真生×冬樹
「冬樹ー、俺暇なんだけどー」
夏休みに入ってから、冬樹は俺の家に泊まってる。いや、夏休み始まってもう10日経ってるから泊まってるより住み着いてるのほうが正しいか。
飯作ったり皿洗いとか率先して手伝うから別にいいけど、夏休みだからって暇なわけじゃない。
大学院生にだって宿題はある。
学期が終わる前に渡された多大なレポート。これを終わらせなきゃどうにもならない。
夏休み初日からコツコツやってきたから、あとすこしで終わる。
なにを書けばいいかも全て決まっているから、直ぐに終わるはずなのに、さっきから真生が俺の腰にへばりついて離れないから集中出来ない。それどころか膝に頭を乗せ出した。
「真生、邪魔だ。どけ。」
「冬樹がレポートばっかするからだろー。なあ、レポートより俺だろ?」
「なんだよその比較。もうすぐ終わるって言ってんだろ、少しでいいから離れて静かにしてろ」
俺がそう言って真生をどかそうと手を頭の上に置いたら、まるで撫でろとでも言うかのようにぐいっと頭を押し付けて来る。
「お前は犬かよ」
「冬樹の犬にならなってもいいなぁ俺」
「は、なら首輪が必要だな。すっげぇ狙った感が出てるの買ってやるよ。首輪からトゲが生えてるやつ」
「あ、そうそうあれってスタッズなんだってよ。だから手芸屋にあれだけ売ってんだって!」
「まじかよ、見てみてぇな。」
そんなくだらない話をいつのまにかしてて、これまたいつのまにか真生の頭を撫でていた。
「で、首輪買いに行く?」
上機嫌そうに笑いながらそんなこと言う冬樹にはめられたのに気づく。
結果レポートは進んでないし俺は真生の相手をしてしまっている。
でもレポートは今のうちに終わらせてしまいたい。今日は大事な日だから。
「冬樹、」
「ん、どうし…」
最後まで聞かずにこっちを向いた真生の唇を塞ぐ。
大分屈まなきゃいけないから辛いけど、仕返しだ。案の定、真生は驚いた顔をしてる。ざまあみやがれ。
「ほら、俺の犬になりたいっていうなら買い出しくらい出来ないとな。そうめんと生姜、あとアイスも買ってこいよ」
ちゃんと帰ってこれたら、ご褒美だ。
そう言ってニヤッと笑って見せると、真生は珍しく真っ赤になる。
普段こんなこと絶対しないから動揺してるのが見え見えだ。
「30分で帰ってくる!」
そう言って真生は走って部屋を出る。
しばらくして、バイクのエンジンを吹かす音が聞こえるのを確認してからレポートに向き直る。
さて、20分あればもうこのレポートは終わる。
残り10分で昼飯のある程度の準備も終わるだろう。
ご褒美、ちゃんとあげねぇとな。
忘れないうちに、引き出しからご褒美を出しておく。
首輪ではないけど、ごつめのバンドブレスだ。赤じゃ鮮やかすぎるかとも思ったけど、あいつはなぜか狙ったようなやつが似合う。
これも首輪っぽいからまあいいか。
なんて考えながら真面目な、それでいて少し恍惚の混ざった顔で犬になってもいいと言ってた冬樹の顔を思い出した。
そしてきっちり30分後、真生は帰ってきた。
「ただいま!買ってきた!冬樹ご褒美のチューは!?」
「んだよ、そっちも欲しいのかよわがままな犬だな」
俺がそう言うと、キョトンとした顔をする真生。こいつはこういう表情するとほんと子供っぽいな。
首輪、もとい腕輪を投げると、慌ててキャッチして、目を見開く。
「冬樹、覚えて…」
「首輪代わりだ。風呂以外では許可なく外すなよ?」
そう言うと、真生は何度も何度もうなづいていそいそと腕につけ出した。
うん、やっぱり似合ってる。
「あぁそうだ、ほら。こっちこいよ」
軽く手招きすると、真生は急いで俺の方に向かって来る。
くん、と軽く手を引っ張り、そのまま頬に口付ける。
「真生、誕生日おめでとう。」
真生は今日二度目の赤面。
いつも真生ばっかいいとこ持ってくから気分がいい。
さて、飯食ったら何するかな。
たまには真生のしたいことしてやるか。
(冬樹、俺今めっちゃ嬉しい)
(だろうな。お前の赤い顔なんか滅多に見ねえもん)
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