I'm on pins and needles.






弦一郎は、慌てていた。

普段は年の割に落ち着いているように見える弦一郎だが、さっきから忙しなく部屋の中を動き回っている。

それはさながら、檻に閉じ込められた動物のように。

生まれてからこれほどまでに慌てたことなどないのに、と。

生まれて10年にも満たない弦一郎は、真剣な顔で考えていた。











広瀬家のキッチンに、15センチ程の台に乗って包丁片手に真剣な表情を見せる静と、それを後ろから様子を見ている弦一郎と。

ズダン、ズダン、と慣れない手つきでじゃがいもを切る静の包丁捌きは危なっかしく、だが手出しすることを止められている弦一郎は何もすることができず、ただわたわたと何をするでもなく手を忙しなく動かしていた。



「げんいちろーお兄ちゃんは、カレーライス好き〜?」



そんな一言からはじまった、この現状。

なぜ、あの時否定をしなかったんだと、弦一郎はその時の自分に心の中で思いつく限り罵倒の言葉を浴びせる。



「あ、あの・・・止めなくても・・・?」



キッチンで座って料理ができるように、か。

普通の椅子よりも座る位置の高い椅子に腰掛け、コーヒーカップ片手に静の様子をじっと眺めている女性に、弦一郎は恐る恐る問いかける。

自分には止めることはできないが、彼女ならば止めてくれるかもしれないと。

人任せだが静の手から早く包丁を離させたい弦一郎は、すがるように女性を見上げた。



「心配しなくても大丈夫よ、弦一郎くん。静だってカレーくらい作れるんだから。ね〜?」



椅子に座るのは静の母親である、広瀬遙。

遙の言葉に、静は包丁を持ったまま振り向いて、「ね〜!」とにっこり笑って首を傾ける。



「し、静っ!!」



頼むから包丁を持ったままよそ見をしないでくれ!という弦一郎の言葉は、驚きすぎて声にならず。

前を向けと、わたわたとジェスチャーのように手を突き出すことしかできない。



「げんいちろーお兄ちゃん、もうちょっとでできるからまっててね〜。」



次は、皮むき器で人参の皮をむきはじめた静が、楽しそうに弦一郎に話しかける。

恐らく、それは母親の真似なのだろう。

この間幼稚園で習ったのだと聴かされた歌を、ふんふ〜んと調子よく歌いだした静に、弦一郎は懇願の眼差しを向ける。

頼むから、料理なんてやめてくれ、と。

それが無理なら、せめてよそ見をせずに真剣に取り組んでくれ、と。



真剣に料理に取り組む静と、その後ろで静を真剣な表情で見守る弦一郎。

そんな二人を見守る遙は、コーヒーカップにつけるその口元を、楽しそうに緩ませて微笑んだ。


























90000hit キリリクでガクプリの真静の許婚設定でした。

ま、まさか、まさか、まさか、まさか、またもやこの設定でリクエストいただけるとは思ってもおらず・・・
ありがとうございますっ!!
子ども用の包丁片手に料理する静ちゃんでした〜。笑

こちらは、リクエストくださった方のみ
お持ち帰り可能となっております。
嶺月さま、リクエストありがとうございました!!

2010/11/29


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