My dear ...






静の父親が急な出張に出ることになった。

出張の期間は1ヶ月程なのだが、出張先での仮住まいの準備でこの週末だけ一緒に行くことになった母親。

もちろん静も一緒に連れていく気だったのだが、2・3日くらい預かると申し出たのが弦一郎の母親。

どうしようかと迷っていた静の母親だが、娘の喜ぶ姿に、弦一郎の母親に頼むことに。

もう何度目かすら分からない真田家での『お泊り』に、けれど目に見えて喜ぶ静と、ひっそりと喜ぶ弦一郎。

これは、そんな二人の週末1日目のお話。











静が来るのなら約束はしなかったのに、と弦一郎は思っていた。

そんな後悔は役に立たず、約束をした相手にも失礼だと頭を振る。

土曜日の午後。

友達と遊ぶ約束をしていた弦一郎だったが、静を一人(正確には他にもいるのだが)にするわけにもいかず、その友達を家へと招いた。



「こんにちは。」



優しく笑う少年に、静は傍に立つ弦一郎の後ろへ隠れる。

小さな声で、少しどもりながらも、弦一郎の背中からひょっこり顔を出して挨拶をする静。

人見知りをするのか、それでも挨拶をした静にまた笑顔を見せる少年に、静はぎこちなく微笑んだ。



「げ、げんいちろーお兄ちゃん・・・だ、だれ?」

「弦一郎の友達の幸村精市って言うんだ。 よろしくね?」



弦一郎が紹介するよりも先に、少年・・・精市が静と目線を合わせるように少し身をかがめて自己紹介をする。

背後から弦一郎の顔を覗き込む静の頭を、弦一郎は優しく撫でる。

弦一郎のTシャツの裾をきゅっと掴むその様子は、自分を頼ってくれているようで嬉しかったが、けれど怯えているような静に悪い気がして、弦一郎は緩みかけた口元をきゅっと引き結んだ。

そんな様子を見ていた精市が、弦一郎にだけ聞こえるように小声を発する。



「聞いていた通り、可愛い子だね?」

「なっ!?」



驚く弦一郎。

それもそのはず、弦一郎は精市に静のことを話した覚えがないのだ。

「ななな・・・」と、なばかりを漏らす弦一郎。



「なんで知ってるかって?」



こくりと弦一郎が頷くと、「お爺さんから聞いたからだよ。」と精市はあっさりと言ってのけた。

曰く、『可愛い孫自慢』をされたらしい。



弦一郎の祖父弦右衛門と『可愛い孫』だという静に、血のつながりなど一切ない。

だが1年程前に弦一郎の『許嫁』となった静は、弦右衛門にとってもう孫同然なのだ。

本当の孫よりも可愛がっているのではないかと、その孫の一人である弦一郎は密かに思っているほどだ。



「げんいちろーお兄ちゃんの、おともだち?」

「そうだよ。」

「じゃあ、せーいち、お兄ちゃん?」



一瞬思考の飛んでいた弦一郎だが、静のその一言で現実へと引き戻される。

驚きに目を見開く、少年二人。

先に口を開いたのは、弦一郎だった。



「静! 精市は兄ではないだろう!」

「ふぇ!?」



弦一郎の強い口調に、静はその大きな瞳を潤ませる。

お前も兄じゃあないだろう、と精市は苦笑いを一つ。



「静ちゃんは、プリンとか好き?」



あと一歩で決壊してしまいそうに目を潤ませる静の頭を撫でると、精市は優しく微笑みながらそう言った。

突然変えられた話題に、静はさっきまでの事を忘れて、こてんと首を傾げる。



「プリン?」

「そう、プリン。」

「静、プリンだいすき!」



両手を上げて、静が喜ぶ。

喜色満面。

その様子に微笑む精市。



「じゃあ、今日、お土産に母さんの作ってくれたプリンを持ってきたから、一緒に食べようか。」

「うん! ありがとー、せーいちお兄ちゃん!!」



精市の腕を掴んで、ぴょんぴょんと嬉しそうに跳ねる姿に、弦一郎は複雑そうな表情を浮かべる。



「静。 だから精市は兄ではないと・・・」

「そうだね。 静ちゃんは友達のこと、何て呼ぶの?」

「おともだち?」

「『なんとか』くん、とか呼んだりするかい?」

「うん!」

「じゃあ、俺のことは『精市くん』でいいよ。」



精市の言葉に、驚いたのは弦一郎だ。

慌てて精市の名を呼ぶも、本人は気にした様子もなくにっこりと笑っている。



「静とおともだちなの?」

「そう。 俺と静ちゃんはお友達。」

「せーいち、くん・・・?」

「うん。」

「・・・・・・・・・へへっ。」



嬉しそうに笑う静。

精市の名を呼ぶ静に驚く弦一郎だが、その後、静が精市に向かって手を差し出したことにもっと驚いて見せる。

精市は、その手の意図が分からず、軽く首を傾げて静の言葉を待つ。



「おともだちとはてをつなぐって、よーちえんのせんせーがいってたの。」



正確には、並んで歩く時に、『隣のお友達と手をつなぎましょう』と、そう言われたのだが、静は友達と歩く時はいつもなのだと勘違いしているらしい。

すぐにその意味を理解した精市が静の小さな手を握ると、また静は嬉しそうに笑う。

少し前まで人見知りをしていた姿が、まるで嘘のようだ。



「し、静・・・」

「う?」



顔色の悪い弦一郎・・・だが、そんな様子はまだ幼い静には分からず、

ただいつもと様子がおかしい弦一郎の様子に首を傾げながら、



「げんいちろーお兄ちゃんも、て、つなぐ〜?」



そう言って、静は空いている方の手を弦一郎へと差し出した。



そして。



冷蔵庫のあるキッチンまで3人で手をつないで行くことになり・・・

キッチンで夕飯の準備をしていた弦一郎の母親に、不思議そうに首を傾げさせたのだった。


























77777hit キリリクでガクプリの真静の許婚設定でした。

真静に赤也か幸村か手塚を絡ませて・・・ってことだったので、今回は幸村を参加させてみました〜!!

ま、まさか、短文ブログで書いてた妄想設定のリクエストがいただけるなんて思ってもいなかったので、
リクエストいただいた時は、驚くやら、嬉しいやら、嬉しいやら・・・笑

こちらは、リクエストくださった方のみ
お持ち帰り可能となっております。
紗由さま、リクエストありがとうございました!!

2010/09/09


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