伊織×柑流




「うわ、今日は冷えるわ」

教室から出た途端、ひんやりとした空気が身体を急速に冷やしていく。
すぐに冷たくなりだした手を軽くさすりながら、そろそろマフラーが必要かな、なんて考えていたら、声をかけられる

どこかで見たことのある顔ではあるんだけど、なぜかあと少しが思い出せない。
クラスが一緒じゃないのは確かだから、多分選択教科が一緒な人なんだと思う

「何か用?」

そう尋ねると、彼は口ごもってしまった。
男子に話しかけられることは滅多にないから、きっと何か重要な用事なんだと思って彼が話すのを待とうとしたら、後ろから袖を軽く引っ張られる。
誰かなんて見なくてもわかる。こんな可愛らしい仕草をするのは柑流しかいないもの。

「伊織、帰らないの?」

「あぁ…ちょっと待ってね、彼が何か用事があるみたいで」

そう言ったら柑流の目線が彼に行って、私に戻り、少しだけ唇を尖らす。
そしてバッグから袋を出して私に差し出した。

「いお、そろそろ寒いでしょう?」

柑流が私の事を「いお」って呼ぶのは大抵2人きりの時だけなのに、珍しいこともあるのね。

「あら、マフラーじゃない。相変わらず編物がすごい上手ね。ありがとう」

そういって頭を撫でるとどうやら機嫌が治ったみたいで、少し微笑。

「あぁ、ごめんなさい…それで、用件は何?」

そう言って彼の方を見たら、明らかにショックを受けたような顔で立ち尽くしていて、そこで初めて彼の用件がわかった。

「えっと…その、やっぱりなんでもないです」

小さく呟き彼はどこかに行ってしまい、少し悪いことをしたかな、と思いつつも、柑流のやきもちが嬉しかったから無かったことにしようと思う。

「伊織、かえろ」

「そうね、じゃあマフラーのお返しに、今日どこか寄らない?奢るわ」

「ほんとに?じゃあ駅前に出来た喫茶店行かない?あそこの紅茶が好きなの。」



(そういえば、男子に告白されたのなんて初めてだわ)

(なんか、それも変な話よね)









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