またカイと




休み時間の教室にチャイムが鳴り響く。
初老のじいさん先生が入ってくるとみんなぞろぞろと席に戻ってゆく。



このじいさん、なに言ってんのかわかんねえんだよなあ……。

つまるところ、いつもはは睡眠の時間になるんだが。


ちょいちょい、と右から指が突いてきた。ん、と振り向くとカイが。


「教科書貸したままだった、見せて」


ちょっと申し訳なさそうに尋ねてくるカイ。
一瞬ニヤけそうになった。あぶねえ。


「どーぞ」


軽く机を寄せると、ぴったり引っ付くように隣にいる。

彼が教科書忘れるなんて滅多にないから、このチャンスはレアだ。



「誰に貸してんの?」

「隣の伊藤。あいつ化学の教科書なくしたらしい」

へー、伊藤くんね。しらねーわ。でもとりあえず伊藤に感謝。



「普段カイ、教科書なんか忘れねーもんな」

「忘れねーってか、ロッカーに全部置いてる」

「は?全部?」

「全部。どーせ部活終わって家帰ったら教科書やら問題集なんか開かねぇからな」


だからかいつも朝テストにひっかかってんのは。再テ受ける方がめんどくさいと思うけど。


せっかく机をくっつけてても、緊張してあんましゃべれねぇ。
近くて顔とか腕とか見られるのは大きいが、あんま見すぎるとばれるしな……



ノートを写している姿をちらりと横目で見る。

綺麗に切り揃えられた後ろ髪と、後ろ髪より少しだけ長めの横の髪。
やっぱかっこいい、男としての魅力がやばい。

俺は身長と比べ筋肉ねえし、ひょろい。
運動は苦手だから仕方ねえ。まともなのは50m走とかくらいだ。



…はぁ、自分がキモい。
男をじっと眺めてる自分を想像するとキモい。
こんなのに好かれたカイも災難だな……まあ自分で言うことじゃねえけども。


そう思いながら横を見ると、すでにカイの表情が消えていた。
つまりどういう状態かと言うと。



「かーいーくーん………別に寝てもいいぞ」

「…や、せっかく見せてもらってんのにさ…」

「俺は気にしねえよ?」


瞬きをしないように必死に目を開けている姿がひたすらに微笑ましく見えた。
…微笑ましいってなんだそんな単語普段使ったことねぇ。大体身長は別だが俺より筋肉が引き締まってるような奴だぞ。


頭で言い聞かせても首は自然にカイくんの方を向いて、目は隅々まで焼き付けるように観察してる。


「もう寝てるし……」

早え。さっきまでちょっと謙遜してたのに。

俺に顔が向くように突っ伏して、閉じられた瞳を確認する。
よし、ちゃんと寝てるな。


「はー……」

近すぎるのも問題だ。やっぱり寝てるのを眺めるのが一番安全。

ノートを適当にとって、隣で微かに寝息を立てているカイの髪を少しだけ触る。



俺ほんとに後ろの席でよかった。
前の方だったらずっとカイばかりを見ているのが周りにばれる。



「ふぅ……俺もねるかなあ………」


眺めてるだけで幸せなんて、俺も懲りずに健気だわ。





*

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