キスから始まる | ナノ

5





「進むのはいいことだよ」


「……」


「旭は進みたかったんだよ、きっと」


静かな教室に、太陽の光と部活生の叫び声が微かに入ってくる。
黙りこくる俺に、シノは少し笑ったようだった。


「新は頑固だからね」

「…そうかな」

「昔からそうだよ」




「旭も分かってたと思うよ」と言われた。分かってたというのは、俺がこうやって変化を拒むことだろうか。



なにも言おうとしない俺を見越してか、シノはきっぱりと俺に告げた。


「俺は旭を応援するよ」



その言葉に俺は目を見開く。
いつも俺と旭の中間に立っていたはずのシノが、旭に味方するとさらりと告げたから。


「どう、いう意味、か分かんねえんだけど…っ!」

動揺を隠せずに俺は向き直りシノの背中を見つめた。


「旭は昔から俺の何倍も新のことをよく見てた」


その言い草にまた俺の心に刺が刺さったと同時に、まるで以前から旭の気持ちを分かっていたかのような。



「俺と旭が上手くいけばいいって…?」

少しキツい言い方になってしまい、察したのかシノが振り向いて眉を下げた。


「ごめん、そこまでは言ってないよ。ただ」


「ただ?」


「ずっと我慢してきた旭が、報われたらいいなって……」


「………ッ!!」


その言葉はまるで、死刑宣告。
俺はもうなにも言えなかった。

「気分悪くしたらごめんね」なんて言葉も耳には残らず、ただシノが旭と俺の恋路を応援していれしかったという事実が、俺を締め上げた。


旭は俺が好きなんだと、シノは間接的に言う。
友達が報われてほしいとコイツは言う、俺の気持ちも知らないで。





‐10‐


<<||back||>>