カイと
一番後ろの窓際の席、最近席替えをして得た特等席だ。
なにがいいって、あまり教師の目につかないのと、窓際だから左向いて寝れば寝顔を誰にも晒さないで済むとこ。
あともう一つ、隣の席の奴がちょっといい感じ。
隣を盗み見れば、ペンを握ったまま首が落ちてる。あーあー、ノートにシミ。
そんな光景すらなんか微笑ましい。不思議だ。
「コラ、そこ起きろよー」
あ、注意された。
すると彼はむくりとゆっくり首を上げて、こっちを見た。
「海珍しく起こされてるじゃん」
「ばれたわ」
実に怠そうな声。まあ海は授業の半分は寝てる。それこそ話し掛ける暇がないくらいには。
運動部ってそんなに大変なのか。
「次なに?」
「三井の英語じゃね」
「うわ、やってねー」
三井ってのは英語教師で、予習してないと厄介なやつ。
俺はこれみよがしに鞄からノートを引っ張り出す。
「見る?」
「マジで?助かるわ」
他の奴なら絶対見せないけどな……
海にはなんだか頼まれたらなんでもしてやりたい気分になる。
その感じが何か……
(カズヤに似てる……………)
ほんの3、4ヶ月前に告げることのないまま失恋した訳だけども。進級してクラスが離れたのが、寂しいが救いだ。
でも、もう次は絶対可愛い彼女をつくってやる、と決めた矢先にこれ。俺ホモな訳?つくづく呆れるぜ。
「ありがと、助かった」
「いーえ」
ノートを受けとって、ばれないようにまた観察。
見た目は全然似てないんだけど。目も切れ長だし、身長もそんなに低くないし、ノリも悪くない。むしろカズヤとは正反対だ。
「むむ…………」
ちょっとだけ、飄々とした感じと機嫌悪そうな時は似てるかも。
あとは全然違うな。
「そこ、よそ見してんなよー」
「あ…」
見つかってしまった。
見るぐらい許せようるせーな、となんだか気分がふて腐れた俺は、机に横になって完全睡眠モード。
最近知ったこと。
好きになると、好みやタイプなんて関係ないらしい。
*
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