カズヤと



ピリリリリ、と電話が来たのは9時すぎ。
メールですらメルマガや迷惑メールくらいしか来ない俺に、ましてや電話だなんて友人でも一人しかいない。

だいたい1ヶ月に1、2回ペースでかかってくるんだが、俺にカズヤからの連絡を無視する度胸はねぇ。


「もしもし」

『うわ、出た』


そりゃ出るわ。つかそっちから掛けておいてなんだその反応は。
まあいつものことだけれど。


「なんか用か?」

『いや、特にねえよ』

「だろうな」

『暇潰しにな』

コイツからの電話でまともな用事を聞いたことが殆どねーよ。

まあそれでも、こっちとしては大歓迎。
自分から電話なんてできねーからなー…ヘタレで悪かったな、仕方ねえだろ。
まあ特に用事はないといいながらも、いつも二時間はザラだ。ヘタすると3時間以上話すときもある。


『なんか最近のオススメの漫画とかねーの?』

そんな一言でベッドから本棚へと移動する。

お、これとかどーだ。


「サクライとかどうだ?まあまあ面白いぞ」

『えー…お前の基準と俺の基準ちげぇからなー』

ならなんで俺に聞く。
うーん、と渋るカズヤに思い出したように言ってみる。


「そいえばこれトモくんも持ってるぞ」

『読もっかな、今度持ってきて』

「……………お前」

『…言うな、変わり身の早さに自分もヒイてんだよ』

あ、トモくんが読んでるってのは別に嘘じゃないぞ。まあ3年くらい前に聞いた話だが。

トモくんの話題が出ると、驚くほどカズヤはしおらしくなる。


「最近、どーなの?連絡とってんのか?」

『月イチペースでメールしてる』

「月イチかよ……まあ進歩か」

あんまり頻繁に送るとウザがられるだろ、とまるで処女みてーなことをいう。

きっとこんなカズヤは校内の誰も知らねえだろ、そう思うと少しの優越感。


その代償が、俺の恋心だ。
破棄して、ゴミに出した俺の気持ち。
まだカズヤをそこらのダチと同じ様には見れない。…でもまだ好きかと聞かれれば疑問だ。
俺は自分で思ってるより切り替えが早いのかもな…なんて。

必死に言い聞かせてるだけ。


「デート誘えよ、デート!映画とか無難だろ」

『なに見んだよ!ラブストーリーとかムリだろ、よくて洋画』

「トモくん洋画って見るのか?」

『しらねーよ!』


そんなキレるなよ、聞いただけだろ。
俺も出来ないと分かってて、映画に誘えなんて無茶言ったけど。


相変わらずのカズヤにはあ、とため息をつく。
仕方ねぇ、俺のとっておきの話をしてやる。


「俺さ」

『…んだよ』

「失恋したのよな」

『………は!?』

「もう結構経つんだけど」


携帯越しに、驚いただろうカズヤの声。
本人に言うなんて思わなかったけど、コイツは絶対気付かねーだろうから大丈夫だろ。


『…ハハッマジかよ!そんな話初めてだし……ざまぁみろ』

「ざまぁみろってなんだよ」

相変わらず慰めを知らん奴だな。
少し話す気が失せたが、このまま流れてしまうとただの俺の暴露話だ。


「で、色々あって俺はなんにも言わずに失恋が決定したんだよ」

『へー、相手に彼氏でもできたか』

「……まーそんな感じ。だから、俺はお前になんにもアクションせずに終わってほしくないわけ」



淡々とそう告げる。
電話口からは、ふーん…と興味なさそうな返事しか返ってこない。

まあいい。別に気づいてほしいとかじゃねえし。マジで。
俺と同じ思いはしてほしくないっつー俺の勝手なお節介。



『…つか、』

「…? なんだよ」

『テメエを振った女、見る目ねーな…もっといい女探せ』


「……は、お世辞をサンキュ」



女じゃなくて、お前だよバーカ。
いつもふざけてばっかの癖に、不意打ちもいいところだ。
俺もはやく新しい恋見つけてすっげー美人の彼女紹介してやっから、お前も安心して幸せになりやがれ。





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