3章 苦悩


「いやあぁぁぁぁっ!!!」
「ユウキちゃん?!」
明け方、日の昇りかけた時刻、ユウキの悲鳴と共にミストは目を覚ました。
「ユウキちゃん、大丈夫?!ユウキちゃんっ!!」
「はぁっ…、はっ…はっ…!」
ミストは彼女の肩を強く掴んだ。ユウキの呼吸は荒く、かなりの脂汗を浮かべている。余程怖い夢でも見たのか瞳は怯えていた。
「はぁっ…はぁっ…、…ぐすっ。…っく、ごめん…なさ…。」
泣きながら精一杯、振り絞った声を出す。ミストは何も言わずユウキの頭を撫でてやる。
「ユウキちゃん…。」
「こわい…夢…見たの…、昨日…私が殺した人が…ずっと…悲鳴をあげてて…私なんで…あんな…力を…うっ、う…!」
震えながら話すユウキ。余程昨日のことが来ているのだろう。

ミストは朝食を取る為、ユウキを部屋に残して食卓へ向かった。当番であるティアマトが支度をしていた。
「…ユウキちゃん、やっぱり食欲無いみたい。」
「そう…でもあまり食べないのも良くないわ。あとで何か消化の良いものを作ってあげましょうか。」
「うん…。」
「ミストもだいぶ、元気が無さそうね。」
「心配で…今朝も怖い夢を見たって、悲鳴を上げてて。このままじゃユウキちゃんおかしくなっちゃうよ。」
「そうね…、なんとか心のケアをしてあげないと。」

「ユウキちゃんっ、ティアマトさんがね、スープ作ってくれたよ!」
「ありがと…ミストちゃん、置いておいて?」
「だいぶ話せる様にはなったみたいけど…どうしても食べる気起きない?」
「うん…。」
「昨日から何も飲まず食わずだよね、せめてお水だけでも…。置いておいたコップの水、全然減ってないじゃない。」
「ごめん…。」
「ユウキちゃん…。」
ミストの心配の気持ちもすごく分かるのだがユウキは何も手を付けられない。このままでは衰弱してしまうのにも関わらず。
「…私の世界ではね、どんな理由であれ人殺しは犯罪なんだ。だから私は罪人。」
「ユウキちゃん…、でも、ユウキちゃんは私たちを守ってくれたじゃない…。」
「……、でも私が人を殺したことに変わりないよ…。私の中の罪の意識がなくなることも無いし…。」
「…。」
子供のミストにはどうしたらいいか、どう応えたらいいか分からなかった。ただ無言で唇を噛み締めるしか出来なかった。

朝から皆が任務に向かってしまいまた三人だけになってしまった。ユウキはなんとか家事だけでもやろうとしたがミストに止められた為横になって休む事になった。
「…はあ。」
ただ窓越しから空を見つめるしか無い。余計な事を考えるとまた不安定になるからだ。
「…。」
なんとか無心を貫くがどうしてもあの光景が頭を過(よぎ)る。
「…っ!」
思わず布団で隠れる様に自分を覆った。警察が来て牢屋に入れられるに違いない。やり過ぎた正当防衛だって言われるかもしれ無い。魔法で殺したなんて信じてもらえるのだろうか。前の世界の記憶が混ざって混乱して吐き気すら覚えた。また呼吸が荒くなる。
「ユウキ?大丈夫かしら?」
「いやあぁっ!」
「ユウキ?!」
何時の間にか任務から帰ったであろうティアマトが扉を叩いただけなのだが、ユウキは本当に警察が来たのかと思い込んでしまっていた為悲鳴を上げた。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい…!私が悪いです私が殺しました私が…っ!!」
「ユウキ!?大丈夫よ、落ち着いて…!」
錯乱状態のユウキをティアマトは抱き締めた。
「うっ、ううっ…!!」
「ユウキ…。ミストから、聞いたわ。あなたの世界ではどんな理由があれ人を殺めるのは罪だと。罰せられると。それは…私達の世界でも同じ。でも生きる為には…仕方の無い事。」
「っ、う、……。」
「ユウキ、捕まったりはし無いから…安心してちょうだい。あなたは…ミストやヨファを守ってくれた。それを誇りに…。」
「いやっ!人を殺して誇りなんて!もうあっちに行ってください!一人にしてください!!」
「…!…ごめんなさい…。」
「っ…ううっ…!!」
ユウキはティアマトを突き飛ばしてしまった。自分の言葉選びが悪かった事を悔やみ哀しげな顔でティアマトは部屋を去った。ユウキはまたその場で泣き崩れた。

気付いたら眠っていたのだろうか。暗闇に一人だった。夢の中でもユウキは泣いていた。
「っ…う、…ううっ…!」
消えない罪の意識に苛まれただひたすらに泣きじゃくるしか無い。
「ごめ、ん、なさい。」
「…っ…あなた、」
あの時の少女が、また現れた。
「あなたは、しんではなら…い、から。」
「だから私に魔道書を拾わせて殺させたの…?」
「あなたと、みんなをいかすためなの、わかって。」
「なんで?!なんで殺しなんて…嫌だよ!私!」
「あなたの、やくめは、みんなをまもることだから…おねがい、」
「私の、役目…?」
少女が光を放ち、ユウキが手を伸ばそうとした途端に目が覚めてしまった。
「まって…!!」
「あ…気が付いた?」
「…キ、ルロイ?」
今度はキルロイがユウキを看ていてくれていたらしい。
「具合は、どうかな。まだ調子悪いよね。」
「うん…。」
「ユウキの精神がかなり参ってるって聞いて、みんな心配してて、僕も。だから、薬草を煎じた茶を淹れたから…飲んでもらえるかな。」
「ありがとう…。」
ユウキはそれを受け取るとそっと飲み始めた。一日半ぶりに何かを口に含んだ。
「おいしい…。」
「良かった。…ねえ、ユウキ。」
「ん…?」
「凄く、怖かったよね。」
「うん、とても、怖かった。」
「僕も、血が苦手なんだ。杖使いなのに。本当は未だに戦いが怖いんだ。だからユウキの気持は凄く分かるんだ。」
「キルロイ…。」
「命の奪い合いは本当に心苦しくて、僕も何時か誰かを殺める日が来ると思うと…胸が締め付けられそうになる。でも…自分がもっと力をつけて…仲間を守れる力が欲しいとも思うんだ。」
「仲間を…守る…。」
「僕は、守られてばかり。それでみんな怪我をする。杖で治すには限界がある…。」
「あ…。」
「ねえ、ユウキ。君は今罪の意識に苛まれているかもしれない。でも君のあの魔道の力が解き放たれたから、ミストとヨファは助かったんだよ。君も。もし、君があの時山賊を倒さなかったらみんなはきっと山賊に…。」
「っ…!」
「僕たちはずっと、後悔しながら生きて行くことになっていた。君たちを救え無かったことを。だから、ありがとう。」
「え…。」
「みんなも、凄く感謝しているんだよ。きっとユウキからしたら複雑だよね。でも本当だよ。」
「そんな…。」
「でも、もう戦うのが怖いなら何もしなくていい。無理はしないで欲しいんだ。」
そっと手を握られる。優しい言葉に安堵を浮かべ、涙がぽろぽろと零れ落ちた。神に仕える者だけあるのだろう、キルロイの言葉にユウキは救われた気がした。




修正:2019.03.10.

 

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