At a day of intense heat ...






例によって例のごとく。

真田家に遊びに来ていた、少し舌足らずな幼稚園児・広瀬静。

そんな静の一言から、今回の物語は始まる。











「あ〜つ〜い〜の〜」



畳に寝転がり、静が足をバタつかせる。

それを見ていたこの部屋の主・弦右衛門とその孫・弦一郎は、泳ぐのが下手な子どもみたいだと、密やかに思った。

時間は、正午を少し過ぎたくらい。

少し早い昼食を済ませ、自室で本を読んでいた弦右衛門。

低めの机に本をのせ、見る者の姿勢さえも正してしまいそうな見事な正座。

その左斜め前・・・向いている方向は90度違うのだが、弦一郎も同じように本を読んでいた。

そんな二人の正面で、静はバタバタと手足を動かしている。

(本格的に溺れているみたいだな。)

弦一郎は一瞬顔を上げ、また視線を本へと戻した。



「静、暑いなら母さんのところへ行ってきたらどうだ。」



クーラーが効いているから、この部屋よりも涼しいはずだ、と弦一郎は静に話す。

この部屋にもクーラーはついているのだが、部屋の主が使わない為、完全に無用の長物と化している。

クーラーなどなくとも夏は越せる、と弦右衛門は言っているが、普段使うことがない為、リモコンがどこに行ったかわからなくなって使えないことを弦一郎はひそかに知っている。

ちらりと視線を右斜めに向けると、弦右衛門の額に汗が滲んでいた。



「静、ここがい〜の。」



弦一郎を見て、弦右衛門を見て、静がにっこりと笑う。

その様子を、可愛いと思ったのは弦一郎だけではなく、弦右衛門もそうだったらしい。

読んでいた本に栞を挟むと、机を横に移動させ、己の軽く膝を叩く。

それを見た静は待ってましたとばかりに、嬉しそうに弦右衛門の膝の上にぽてんと座った。



「今日は暑いのう。」

「うん、あついの〜。」



静の頭を撫でる弦右衛門を横目に、なら膝に乗せなければいいのに、とは口には出せない弦一郎。

ページをめくると、ちょうどきりがいいところだった為、弦一郎も栞を挟んで本を閉じた。

そんな弦一郎の様子に、ふと弦右衛門は思つく。



「のう、静ちゃん。」

「なぁに?」

「アイス、買って来てくれんかの?」

「あいすっ!?」



弦右衛門の膝の上で、大きな目を爛々と輝かす静。

その様子に、弦右衛門はふっと口元を緩めた。



「じゃあ、弦一郎と一緒に行って来てくれるか?」

「お爺様?」

「なんじゃ、弦一郎は静ちゃんを一人で行かせる気か?」

「そんな事させません。」



それ以前に、お爺様が頼まなければいいだけの話しでは?とは口に出せず。

弦右衛門に差し出された千円札を片手に喜ぶ静に、弦一郎は思わず苦笑。



「あいす〜、あいす〜!」



立ち上がり、喜びのあまり、部屋の中でくるくる回り出す静の頭にぽんと手をのせると、



「じゃあ、今から行くから帽子をかぶって来るんだ。」



そう言って、弦一郎も自室へ帽子を取りに向かった。





*





「げんいちろーお兄ちゃんは、あいす、なにする〜?」

「まだ決めてない。 静はもう決めたのか?」

「静、も〜かだっちゅがい〜!」



商品名、なのか。

分からない静の言葉に、弦一郎は「そうか・・・」とだけ返事をした。

弦一郎の家から、歩くこと数分。

スーパーに着くなり、静は慣れた様子でアイス売場へと走って行く。

店内を走るな、という弦一郎の静止の声も届かず、静はアイス売場に着くなり、背伸びをしてアイスが並ぶケースの中を覗く。

顔に触れるひんやりとした空気に、静はご満悦の様子。



「静、店内では走るなと言っているだろ―――」

「げんいちろーお兄ちゃん、どれ〜?」

「だから―――」

「さなだのおじいちゃんは、みどりいろのやつ〜。」

「静―――」

「さなだのママは、ちょこ〜!」



弦一郎の言葉は耳に届かず、コン、コン、と嬉しそうに弦一郎の持つ買い物カゴにアイスを入れていく静。

そんな静に、今は何を言っても無駄なんだと、ため息一つ。

すでにかごに入れてしまったアイスが溶けてしまう前に、さっさと自分の分を選ぼうと、弦一郎もケースの中を覗き込んだ。



「静、決まったのか?」

「う〜、まだ〜」

「早くしないと、アイスが溶けてしまうだろう。」

「でも〜・・・」



も〜とだっちゅ・・・と、視線を右へ左へきょろきょろと動かす静。

その視線の先を追って、弦一郎はやっと静の言葉の意味がわかったようだ。



「では、俺がこっちを買うから、静はこっちにすればいい。」

「お兄ちゃん、も〜なの? 静はだっちゅ?」

「あぁ。 家に帰って、半分ずつ食べよう。」



弦一郎の手にあるアイスと、弦一郎に手渡され自分の手にあるアイス。

交互に見比べて、「うん!」と静が笑った。



カゴに選んだアイスを入れてレジを済ませると、弦一郎はそれを素早く買い物袋に入れてカゴを戻す。

それを横で見ていた静は、何かを思い出したようにトテトテとどこかへと歩き出した。



「静、どこへ行くんだ?」



問う弦一郎に、「あっち」と指差す静。

その先は、スーパーのサービスカウンター。

受付の女性の前で、静は背伸びをしながら、



「あいすかったから、こーりください!」



にっこりと、そう言った。



「はい、どうぞ?」

「ありがと〜!」

「どういたしまして。」



受付の女性が奥から出してきたビニール袋に入った氷を、静がアイスを入れてある買い物袋に入れる様子を見ながら、弦一郎は密やかに感心していた。

誰かについて買い物に来ることはこれまで何度となくあったが、アイスを買うと氷がもらえるということを弦一郎は知らなかったのだ。

静が家に来る度に母親と仲良く買い物に行っていることは知っていたが、ちゃんとそういうところまで見ているのだと感心したのだ。



「ふふっ、しっかりした妹さんね?」



受付の女性の声に、弦一郎ははっと我に返る。

違う、と否定しようとしたが、血縁・隣人・友人と言葉を探してみても、適切な言葉が見つからないくて、まぁいいかと妥協する弦一郎。

その横で、静は大きな目をさらに大きく見開いた。



「ちがうよ! 静は、げんいちろーお兄ちゃんのおよめさんなの!」

「お嫁さん? そうなの?」



そうなの!と叫ぶ静の声を聞きながら、受付の女性がちらりと弦一郎へとその視線を向ける。

さっきまでの堂々とした態度とは打って変わり、わたわたと静を止めようとする弦一郎の表情に、ふっと微笑んだ。



「可愛いお嫁さんね?」



受付の女性のそんな声に、「う・・・む・・・」と声を漏らすと、弦一郎は静の手を握ってそのままスーパーの出口へと向かう。

その表情は、まっ赤に染まりつつもどこか嬉しそうで・・・

よく分かってはいないが褒められたことだけは理解した上機嫌な静と二人、仲良く手を繋いだまま帰路についた。


























80000hit キリリクでガクプリの真静の許婚設定でした。

ま、まさか、まさか、まさか、またもやこの設定でリクエストいただけるとは思ってもおらず・・・
このような妄想設定をご支持いただけるなんて、嬉しくて涙が・・・(>_<)
ありがとうございますっ!!
許嫁設定でデートっぽい雰囲気で〜ってことだったのですが、こ、こんな感じでいかがでしょうか??汗

こちらは、リクエストくださった方のみ
お持ち帰り可能となっております。
樫水さま、リクエストありがとうございました!!

2010/09/23


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