1万打 | ナノ







--クラスメイトside--

ある日のHR。ざわざわとした空気の中に緊張感のない声が響いた。


「桑原ー、お前今日居残りな」
「は!?なんでッスか!?」
「この間のテスト赤点だっただろ」
「俺だけじゃないでしょう!?」
「他の教科は平均以上なのに国語だけ赤点な奴はお前だけだ。全教科悪い奴はいっぱいいるけどな」
「じゃあそっちから勉強させろよ…」


最もな意見を発したジャッカルに我が担任はにこやかに笑った。


「担任である俺の担当教科だけ落とすなんて、桑原はそんなに職員室での俺の評価を下げたいのかー?」


ああ、なるほど。どうやら嫌味な他の教師からよっぽどグチグチ言われたらしい。

適当だが若くて教え方も上手くて裏表のないこのクラスの担任は生徒に人気がある。それをひがむ教師も多くいるわけで、ちょっと隙を見せれば全力で付け込まれるようだ。


「…そりゃ悪いけどよ、俺部活あるんだけど」
「学生の本分は?」
「…勉強、です」


珍しく機嫌の悪い担任に抵抗することを諦めたジャッカルはこっそりため息をついていた。


「…ま、桑原が苦手教科の国語を頑張っているのは知ってるからな。そんな難しいものは出さないから安心しろ」


苦笑しながら軽く肩を叩いて教室を去った担任に仕方ねえなとジャッカルも笑う。そういう気の抜かせ方の上手さがうちの担任の人気の理由だと思う。


「…しかし国語か…終わるかな」
『別に一人で終わらせなくてもいいんじゃない?』
「は?」


女子の言葉にジャッカルは首を傾げた。そいつの笑顔に、俺はそういうことかと頷いた。


『このクラスには学年1位がいるんだよ?ね、名前!』
「え?私…?」


今までその光景をぼんやりと眺めていた苗字が急に呼ばれたことで驚いた表情をしていた。


『今日暇?ジャッカルに国語教えてあげてくれないかな?』
「ちょ…!名前、別に大丈夫だからな?」
『大丈夫じゃないでしょ。こういう時には友達に頼ればいいじゃない』


頼る、という言葉にピクンと反応した苗字は、恐る恐るジャッカルの顔を伺っていた。


「私でも、いい?」
「え、あ…でも悪くないか?」
「人に教えたりしたことないから、上手に教えられるかはわかんないけど…。それでもよかったら」
「…じゃあ、頼んでいいか?」


少し申し訳なさそうに笑うジャッカルに、安心して嬉しそうに笑う苗字。

その様子を見て、クラス中が笑ったことに2人は気付かない。







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