アイクの骨折


「おはよう…。…どうしたの?」
今日も一番遅く教室に入ってきたのはキルロイだったが教室内の様子がおかしいことに気付いた。皆、元気が無かった。キルロイは首を傾げたが教室内を見渡し理解した。
「ユウキと…アイクは?」
「まだ来てないんだよね。」
ワユも珍しく元気が無く、チャームポイントのアホ毛も下を向いている。
「ユウキは具合が悪いとかかもしれねえけどアイクが来ないなんて有り得ねえからなぁ…どうしちまったんだろうなあいつら?」
ボーレも心配そうだ。
「どうしたんだろう…ユウキ、アイク…。」
とうとうホームルームの鐘が鳴ってしまった。キルロイはとりあえず席についた。
「みんな大変よ!」
担任のティアマトが慌てた様子で教室に入ってきた。ボーレはその様子を見て思わず問い掛けた。
「ティアマト先生、どうしたんだ?」
「アイクが今朝交通事故に遭ったのよ!」
ティアマトの言葉に全員が驚嘆の声を上げる。
「えっ?!」
「はぁっ?!」
「うそ、たいしょーが?!」
「マジかよ!」
「そんな…!」
キルロイもボーレも驚きの声を上げる、ワユもライもエリンシアも信じられないと言った顔だ。
「大丈夫なんですか?!相手の車!!」
「「「そっちかよ!!」」」
セネリオの発言にほぼ全員が声を揃えてツッコミを入れた。
「相手の車…かなり凹んだみたいで…。」
「やはり…。」
「「「アイク(たいしょー)強くね???」」」
車の方が凹むとはやはりアイクの身体の頑丈さは尋常では無い。
セネリオは再びティアマトに聞いた。
「それで…アイクは怪我をしたんですか?」
「足を骨折したみたいで…流石に相手はトラックだったからアイクも無事では済まされなかったみたいね…。」
「えっ…トラックに轢かれて骨折で済むとかアイク何?何?」
「普通死ぬだろ。」
「たいしょー最強じゃん!?」
ボーレとライとワユは思い思いの言葉を口にする。
「先生…アイクは今どうしてるんですか?」
如何にも不安そうな顔をするキルロイ。
「救急車で病院に運ばれたわ。妹のミストとユウキが付き添ってる。」
「そうですか…ユウキも…。」
「二人ともかなり落ち込んでいたわ。」
「ユウキショックだろうなぁ。」
「優しいからな…自分の事のように悲しんでるんだろうな。」
「ユウキ…。」
それを聞いてボーレもライもユウキを気遣った。キルロイはただぽつりと心配そうに呟く。
「大丈夫ですわアイク様とユウキなら…。きっとすぐ元気になってくれますわ。」
エリンシアは不安をかき消すようにキルロイに微笑んだ。
「とりあえず…ホームルームを始めましょう。出席を取るわね。」
「「「はーい。」」」
二人分の席が空いたまま、B組のホームルームが始まった。

”2年B組のアイクが交通事故に遭った。”
その話はまだ朝にも関わらず瞬く間に学校中に広まった。
当然、隣のクラスのA組にもその話は届いている。
A組担任のシノンは上機嫌で教室に入った。
「先生ゴリラが事故ったってマジ?!」
シノンを見るなり真っ先に声を上げたのはA組室長レディ。
「おう。マジだマジ!うるせえのが居なくて清々するぜ!」
「シノン先生のあんな嬉しそうな顔、見た事が無い。」
あまりに嬉しそうな顔をするシノンにオスカーは若干引いている。
「ププッ、事故とかウケるんだケド!」
「レディ不謹慎だよ。」
余程面白いのかレディは笑いが止まらない。オスカーが注意するがずっと笑っている。
「だってあのゴリラがだぞ?!ウケるだろ!車の方が凹んでたりして。」
「そんなわけないでしょ…アイクだって人間なんだから。」
流石のジルも呆れていたが。
「いや相手のトラックめちゃくちゃ凹んだらしいぜ。」
「「「はぁっ?!」」」
シノンの言葉にA組全員が声を上げた。
「トラックって…!」
「恐ろしく頑丈な奴だなアイク!」
「アイクヤバ過ぎだろどんだけだよゴリラ!」
「流石ゴリラだな!」
「人間じゃないだろ。」
「さっきの言葉訂正しようかな…。」
オスカーはただただ驚きケビンは感心しヤナフは目を丸くした。リュシオンはうははと笑い出しレテは冷静にツッコみジルは頭を抱える。
レディはゲラゲラと笑い出す。
「ちょ、アイツ何?ゴリラ卒業してゴジ〇になったの?ウケる!」
「レディやめなさいゴジ〇とか言わないの。」
「…どうしてゴ〇ラじゃないの?」
イレースは首を傾げる。
「ゴリラに伏せ字使ってるみたいでじわじわくるカラ。」
「なるほど…。」
「イレース、私は気にするところはそこじゃないと思うよ。」
若干呆れるオスカー。
「んじゃとりあえずホームルーム始めるぞお前らー。」
「「「はーい。」」」
A組もホームルームを始めたのだった。

「……なんかさ、たいしょー居ないとつまんない。」
ワユは頬杖をついて退屈そうな顔をする。
「えらく静かで怖えよ。」
「それな。」
ボーレもライも静か過ぎる教室に違和感を覚えていた。
「本当にね…。」
キルロイも元気が無い。
「静かに授業が出来るのはありがたいですが…やはりあの元気の塊が居ないのは寂しいものがあるのかもしれませんね。」
「セネリオ、めっずらしー。」
エリンシアも寂しそうに口を開く。
「アイク様の鼾が恋しいですわ。」
「あーもーユウキも居ないし今日ほんっっとつまんないよー!」
ワユは机に突っ伏す。
「B組が静かで平和だぜ!」
「「「?」」」
扉から声がしたのでB組全員が振り向く。レディが仁王立ちをしていた。
「レディちゃん。」
恋人の登場にライが真っ先に声を掛けた。
「ほんっと怖いぐらい静かだぜ今。」
「ほんとクソ筋肉ゴリラが居なくて平和平和!」
「少しは心配してやれよー。」
「むむ、やだ!」
ライはレディの頬をつつく。
「レディ何しに来たのー?」
ワユは首を傾げる。
「え?静かなB組をからかいに来たダケ。」
「変なのー。」
むすっとワユは頬を膨らませた。ライはがっくりと項垂れる。
「なぁんだ、オレに会いに来てくれたんじゃないのかぁ。」
「えっ、そ、それもあるケドぉ…。」
「ほんっとレディちゃんはかわいいな♪ 」
ご機嫌になったライはレディの頭を撫でる。レディの頬が赤くなっていく。
「このリア充!」
「イチャつかないでください。」
ボーレとセネリオは不服そうな顔をした。
「悪い悪い、じゃあ次の授業あるからまたな、レディ。」
「うんまたねライ。」
「なんだったんだろう…。」
ぽかんとキルロイは不思議そうな顔をする。
「アイクがいるとなかなかこうもいかないからなぁ。」
ははは、とライは笑った。

病院にて、ミストとユウキは祈るように手術室の前に居た。アイクとミストの両親であるグレイルとエルナはトラックの運転手と話をしているので席を外している。
「アイク…。」
ユウキはぽろぽろと涙を零す。
「ユウキちゃん…。はぁ…お兄ちゃん大丈夫なのかな…。」
ミストはユウキの背中を撫でた。
すると手術室の扉が開いた。車椅子に乗ったアイクがそこにはいた。
「お兄ちゃん!!」
「アイク!」
二人とも思わず立ち上がった。
「ユウキ!ミスト!来ていたのか。」
「飛んできたわよお父さん達と!もう、心配したんだから…!」
「アイク、アイクぅ…!」
ユウキは思わずアイクに駆け寄って抱き着いた。
「ぬぅ…ユウキ…胸が、「お兄ちゃん…。」あいや違う、心配を掛けたなユウキ…。」
ユウキの胸が当たり鼻の下を伸ばしていたアイクだがミストの冷たい視線を受けて言葉を変えた。
「ほんとに…心配したんだから…っ!」
「ぬぅ…!」
抱き締める力が強くなる。当然、密着感が増えユウキの胸が更に押し付けられアイクの理性が試される。
「お兄ちゃん……。ねえ、大丈夫なの?」
そんなアイクに呆れつつもミストは問い掛ける。
「ぬ…。あ、あぁ、足が折れたからな。流石に痛い。」
「お兄ちゃんでもちゃんと痛みを感じられるんだ。」
「どういう意味だ。」
「冗談よ。でもその足じゃ暫くは学校行けないね…。」
「残念だがな。1ヶ月は入院しないといかんらしい。」
「い、1ヶ月?!うそでしょ?」
「さっき医者にそう言われた。」
「そっかぁ…。」
ミストは眉を下げた。ユウキも俯く。
「1ヶ月もアイクと離れ離れになるなんて…。」
「俺も寂しいぞ。」
アイクはユウキの頭を撫でる。
「とりあえず病室へ行く。この部屋まで連れていってくれ。」
「わかった。」
ミストは車椅子を押してやる。三人で入院する病室へ向かった。

翌日、ユウキは登校し皆にアイクの事を話した。ワユが大声をあげる。
「たいしょー入院1ヶ月だって?!」
「そうなの、骨がくっつくまでは安静にしてないとダメみたいで。」
「ありゃー相当派手に折ったんだな。」
「トラックだしなぁ。」
ユウキの話を聞いてボーレもライも表情が変わる。キルロイもゆっくりと口を開いた。
「アイク…かなり酷い状態なんだね。」
「本人は元気そうなんだけど…。思ったより事態は深刻というか。」
「まあ…可哀想ですわアイク様。」
エリンシアも眉が下がる。
「アイクが居ないとB組の士気が下がります。なんとしてもはやく帰って来て頂かないと。」
セネリオは考えを巡らせていた。

「アイク?大丈夫?」
授業が終わり、ユウキは真っ先にアイクの入院する病院へ向かった。病室の扉を開ければベッドで横になるアイクがーーー、
「?!アイクぅ?!」
と思いきやアイクは器用にも腕だけで腕立て伏せをしていた。
「ちょ、アイクっ!!何やってるの?!」
「身体を動かさんと鈍るからな。せめて上半身だけでも…ッ、」
「いやああぁぁっ!お願いだからやめてぇ!!」
「大丈夫だユウキ!腕立てしたぐらいで俺は死なんぞ!」
ユウキは必死に止めるもアイクは何故かドヤ顔。
「お兄ちゃん、大丈……ぶっ?!」
ミストとグレイル、エルナも病室にやって来たが全員その光景を見て目を丸くした。
「ちょ、お兄ちゃんなにやって…お父さん?」慌てて止めようとするミストの横をずかずかとグレイルが通る。そしてアイクの頭を思いっきり殴った。
「ばかもの!!!!寝ていろ!!!!」
「うぉっ?!」
崩れ落ちるようにベッドに横たわるアイク。その弾みで脚をぶつける。
「ぐあぁぁぁ!痛い!!」
「自業自得だこの馬鹿息子!」
「お父さんやり過ぎだよ!」
「アイクもあなたも元気ね。」
ミストは心配してグレイルを叱るがエルナは楽しそうにクスクス笑っていた。
「…………。」
ユウキはそんな家族を見て苦笑いを浮かべるしかなかった。

なんだかんだでアイクが入院して2週間が経つ。流石にレディがつまらなそうな顔をした。
「つまんない。」
「え?」
「ゴリラが居ないとつまらん!!」
「えぇ…。」
またレディの我侭が始まった、とオスカーは思った。
「あんなにゴ…アイクが居ないと平和だって喜んでたじゃないか。」
「そんなんだケドぉ、やっぱサンドバッグが居ないとやってらんないじゃん。」
「サンドバッグ…………。」
「オスカーがサンドバッグになれる訳ないじゃん?」
「私をアイクと一緒にしないでくれ、君に殴られた瞬間に死ぬよ。ああ、ケビンはどうだ?頑丈だよ。」
「ケビンは何も悪いことしてないじゃん?サンドバッグにする理由が無い。」
何故私は候補に上がったのにケビンは駄目なんだ?とオスカーは疑問に思ったが面倒なので心の内に留めた。
「B組はどうだい?ワユとか強いよ?」
「えーやだよアイツ早いじゃん反復横跳び。」
「確かに…。」
ワユは本当に素早い。この間の体力測定でもとんでもない数値を叩き出していた、反復横跳び。ちょこまか動き回るのでレディはイラつくんだろうなと思った。
「ボーレ…は無いな。ライはどうだ?」
「豆腐は無いな。えぇ〜ライにそんなことできなぁい!」
「…………。」
態度が露骨に変わるレディに、というよりライにオスカーは若干イラついた。ふと窓に視線をやると見覚えのある影が見えた。
「あれ?」
「どした?」
「今、何か…。」
「何?」
オスカーとレディは思わず教室を出た。

「おはよう。」
2週間ぶりに聞き覚えのある声にB組全員が同時に振り返り声を上げた。
「「「アイク?!!(たいしょー!!!)(アイク様!!!)」」」
「まだ病院に居ないとダメでしょアイク?!」
ユウキが慌てて駆け寄る。アイクはまだ松葉杖を付いている。
「まあ、そうなんだがずっと寝ているとつまらんからな。医者に無理を言って授業だけでも参加させてもらえるようにした。」
「アイクったら…もう…!」
「ぬぅ?!」
ぎゅっ、とユウキはアイクに抱き着いた。泣いているのか震えていた。
「ばか…。」
「ユウキ…。」
「あーーーーーーーー!!!!」
「「「?!」」」
扉から大声かしたので全員がそっちを見る。レディとオスカーだ。
「テメっ、ゴリラ!?檻から出てきやがった!!」
「檻言うな!!」
「脱走!!ゴリラ脱走!!!」
「うるさいぞレディ!!」
「ぎゃはははは!!ウケるんですケド!!!」
「なにおぅ?!!」
2週間ぶりに言い争うアイクとレディ。久々の光景になんだか全員が安堵した。
アイクが松葉杖をレディに向ける。
「勝負しろレディ!今俺には新しい武器もあるしな、箒を構えろ。」
「アイク何言って…!」
ユウキは止めようとしたがレディは乗り気だ。
「望むところだァ!オスカー箒持ってこぉい!」
「えぇ…。」
面倒くさそうな顔をするもオスカーは渋々箒を取り出す。ワユが目を輝かせる。
「あたしも混ぜて!!」
「ワユさん……。」
箒を折れるのが目に見えてるのでキルロイはワユを止めようとしたが聞き入れられるはずもなく…。
その後三人は見事松葉杖と箒を破壊しティアマト先生にかなり怒られたのだった。





















2017.03.24.

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