Have a date
「白石先輩! お待たせしました!」
駅前の大きな柱にもたれ時計を見ていた少年が、その声に顔を上げる。
声の主の姿を見止め、少年―――白石蔵ノ介は軽く手を上げる。
その様子に、蔵ノ介に走り寄ってきた声の主―――広瀬静は、嬉しげに微笑んだ。
「昼飯から行こか?」
「はい!」
挨拶を交わし、時間がもったいないとばかりに二人はすぐに駅を後にする。
向かう先は、少女―――広瀬静が以前から行きたいと言っていた場所。
以前テレビで見たのだと、学校帰りに少し興奮しながら蔵ノ介に話したことのある場所だった。
「ここなんですが・・・」
「入ろか。」
「食べられますか?」
「ん?俺、そんな嫌いなもん、ないで?」
蔵ノ介の笑顔に、静はほっと密やかに安堵の息をもらす。
二人が立つのは、新しい感じのするカフェテラス。
店の前に立つメニューボードに目を通して、次いで曇りのないガラス越しに店内を見る。
デザイン性の高いテーブルと椅子が並ぶ店内は、その空席はあとわずか。
二人は満席になる前にと、急ぎ店内へと入って行く。
その様子を、少し離れた場所から見ている者がいることに、その時の二人は全く気がついていなかった。
******
「美味しかったですね!」
「ホンマやな。また来よか。」
「はい!」
静の嬉しそうな笑顔に、蔵ノ介は知らず微笑む。
食後の満足気な表情と、そして店内に入ってからのメニューとのにらめっこ。
思いだして、蔵ノ介はさらに笑みを深くする。
きっと他にも気になるメニューがあったのだろう。
思わぬ次回の約束に、静は本当に嬉しそうに見えた。
食後は、二人楽しそうに会話をしながら植物園へと向かう。
お昼は私の行きたいところだったから、次は先輩の行きたいところ、と静が言い出し、蔵ノ介が考え決めた場所。
最寄駅から電車に乗って数駅。
そこから歩くこと数分。
日中でも肌寒さを感じる乾いた空気が、二人の鼻孔にわずかに花の香りを届けはじめる。
植物園、という場所に行くこと自体はじめての静は、その香りだけで期待に胸を膨らませる。
「展示会とかあるみたいですよ?」
「何の?」
「菊だそうですよ。」
「へぇ?そういえば、菊の季節やな。」
「はい。楽しみですね。」
パンフレットを開きながら、静と蔵ノ介が楽しそうに話す。
園内マップを見ながら、二人で順路を決めて園内を歩きはじめた。
楽しい時間はあっという間に過ぎて、
次のバラ園で、ちょうど園内を一周するというところ。
その二人の少し後方。
二人からは見えない位置で、こそこそと話す少年数人。
「腹減った〜!!」
「こらっ!声がでかいわ!」
「ふ〜ん、広瀬ってあ〜ゆ〜恰好するんや。」
「よぅ、似合てるわ。」
「ほんまやな。」
「覗き見はよくない。」
「かたいこと言いっこなしや。」
「なーなー!こんなとこ、見とっても腹膨れんで!!」
「静かにせーや、金太郎!!」
いや、こそこそと話している『つもり』の少年数人。
「・・・・・・・・・・」
「白石先輩?」
「ん?」
「どうかしましたか?」
「・・・いや、なんもないで?」
「そう・・・ですか?」
ふと、蔵ノ介が視線を向けた先が気になり、静は首を傾げながら見てみる。
ヨーロッパ風の庭園に咲き乱れるバラの影に、複数の・・・
「頭が・・・って、あれってひょっとして・・・?」
静が蔵ノ介の顔を見上げる。
目が合うと、蔵ノ介は片手でこめかみを押さえながら大袈裟にため息をついた。
******
「すごい偶然ですね、たまたま同じ日に植物園に居合わせるなんて。」
心から感心したような静の言葉に、静と蔵ノ介以外の人間は曖昧に言葉を濁す。
バラ園のテラスに設置されていたベンチに座り、あらぬ方向へと視線を彷徨わせる者。
なんとか言葉を紡ごうとする者。
黙秘を決め込む者。
そんな中、平気な顔で口を開く者もいた。
「ねーちゃん、今日はなんかいつもと感じちゃうな。」
「そ、そう?」
「あぁ。そういや、学校以外で会ったことないからなぁ。」
「そういえば・・・みんなの私服も初めてだね。」
「ワイはど〜や?似合うか?」
「うん。でも、寒くない?大丈夫?」
「こいつはいっつもこんな恰好やで。」
静と話しているのは、蔵ノ介と同じテニス部に所属する遠山金太郎と財前光の二人。
静かに腕を組む蔵ノ介の前で、他の少年たちは冷や汗を流す。
いつもと変わらぬ表情のその奥に、見えない怒気を感じたからか。
「白石先輩?」
その様子に気づいた静が、蔵ノ介の顔を覗き見る。
普段と違う雰囲気を纏っているように感じたが、目が合った時にはいつもの蔵ノ介に戻っていた。
「そろそろ帰ろか。」
「先輩?」
「ちょうどこのバラ園で一周やしな。」
「?そうですね。それに、もうそろそろ閉園の時間ですしね。」
「日ぃ落ちんのもはよなったし。」
「はい。あ、それじゃあみんなで帰りましょうか。」
「いや、俺らは―――」
「せやな!ねーちゃん一人で帰らせるわけにはいかんで!」
「あほ!それは白石に任せとけばえぇねん!」
「ねーちゃん!ワイら送ってくで!!」
「ほんとに?ありがとう。」
「あっ―――」
「ほな、出よか。」
「うん。」
「し、白石・・・・・・・・・・・すまん・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
金太郎と光に促され、正面ゲートへと向かう静。
その少し後ろで、再び黙る蔵ノ介の肩に、忍足は謝りながら手をおいた。
******
茜がかった夕空が、すっかりと夜の帳に包まれる頃。
蔵ノ介と、『偶然』出会ったテニス部のメンバーとともに、静は自宅前まで帰ってきていた。
「本当にこんなところまで送ってもらって、よかったんでしょうか?」
自宅から一番近い駅まで送ってもらった時点で、そこからは一人で帰る気だった静。
蔵ノ介が家まで送ると言ったのを断って、帰るつもりだった。
だが―――
「こんな暗い中、ねーちゃん一人で帰らせんで!ワイら、そんな薄情ちゃうわ!!」
と、今と同じことを言って、金太郎が止めたのだ。
「ふふっ。ありがとう!先輩方も財前くんも、ありがとうございました!!」
静が深々と頭を下げる。
その様子に、メンバー達はかすかな罪悪感に苛まれる。
蔵ノ介と静が二人で出かけるという話を聞きつけて、待ち合わせ場所からずっと後をつけていたメンバー達。
だから、植物園で会ったのも偶然じゃなくて、『見つかってしまった』というだけの話。
蔵ノ介はそのことに気づいてメンバー達に無言を決め込んでいるが、静は全く気がついてない様子。
それどころか、植物園からここまでの道のりで色々と話ができて楽しかっただとか、ここまで送ってくれたことに感謝しているようだ。
駅から静の家までも、本来であれば自分たちはさっさと帰って、後は蔵ノ介に任せる気だったメンバー達。
だが、空気を読まない・・・いや、読めない金太郎によって、その考えは無になってしまったのだ。
「いや・・・邪魔して悪かったな。」
「じゃあな、広瀬。」
「お疲れさん。」
「また、明日。」
「またな。」
「またね〜。」
少しでも早くこの場を去ろうと、メンバー達は思い思いの挨拶をし、その場を後にする。
相変わらず空気を読めない金太郎は、メンバーの内の一人、千歳千里に首根っこを掴むようにして引きずって行かれた。
「しず―――」
「今日は楽しかったです、先輩。誘ってくださって、ありがとうございました!」
「・・・・・・・・・ホンマに?」
「はい!」
「そら・・・よかったわ。」
「あ、でも・・・」
「・・・なんや?」
「次は・・・二人きりで行きましょうね?」
「っ―――!?」
静が蔵ノ介を、身長差の分だけ見上げる。
小首を傾げる静の姿に、蔵ノ介は一瞬言葉を失った。
一方、その頃―――
財:「あっ、広瀬の上目づかい攻撃が・・・」
忍:「あれ、無意識やから、余計に破壊力ばつぐんやで。」
遠:「白石、ちゅーするんか?ねーちゃんと、ちゅーするんか!?」
石:「静かに。」
遠:「ワイ、ちょっと行ってくるわ!」
金:「・・・はぁ?金太郎さん?」
忍:「あ!こらっ!!あかん!!」
一:「どないしたん?」
遠:「よーわからんけど、なんかいやや!!」
財:「へ?」
忍:「は?」
石:「む?」
金:「あら?」
一:「・・・・・・・・・」
千:「おっ?」
・
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忍:「こ、こんなとこで、金太郎に春が来てもたんかっ!?」
財:「へぇ、おもろい三角関係になりそう・・・」
忍:「おもろないわ!! ・・・あ〜、頭痛いで・・・。」
幸か、不幸か。
蔵ノ介と静の距離が一瞬縮まったことを、金太郎を囲んでいたメンバー達は見ることができなかった。
2222hit キリリクで白石×静でした。
モアプリで追加決定キャラってことで、色々と妄想はしているものの、同じ学校なのかとか呼び方とか分からなくて、綾瀬の好きなように書いてしまいました・・・(-_-;)
原作でしか白石さんを知らない管理人が書いたものではありますが、少しでも気に入ってくだされば幸いです(>_<)
こちらは、リクエストくださった方のみ
お持ち帰り可能となっております。
リクエスト、ありがとうございました!!
2009/11/03