1万打 | ナノ








今日、俺のクラスでは調理実習が行われる。


『うわー…エプロン姿でもあんなに美しさ主張できるとか反則でしょ』


このクラスになって初めての調理実習で、名前のエプロン姿だってもちろん初めて見る。

今までのクラスではどうしてたんだろうかと思うが、多分『苗字様に怪我でもさせたら…!』なんて理由で参加できずにいた名前の姿が容易に想像できる。

実際、名前が料理をする姿なんて全く想像できないけど。


(そう思ってたんだけどな…)


『うわ!!名前なんでそんなに魚捌くの上手いの!?』
『煮物の野菜の切り方綺麗…!人参が花形なんだけど…!』
「えっと、両親から教えてもらっただけだよ?」


…そういえば名前のお父さんは料理をする人だって言ってたな。その影響なのか。


「…ジャッカル君?」
「ん?あ、どうかしたか?」
「えっとね、これ味見してもらってもいい?」


そう言って差し出されたのは小さな皿に入った煮物と箸だった。


(…あー…)


「?…あ、もしかして嫌いなもの入ってた?」
「あ、いやそうじゃなくてだな…」


受け取るのを渋る俺に名前が首を傾げていると、その光景をクラスの奴らが笑って見ていた。


『苗字。ジャッカルな、箸苦手なんだよ』
『もうそろそろ慣れるべきだよねー』
「うっせえな!」
「そうなんだ…」


からかう声に反応していると、名前は何か考え込む動作を見せた。


「えーっと、ジャッカル君!」
「ん?」
「はい!あーん」


ニコニコしながら野菜を挟んだ箸の先を口元に持ってきた名前に、思わず固まった。


「……え?」


(いやいやいや…!!これはまずくないか!?)


動かない俺に首を傾げている名前に他意はないんだろうけど…。動かないと名前が困るよな…。


パクッ


恥ずかしさとかの感情を全部無視して食いつくと、名前は嬉しそうに笑った。


「美味しい?」
「…ああ」


正直、味とかわかんねえけど。







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