は戻る」
「あ?何寝ボケたこと言ってんだオメー」
「……どうにもあの親子の事が気になってな」
「お前、これ以上オカマシンクロ率が上昇したら本物になっちまうぞ」

ただでさえ単純な桂である。攘夷すら忘れてオカマとして生きていきそうだ。

「化け物は酔っ払って寝てるし、今しかチャンスはねーんだって」
「逃げるならいつでも出来る。だが今しかやれんこともある」
「頑張ってヅラ子。私陰から応援してるわ」
「待てパー子」
「いだだだだだだ、オカマになる!ホンモノになる!」

木の塀を越えようと片足跨いだ時に足を引っ張られた。薄く古い木の塀なのが災いして、股間に食い込む。今後活躍するかはわからないが、男として生きたい。

「んだよテメーは。一人で好きにやりゃいいだろーが!」
「何言ってんのよパー子。私達二人、ツートップで今まで頑張ってきたじゃない」
「しるかァァ!!」

妙に正義感のある男だが、ここまで西郷親子を気にするとは思わなかった。人を股裂きにしかけておいて、桂は先に塀を乗り越える。

「まずい飯ではあるが西郷殿にはしばらく食わせてもらった身だろ。恩を返すのは武士として当然の道ではないか」
「武士がガキの喧嘩にクビ突っ込むってのか?」

桂は数日世話になっただろうが、銀時はまだ一日も経っていない。よってまずい飯を味わったことはない。
子供同士の事に半端に首を突っ込むというのも考えものだ。親が知らぬ間に取り返しのつかないことになる場合もあるが、首を突っ込んでややこしくなる場合もある。

「ヤバイってアイツ。よっちゃん!」
「しらねーよ俺は!アイツが勝手に……」

目の前を通っていった子供二人に、銀時は桂と目を見合わせる。あれはてる彦を苛めていた子供達だ。不穏な会話をしていたので、即座に捕まえた。

「んだよ、はなせよォ!」
「オカマがうつるだろ!キショいんだよてめーら!」

そんなもの移るかと言いたいが、すでに感染している桂を見て言葉を飲み込む。

「ヅラ子キショいって」
「何言ってんだ。貴様のことだぞパー子」
「オメーだよ、青白い顔しやがって。外で遊べ!」
「白さに関しては貴様に言われたくない」

焼けたら赤くなって腫れるから、それはそれで煩く言うくせに。昔からどれだけ日焼けに関して言われたことか。何が悲しくて、男が日焼けに神経質にならなければならない。

「言っとくけど、俺達悪くねーからな」
「俺達は止めたのにアイツ勝手に……」
「要領をえねーな。ハッキリ言えよハッキリ。スポーツ刈りにするぞ」
「ど……度胸試しだよ。俺達の間で流行ってる度胸試しがあって。からかってたらアイツ、ホントに……」

案内させると、長い塀が続く屋敷についた。塀はボロくなっていて、下に子供が通れそうな大きさの穴が開いている。

「……空き家?」
「空き家なんかじゃねーよ。ここにはいるんだ。こないだも得体のしれねー獣みたいな鳴き声きいたし。なんか絶対いんだって」
「……化け物屋敷って奴か」

中に入ったと思われるてる彦を探すため、桂から穴を通り中へ入る。桂が普通に中へ入ったため余裕だと思ったが、銀時が通ってみると中々狭い。

「オイ、ヅラおめースゲーな。よくこんなせまいトコ……アレ?ウソ、アレ?マジでか?マジでか?」
「何をしているんだ貴様は……」

まさかのまさか、動けない。あまり身長の変わらない桂はいけたのに、何故。そういえば桂は三人の中で一番チビの高杉よりも体重が軽かったような。そこか。体重の違いか。

「いや、前にも後ろにも動かなくなっちゃった」
「……パー子。だからお前はパー子なんだ」
「なんだコノヤロー!パー子のパーは頭パーのパーじゃねーからな!人を頭パーみたいに言うな」
「頭がパーだからそんな歪んだ毛が生えてくるんだ。ホラ、力を抜け」
「いででででで。ダメだ!もうほっといてくれ。俺もうここで暮らすわ」

ガサリ、と草むらから音がして固まる。

「てる彦くん?てる彦くんだよな……?」

返事はない。緊張感が漂い――動いた桂の足首を銀時は掴んだ。

「てめェ、普通この状態の俺置いてくか?」
「貴様ここに住むと言っていたではないか。心配するな。スグ戻ってくる。カステラ買ってくる。カステラだから」
「カステラなんか何に使うつもりだよ!ヅラ子ォォ、私達ツートップで今まで頑張ってきたじゃない」
「しるか」
「わかった!あのアレだ!昔お前がほしがってた背中に『侍』って書いてある革ジャンやるから!」
「誰が着るかァァそんなセンスの悪い革ジャン!!大体お前、絶対そんなの持ってないだろう!」
「……何をやっとるんだ、おぬし達」

はた迷惑星の皇子と付き人の爺が立っていた。とりあえず事情を話す。

「ほうほう。ではその子供がここに入ったきり戻ってこんと。おぬしらはそれを捜しに来たわけじゃな。最近何やら子供達がこの庭に入ってイタズラしておったからの〜。あそこの離れに木が見えるじゃろう。その木の実を持ち帰れば立派な侍の証とか……まァ、子供らしいといえば子供らしいが」
「それではこの庭は貴様のものなのか?ちっちゃいオッさん」
「誰にむかって口きいとんじゃワレェ!このちっちゃいオッさんがどなたと心得るワレェェ!!」

爺も口が滑ったのか、ちっちゃいオッさんと言ってしまっている。それはいいのか。

「よさんかじい。星が違えども美人は手厚く遇せと父上がおっしゃっていたのを忘れたか?」
「皇子、騙されてはなりませんぞ。何やかんやでお父上は結局ブサイクと結婚しておられるではありませんか」
「オイ!それ母上のことか?母上のことかァァ!!テメー今度母上の悪口言ったら解雇すっからなクソジジー」

この皇子は母親似のマザコンらしい。もしや父親はもっとマシな顔をしているのか、気になる。

「ん?アレおぬし」

皇子には怒られるようなことしかしていないため顔を伏せていたのだが、まさかバレたか。

「……おぬし、どこぞで会ったかの?」
「ヤッダー何その古いナンパ。キモーい。そんなんで引っ掛かると思ってんじゃないわよハゲ。死ねば?」
「そうか……どこぞで会った気がするのじゃが」

うっかり本音が混じったが、上手く誤魔化せた。

「美人が困っておるのにほうっておくわけにもいくまい。この方らの人捜し手伝ってしんぜよう。のう、じい?」
「あ、俺パス。四時からゲートボール大会あるから」
「クソジジー地獄のゲートをくぐらせてやろーか」

皇子の言う美人に女装銀時も入っているのだとしたら、女を見る目のなさは父親譲りに違いない。だから不細工と結婚したのだ。

「皇子殿、ちょっと伺いたいことが。子供達の間でここに化け物が棲みついているとの噂があるのだが、何か心当たりは……」

桂が訊ねた問いに返事をするかのように、獣の鳴き声が響く。

「何だ?今の鳴き声」
「何か来る!今度こそ来る!」
「ギャオ〜ス」

茂みを掻き分け、大きいが可愛らしい顔の犬が現れた。先に聞こえた鳴き声より、可愛らしい気がする。

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