ざわめきが波のように動いて、間を置いてこの空間に緊張が走る。
彼女の声を、彼女の動作を、誰一人として邪魔することは許されない。
『――この立海大付属中等部にて、3年間の有意義な時が過ごせますよう、先生方、先輩方、並びに保護者の皆様の温かいご指導をよろしくお願いいたします。新入生代表、苗字名前』
桜舞う2年前の4月。立海に特別な風が舞い込んだ日の話。
「緊張したあぁ」
なんで新入生挨拶が私?ただでさえまともには見てもらえないんだから、せめて陰でこそっとさせておいてほしかった。
何も初日から目立つことさせなくてもいいと思うんですけど。
入学式も終わり、教室に入った瞬間に一斉に向けられた緊張した視線は、何度経験しても泣きたくなります。
ぎこちない空気で行われたHRに申し訳なさを感じながら過ごし、解散した後には理事長室に呼ばれなんだか偉そうな先生方に囲まれながら挨拶のお礼を言われ、解放された時には既に校内に学生の姿は皆無。
「立海かあ…。…どこの学校にいても変わらないよね」
誰にも見られることなく歩き回れる新鮮さに、のんびり敷地内を歩き回っていた時のことでした。
「……猫?」
日当たりのいいベンチの上に丸まって眠る茶色の猫の姿。
(や、ばい…!!かわいい!!)
生まれ変わってこの姿になってからは周囲の目を気にして猫と戯れることもなかった私。
猫と一緒にいると自分を見失うことは身を持って体験済みですからね。
そして今、誰もいない、というこの環境が理性を切らした。
恐る恐る手を伸ばすと、久しぶりの柔らかい毛並み。感動で泣きそうになっていると、猫ちゃんの目がうっすらと開いた。
「起こしちゃった!?わ、ごめん!」 『ミャー…』 「…触っても、いい?」
そういうと、この可愛いすぎる猫ちゃんは質問に答えるように顔を私の掌に擦り寄せて来ました。
「か、わいい…!!柔らかい、ちっちゃい…っ」 『ミャー…?』 「猫ちゃんはいつも立海にいるの?」 『ミャー』 「じゃ、じゃあまた来てもいい!?」
私の質問に、ペロッと手の甲を舐めてくれたことに思わず笑みが零れた。
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