伊織×柑流



この春、私と柑流は3年になった。
普通に過ごしてきた子なら、進路について色々悩んだりする年だ。
さらに、三者面談やなんかがあったり、色々な説明が一気にされてみんなが一気に不安になる年。

三者面談はたまたま柑流と同じ日。そして私の次に柑流と続いていたから帰りは一緒にと約束していた。
まだ6月とはいえ、校内は蒸し暑い。
じんわりと汗が出てくる首筋をタオルでぐい、と拭った。

柑流が教室から出てきて、待っていた私に気づいたのかてこてこと此方に向かって来る。

「お疲れ柑流。どうだった?」

「ん…まぁ、基本はなんにも言われなかったよ。伊織は?」

「私もおんなじ感じかしら」

「そ。お互いよかったね」

「ええ、そうね。それで柑流、進路はどうするの?」

私たちは、面談が終わるまでお互いの進路を聞かないと約束してた。
2人で決めたら、絶対に同じ道を行こうとするから。お互いの道の妨げにならないようにという配慮だ。

「私から言うの?いいけど」

「じゃあ、せーのにする?」

「いいわ。…せーの」

…お互いが言ったことは、全く同じ言葉で、やっぱりかと思って笑えてしまう。
2人共、就職希望。
真面目に優等生やってきたから、いい大学に推薦する気しかなかった先生にはすごく止められたけど、もう決めた道だからと先生の意見を私も突っぱねた。柑流も似たような状況だったのだろう。


「じゃあ、落ち着いたら2人暮らししようか?」

私が言うと、柑流はこくりと頷いて手を差し出してきた。
自分の手を重ねると、さっきまで蒸し暑と思ってたのにも関わらず、いつも通りの柑流の温かさが妙に心地よかった。

「2人でさ、お店開けたら素敵よね。雑貨屋さんなんだけどたまにスイーツも売るの。」

帰路をゆっくりと辿りながら、私がそう言うと、柑流もそれ楽しそう、と乗ってきた。

「手作りのコーナーも置こうよ。色んな人が作ったのを売るの。そしたら私もなんか作って売るわ」

「それいいわね。それでお客さんも結構いつもくる人が多めで」

「来た人はいつのまにか常連さんになっちゃうようなお店がいい」

2人とも本気で話してるわけじゃなくて、だからこそ色々なアイデアが出る。
そんな夢物語がそう簡単に実現できるわけじゃないのも知ってるからこそ出来る話。
でも、だからこそ

「ずっと、こんなくだらない話が出来たらいいよね」

私の思考の続きは、柑流の声で紡がれてて、驚いて柑流のほうを見ると、小さく笑う柑流がそこにいた。

「そうね。ずっとこんな感じだと楽しいわね」

だからずっと一緒にいようね。そんな意味も込めて笑い返すと、意味を汲み取ったのか柑流はそっと私の手を握り返して来た。















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