>はじめまして! プロフィールみて気になったのでメッセージ送ってみました!
もしよかったら、大人の関係で仲良くしませんか? お返事待ってます(o^^o)♪

「会うのか?」
「馬鹿言わないで会いませんよこんな色ボケじじい。去ね!」

 リユは「せめて顔写真つけてから出直せ!」と吐き捨てながら右手で忌々しそうに端末を扱い、左手はうしろにやって覗き込んでいたおれさまの頬をぺしぺしとはたいて向こうへ押しやろうとした。「ロケット団じゃ出会いがないの、出会いが!」。そう言うリユはやってることのわりに身持ちがかたい。友情から始まる恋人関係に憧れているらしいが、それについては方法を見直せよと何度も言ってやっている。忠告が聞き入れられたことはない。

「こういう輩は若い穴と見なせばとりあえず片っぱしから送ってるんですよ、くだらない。最小労力と流用メッセージで楽して引っ掛けようっていう魂胆がムカつく。プロフィールとかそもそもみてないに決まってる。誠意を見せろ誠意を」
「乙女があんまり下品なこと言うなよ」
「お説教は性根の汚らしいこいつ…に…」
「リユ? どうした?」

 急減速した語気と、はたくのを忘却した彼女の左手。気まぐれに、ぼうっとした左手におれの手を捩じ込んでみても拒絶されない。リユの目は端末に釘付けになっていた。
 再び、背後から覗きこむ。例のメッセージを送ってきたらしい画像なしの男の名前欄には「わたる」と書いてあった。

「……いや、いやいやいや。リユ、冷静になれよ。変な気起こすなよ?」
「で、でもラムダ様…」
「チャンピオンがこんなとこで女を物色してるわけねーだろうよ。よく見ろ、この『わたる』とやらは四十路半ばらしいぞ」
「でも、デートとかきゃっきゃしてるときに相手を『わたるさん』って呼べる…?」
「お前のその拗らせたファン心理、おれさま分かんねえんだよなあ」
「身の程を弁えてるだけだもん。ええ…どうしよう。ちょっと心が揺れてきた。あたし、自己暗示には自信あるんですよね。心が白と号令かければ黒も白になるっていうか」
「粗悪なクスリに手出してねーだろうな…」

 「色ボケじじい」「輩」呼ばわりから一転して「わたるさん」とか呼び始めた部下は、わざとらしくほっぺたに手を添えて悩み始めた。
 ダメだダメだ、許さんからな。たかだか同名ってだけの、ふたまわり以上年下の姉ちゃんに声掛けてくるおっさんだろうが。おれはそんなやつにくれてやるために今まで世話してやったんじゃねーぞ。
 一息でそこまで矢継ぎ早に言って聞かせた。もうちょっと感情込めて、必死っぽく言って引き留めてやった方がこいつは素直に聞くだろうな、とか思ったけれども、リユが完全にその気になってからでは後の祭りなのだ。

「はあ…。やっぱりおれがひと肌脱いで仲人の真似事でもした方が良いんじゃねえか…?」
「あのねラムダ様。ラムダ様のその、差し迫ると急に真っ当な大人ぶってつまんない正論で突撃してくるところ、あたし大好きですよ。変わり身が面白くって」
「リユ」
「怖い顔しないで、ごめんなさーい。ラムダ様に隠れて変な人に会ったりしないから機嫌直して。ついでにGメンが出張ってきそうな任務にあたしも加えて?」
「部隊巻き添えにして危地に陥ってでもチャンピオンと接触したがるだろ、お前」
「わぁばれてるー。えー。それじゃあバイバイ『わたるさん』」

 適当な笑い声をあげてリユは「わたる」からのメッセージを連打して消去した。それから思い出したみたいにけらけら笑って、自分の左手と勝手に繋がれていたおれの右手をぺしぺしとはたく。

「つまんない大人になっちゃうくらい、そんなに過干渉だから、『あのヒラ団員はラムダ様の隠し子』説が罷り通ったりするんですよ」
「なんだそれ」
「パパぁ、あたしお寿司食べたい。食べたい食べたい食べたいー」
「あんまり調子に乗るなよ」

 ぶつくさ言いながらも寿司を奢ってやることになっちまったし、後日隠し子説は加速した、らしい。



∴暗色のよいこ




210712
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